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※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません。
—201X年。
高校1年の春休み最終日。
この日私は1年の時に仲の良かったメンバーと遅い時間までカラオケで盛り上がっていた。
昨日から両親は夫婦水入らずで旅行に出掛けているので、少し羽目を外して遅い時間まで遊んでいた。
カラオケ店の前で解散をして、閑散とした商店街を見回す。
すでにほとんどのお店が営業時間を終えてシャッターが閉まっていた。
中学の頃から仲良しの 萌(もえ)とは、家も近く、私たちは並んで歩き出した。
少し歩いたところで明かりが目に入る。
そこは、この商店街では珍しく営業時間が長い本屋さんだった。
その前を通り過ぎた時、萌が思い出した様に声を上げた。
「あ!今日“ センセーに恋して”の発売日だったの忘れてた!寄って良い?」
「うん、いいよ」
二人で本屋に入ると、萌は新刊コーナーから今日発売の所謂“ 先生と生徒の恋愛モノ”の少女漫画を嬉しそうに手に取った。
「萌ってこういう少女漫画好きだよね」
「うん! すっごい好き!特にこの漫画の先生めっちゃカッコイイから!」
興奮気味に漫画の表紙のイケメンの男キャラを指し示した。
「確かに絵はカッコイイと思うけど、設定がなぁ……」
「本当、 花梨(かりん)ってこういうの嫌いだよねー。先生と生徒の禁断の恋ってところがまたいいのにー!」
「えー?だってさぁ、こんな若くてイケメンの先生なんて実際いなくない?」
「何故そこで現実的になる?」
「もし、いたとしても先生なら絶対口うるさいし!あー!もう!一年の時の担任思い出した!」
「あぁ、 石松(イシマツ)ね……。確かに奴が担任だったのは運が悪かった……。二年は原ちゃんのクラスがいいなぁ」
「原ちゃんはいいよね!もう、うるさいジジイのクラスやだー……私も原ちゃんのクラス希望」
女子の会話特有の最初の話の話題からどんどん離れていく会話を繰り広げながら、萌が漫画のお会計を済ませて、二人で本屋さんを出る。
さっきもああ言っていたけど、私は 先生と生徒の恋愛モノは、全く興味がない。
一年の時の担任が最悪だったせいもあるけど、私は普通に歳の近い男女の恋愛の方が憧れるし、読んでいて楽しい。
先生と恋なんてありえないし……。
「じゃあ、また明日学校でねー」
「うん!また同じクラスだといいね」
萌と分かれ道で分かれて、そこからは一人で家に向かって歩く。
少し暗くて人通りも少ないけど、いつも通っている道だし怖いとかそういうのはない。
そうだ。小腹空いたし、途中のコンビニでパンでも買って帰ろうかな。
そんな事を考えながら、何となくコートのポケットの中のスマートフォンを握り締めて歩いていると、視界にキョロキョロと辺りを見回している男の人が入って来た。
こんな住宅街でこんな時間に何か怪しいんですけど……
さっさと通り過ぎよう。
そう思って足を早めると、キョロキョロしていた男の人から、妙な視線を感じた。
う……ジッと見られてる?
夜だし、人通りの少ないし、やはり少し怖い。
こっち見んな!
心の中でそう叫びながら早足になると、その男の人はこっちに向かって来た。
「すいません…」
「 はひッ!?」
まさか声掛けられると思っていなかったので、動揺して変な声が出てしまった。
「あ、不審者とかそういうのじゃないですから!」
「は…はぁ?」
警戒しながらその人を見る。
背が高かったので大人の人かと思っていたけれど、よく見ると案外若そう……と、いうか同い年くらいに見えた。
街灯の明かりで暗いけど、何となく見えた顔が自分の好みだったのもあって、それだけで警戒心が弱まる馬鹿な私。
「えーっと。家の用事で初めてこの辺来たんですけど、一緒に来てた家族とはぐれてしまいまして……この辺同じ様な道で迷ってしまって……。あ、そう!ケータイ!ケータイも家族に預けたままで……」
その人は一生懸命自分の状況を伝えてくれようとしている。
こういう詐欺……とかじゃないよね?
「つまり……迷子って事ですか?」
「はぁ……つまりそういう事か……はい、迷子です……」
その人は溜め息をつきながら、顔を押さえていて本当に困っている様だった。
迷子ってどうすれば……こんな所で会った見ず知らずの人にケータイ貸すのも怖いし。
その時コンビニの横に交番があるのを思い出した。
「あ、そしたら交番案内しましょうか?ちょうど交番の隣りのコンビニに寄るつもりだったので」
「マジッすか!?あー!助かった!ありがとうございます!」
その人の安堵する様子を見ると、本当に不審者では無さそうで何となく安心した。
交番まで口で説明すれば良いはずなんだけど……
うん……。やっぱり、相手の顔が自分の好みだとしっかりと案内してしまうよね。
ついつい並んで歩きながら交番に向かう。
最初はやっぱり警戒もしていたけれど、その人は気さくに話し掛けてくれながらも、ちゃんと私と適度な距離を取って歩いてくれた。
「え?じゃあ、俺達タメって事?なら、敬語止めるわ」
「良いけど……。っていうか、明日から高二の男子が迷子?」
もうその人と、打ち解け始めていた私は笑いながらそう言ってからかった。
「う、うるせー!この辺初めて来たんだから仕方ないだろ!」
「ふふっ……何でこんな時間にこんな所で迷子になってたの?遊びに来たなら駅前で迷子になるならわかるけどさ」
「夏休みに、今戻れなくなったこの辺の家に引越すからな。仕事終わりの親父と車でまだ作りかけの新築の家を見に来たんだ」
「あぁ!なるほどね……」
と、いうことは夏から同じ地域に住むって事かな。
「二学期から同じ学校だったりしてな?」
「どうだろうね?中学だったら一緒だったかもしれないけど、高校は学区とか関係ないし」
「……何て名前の高校?言いたくなかったら言わなくてもいいけど」
その人は少し間を置いて、声のトーンを低くしてそう聞いて来た。
今日偶然初めて会って、こんな少ししか話していない名前も知らない相手なのに……少しトクンと胸が鳴った。
「“星高”……」
「星高?略称じゃなくてさぁ……ま、いいや。後で調べてみる。どうせ、この辺高校だったら候補に入るだろうし」
「ん……。 ほら、着いたよ!そこ交番だから!」
もう少しこの人の事知りたいと思ってしまった……。
こんな出会い方して、そんな事思うなんて……恋に飢えててガッツいてるみたいで恥ずかしい。
「おう、ありがとう……あーっと……遅いし、家まで送ろうか?」
「家近くだからいいよ!それに、また迷子になるよ?」
「それはそうだけど……」
私もその人も何となくコンビニの前で立ち止まって、黙っていた。
連絡先とか聞いて、もう少し話したいな……何て思ってるのは私だけかな?
*つづく*