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第12章
正義が、人を壊す時
第71話:噂という名の刃
噂は、戦いより速い。
「国家に逆らう融合使用者がいるらしい」
「英雄を装った危険人物だ」
「でも、民間人を守ったって話も……」
王都だけではない。
地方都市、街道、村々。
健の名前は、
本人の知らない場所で、
別の形に作り替えられていった。
「……有名人になった気分だな」
健は、乾いた笑いを浮かべる。
「笑ってる場合じゃないわ」
エリナが言う。
「あなたは今、
“人”じゃなくなり始めている」
健は、言葉を失った。
第72話:守られたくない人々
避難民の集落。
健が現れた瞬間、
空気が変わった。
「……来るな」
誰かが、呟く。
「お前が来ると、
管理局も来るんだろ」
健の足が、止まる。
「俺は……
守りに来ただけだ」
「その“守り”が、
俺たちを危険にする!」
叫び声。
怯え。
憎しみ。
リュシアが前に出ようとするが、
健は、手で制した。
(これが……
正義の副作用)
第73話:象徴の檻
夜。
焚き火の前で、
健は俯いていた。
(俺がいるだけで、
誰かが傷つく)
(俺が動けば、
争いが起きる)
エリナが、静かに言う。
「あなたは今、
“均衡点”になっている」
「動けば、
世界が揺れる」
健は、拳を強く握る。
「そんなつもり……
なかったのに」
「ええ」
「でも、
正義は意図を見ない」
第74話:国家の正義、再定義
融合管理局。
演壇に立つ、カシム。
「野山 健は、
秩序を乱す存在です」
「彼の行動は、
善意に見えて、
結果として混乱を生む」
「よって――」
一拍置く。
「彼を
《反正義存在》
として定義します」
その言葉は、
法となり、
武器となった。
第75話:追撃命令
夜明け前。
健たちの拠点に、
魔力反応が走る。
「来るわ」
エリナの声は、冷静だ。
「今回は、
説得じゃない」
空に、
光の軌跡。
包囲網。
健は、深く息を吸った。
「……逃げよう」
リュシアが、驚く。
「健!?」
「今は、
戦う時じゃない」
それは、
彼にとって――
最も苦しい選択だった。
第76話:壊れる仲間
逃走中。
後方で、爆音。
振り返った瞬間、
仲間の一人が倒れた。
「……っ!」
健は、駆け寄る。
致命傷ではない。
だが――
「健……
来ないで……」
弱々しい声。
「お前のせいで、
俺たちは……」
言葉が、胸に突き刺さる。
(ああ……)
(これが、
人が壊れる瞬間か)
健は、何も言えなかった。
第77話:それでも、離れない者
夜。
人数は、減った。
だが――
ゼロではない。
リュシア。
エリナ。
数人の仲間。
リュシアが、健を見る。
「私は、
あんたについて行く」
「理由は?」
「簡単だ」
剣を握る。
「守ろうとしてるのが、
分かるから」
健は、目を伏せた。
「……ありがとう」
第78話:正義の勝利条件
観測層。
監査官たちの演算は、
新たな段階に入っていた。
「人間社会、
自己分断を開始」
「正義概念の衝突、
加速」
ノクスが、静かに呟く。
「……人は」
「正義で、
自分を壊す」
初めて、
そこに感情の揺らぎがあった。
第79話:人であることの代償
夜明け。
健は、丘の上に立つ。
遠くに、
分断された街。
(守れば、壊れる)
(離れれば、救えない)
健は、空を見上げる。
「……それでも」
拳を、ゆっくり開く。
「俺は、
人でいる」
「正義の道具には、
ならない」
それは、
世界にとって
最も厄介な選択だった。
第80話:次に壊れるもの
エリナが、静かに告げる。
「次は……
思想そのものが壊れる」
「国家でも、
個人でもない」
健は、頷いた。
「宗教か」
「ええ」
正義が信仰になった時、
止める術は、ほとんどない。
均衡は、
さらに深く――
崩れていく。
第12章・了
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