暗闇の中に、青白い光が揺らめいていた。
どこか懐かしく、どこか遠い記憶のような——そんな光景だった。
セリオは、夢を見ているのだと気づいた。
目の前に広がるのは、人間だった頃の世界。城壁都市の広場、石畳を踏みしめる音、人々の喧騒。そして、騎士として剣を振るっていた自分の姿がそこにあった。
——ああ、これは生前の記憶だ。
そう理解すると同時に、夢の中の自分は剣を構え、目の前の敵を見据えていた。
白い髪のエルフの少女——リゼリアだった。
彼女は、敵だった。
魔族の勢力に加担し、死霊を操る危険なネクロマンサー。王国の命令で討伐対象となった存在。
セリオは、剣を振るった。
その感触も、手応えも、今さら忘れるはずもない。
リゼリアは微かな笑みを浮かべながら、血に染まった自らの身体を見下ろしていた。
「やっぱり……お前は強いのね」
その言葉を最後に、彼女は崩れるように倒れた。
セリオはその場を立ち去った——はずだった。
だが、夢の中の視点は変わらず、リゼリアの身体を見下ろしている。
——違う。
これは、自分の記憶ではない。
それに気づいた瞬間、リゼリアの亡骸が、ゆっくりと動いた。
身体を起こし、淡く光る魔法陣に手をかざす。
「……お前を、私は手放さない」
か細くも、強い決意に満ちた声。
その瞬間、セリオの意識は急激に引き戻され、夢は終わった。
目を開くと、天井が見えた。
寝台の上に横たわったまま、セリオはゆっくりと起き上がる。
「……今のは」
己の記憶ではない。リゼリアの記憶——いや、彼女が見せたものか。
静かな部屋の片隅で、リゼリアが椅子に座っていた。
「おはよう、セリオ」
微笑む彼女の顔を見ながら、セリオは一つ息をついた。
この世界に蘇る前のことを、もっと知る必要がある。
——何故、リゼリアは俺を蘇らせ続けているのか?
その答えを探すために、今はまだ、眠るわけにはいかない。
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