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「ふむ……。ここが人族の最後の砦。最果ての町ノースウェリアか」
魔王――ディノス=レアルノートがそうつぶやく。
「左様でございます。ここさえ潰せれば、人族の全土は我ら魔族のものになります。しかし、強固な結界により守られており、突破が困難なのです」
魔王の側近——イリス=ノイシェルがそう答える。
ディノスとイリスは、飛行魔法を使用して上空からノースウェリアを見下ろしている。
通常であればそのまま侵入もできるわけだが、この町は結界によって守られているためそれは不可能となっている。
「くだらん結界だ。雑兵どもはともかく、四天王の連中ですらこの程度の結界を破れぬとはな」
ディノスが吐き捨てるようにそう言う。
ノースウェリアから少し離れた場所には、魔王軍が滞留している。
結界を突破できず、対応策を練っているのだ。
そしてそこへ、魔王自らが出向いてきたというわけだ。
ディノスが冷めた顔で、闇魔法の詠唱を開始する。
「盟約に従い余に従え闇の精霊よ。我が眼前の障害を滅せよ」
ゴゴゴゴゴ!
闇の波動が高まっていく。
尋常ではない魔力により、大気が震えている。
そして、ディノスが詠唱の最後の一節を唱える。
「ダーク・テンペスト」
ごおおっ!
全てを飲み込むような漆黒の竜巻が発生する。
パリンッ!
竜巻が結界に触れた瞬間、結界はあっさりと崩壊した。
「なっ!? 人族の高位結界師100人以上で貼られたと言われる結界が、こうもあっさり……? 四天王や六武衆の力を結集しても歯が立たなかったのに……」
イリスがそうつぶやく。
「ふん。簡単なことだ。四天王や六武衆を合わせた力よりも、余一人の力の方が上だったというだけのこと。やつらには、せめてこの後の制圧戦で挽回するように伝えておけ」
ディノスがそう言って、町に背を向ける。
「お、お待ちください! 先ほどの魔法をもう1度放てば、人族どもの街をきれいに葬り去ることも可能では……?」
「忘れたか? 余は人族を支配したいのであって、滅ぼしたいのではないのだ。クハハ。せいぜい、やつらには余のために働いてもらうことにしよう」
ディノスが悪そうな顔でそう言う。
「さ、左様でございましたね。兵たちにも、今一度通達しておきます」
「うむ。後は任せたぞ。余は魔王城に帰還する」
ディノスはそう言って、転移魔法を発動し姿を消した。
残されたイリスは、人族最後の町ノースウェリアを改めて見下ろす。
結界は壊されたが、中の兵士や冒険者たちはまだまだ健在だ。
火攻め、兵糧攻め、毒物責め、大規模魔法による爆撃。
それらの手段を取れば楽に殲滅できるが、それは魔王ディノスの望むところではない。
肉弾戦で挑み、適度に加減する必要がある。
もちろん味方の被害を極力抑えた上でだ。
「ディノス陛下もムチャを言う……。まあ、命令だしやりますけどね……」
イリスはそうつぶやき、ノースウェリア近郊に位置取っている魔王軍に向かって降下を始めた。