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いじめっ子との騒動から一週間。
りなと澪の日常は、少しずつ“普通”に戻っていった。
でも——
(なんか、距離が近くなった分……逆に怖い)
放課後。
下駄箱の前で澪を待ちながら、りなは胸を押さえた。
最近の澪は優しい。
前より話してくれるし、目もよく合うし、
なにより……
――手をつないでくれる。
それだけで幸せだった。
けど、ふとした拍子に不安が首をもたげる。
(私……澪に合わせすぎてない?)
(もし澪が飽きたらどうしよう)
(またひとりになったら……)
そんな考えが、知らないうちに積もっていく。
「りな」
振り向くと澪がいた。
髪が少し揺れて、制服の襟元がきれいに整えられてる。
「待った?」
「ううん、今来たとこっ」
澪がふとりなの顔をじっと見た。
「……なんか、元気ない?」
図星を突かれて、りなは一瞬言葉を失う。
「え、えっと……」
澪が近づいてきて、少しだけ覗き込むように言う。
「りなは、嘘つくの下手」
「な、なにそれ……!」
思わず顔が赤くなる。
澪は静かに続ける。
「無理してるなら……言ってほしい」
胸がぎゅっとなる。
(言いたいよ……でも、言ったら迷惑かもって……)
「……澪。最近さ……」
言いかけたその瞬間、
廊下の向こうから男の子の声が聞こえた。
「澪ー!これ昨日頼まれたやつ!ノート!」
澪のクラスの男子、翔太だった。
爽やかで、よく澪に話しかける人。
りなの胸にチクッと痛みが走る。
翔太は当然のように澪に近づき、笑顔でノートを渡した。
「ありがと」
澪は短く答える。
ほんのささいなやりとりなのに——
(……なんでそんな、自然に話せるの?)
(私といるときは無表情なのに)
りなの胸がざわつく。
自分でも理由が分からない、苦しい感情。
翔太がりなに気づき、軽く手を上げた。
「あ、りなちゃんもいたんだ」
「うん……」
自分でも驚くほど冷たく返してしまった。
澪がりなの顔をじっと見た。
「……ほんとに元気ない」
「別にっ……!」
りなは勢いよく顔をそむけた。
澪が困ったように眉を下げる。
「りな……?」
声を聞くだけで、涙がこぼれそうになる。
(あぁもう……なんで澪の前で泣きそうになってるの……)
(好きすぎて、苦しい……)
「今日は帰る!」
りなは走り出した。
後ろで澪が呼ぶ声がしたけど、振り返れなかった。
スニーカーが地面を叩く音だけが響く。
(私……恋人でもないのに、なに求めてるの……)
(澪の全部なんて、手に入るわけないのに……)
涙が一粒、頬を伝う。
初めて味わうような
“失恋みたいな不安” が胸を締めつけていた。
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