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次の日、五十嵐とは登校中会うことはなかった。
キーンコーン、カンコーン。
その鐘の余韻と共に五十嵐がやってきた。
藤原「遅いよ、寝坊?」
昨日の二倍酷い寝癖を見て言った。
五十嵐「いや、これ天パなんだよ。今日は午後から雨予報だな。きっと。 」
これにより、五十嵐の天才的な髪質は天気を的中させることがわかるのであった。
朝のホームルーム、担任の佐藤先生が紙を配り始めた。
佐藤「今日から教育相談とか、悩み相談制度を強化します。何かあればこの紙に相談したいことと相談したい人を書いて提出してください。 」
この受験の時期は、三年限定の悩み相談ができる。
その時期が来たということはそれと同時に始まるのだ。
志望校決めが。
このお悩み相談、2カ月に一回強制的に受けなければならない。悩み事を抱えて自殺行為をしてしまう人もいるみたいだし、いい試みだと思う。だけど、悩みを打ち明けるなんてことそう簡単にはできない。逆に言えるもんならいくらでも相談してるさ。
人は人に言えない悩みを抱えている。なぜ言えないのか、面倒とか、どうせわかってもらえないとかを理由に上げたいけど、それ以上にどこか恥じている。こんなことで悩んでると思われたくない。弱みを握られたくない。人に変だと思われたくない。そんな見せられない感情群がやがて隠したいものに変わる。僕だって、言えるもんなら言ってるし。
放課後、僕は部活へと向かった。
五十嵐「よっねえなんかいい部活ない?」
そう言って僕の背中をポンと押した。
藤原「じゃあ僕の部活、くる?」
五十嵐はおうという雰囲気の笑顔を見せたので僕は案内した。
僕が向かったのは美術室だ。
僕は美術部の副部長をしている。
顧問は英語担当の成田先生。本当は美術担任がいるのだが、体調不良で休んだきりだ。なので僕の代はずっと成田先生にお世話になっている。英語の先生とはいえ大学の頃は水彩画などで賞をとったこともあるのだとか。成田先生の描く絵は水彩画特有の綺麗なリアルさと透明感、独自な世界観を持った特別な絵だ。
五十嵐「よろ、成田っち。」
と準備中の成田先生に声をかけている五十嵐。
成田「よろしくお願いします!とか期待してたのに。まあ、よろな、五十嵐。 」
と五十嵐の空気に自然と馴染んでいる成田先生。相変わらずの凄さだ。
早速今日は空の水彩画だ。五十嵐は美術部にある古いもので簡易的な絵の具セットを使っている。
僕は五十嵐と行動しながら場所を決めていた。
藤原「じゃあ、ここにしようか、ね、五十嵐。」
僕が言うと、何と彼の絵は出来上がっていた。
五十嵐「ん?もう移動中に見ながら描いちゃった。ごめんねかぐちゃん。」
何だかよくわからないが、彼の世界が築き上げられているような絵におどろいた。
それはうまいとか凄いとかでは表せないほどの何か。成田先生と同じ特別感を感じた。
帰り道、話していると
藤原「ねえ、絵すごいうまいね。どっかで習ったの?」
五十嵐「そんな習ったなんて。でも、おれの親父画家なんだよね、だから小さい頃から描いてはいたけど。」
藤原「へえ!画家なんだ。どおりでうまいわけだ。」
五十嵐「今、何でそう思った?」
藤原「え?」
五十嵐「何で親がそうだから俺もそうだと思った?」
五十嵐の表情は真剣で、何だか地雷を踏んでしまったのではないかと思い、
藤原「ごめん、気に障ったなら謝るよ。」
だが、答えは違った。
五十嵐「ううん、別に怒ってない。けど親と子じゃ育ち方が違う。まず、育てた人が違うんだから。得られたものは才能もあるのかもしれないが、俺はそれ以上に努力もあると思っている。 」
そう言われて思い出した。
僕も、親もプレッシャーに応えたくて、必死に努力した。勉強から何まで。いい子であることにこだわった。だけど、みんな親がよかったとか、遺伝だとか言って僕を見なかった。
僕は嫌だったと言うことを忘れていた。
そしてまた、分かれの交差点で分かれる。
第五話へ続く