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東雲先生に2回?恋した理由

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東雲先生に2回?恋した理由

2 - 第2話 運命の恋が始まりかけて終わった理由

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2021年10月06日

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連絡先を聞きたいけど……。

勇気出ない……。

なかなか勇気を出せないでいると、その人が「あー」と、呟いて言葉を続けた。

「な、名前……いや!ちょっと待ってて?えーっと……何か書く物持ってる?」

その人は自分のパーカーのポケットに手を突っ込んで、レシートを取り出すと、空中に書く素振りをしながらそう聞いて来た。

「うん?ちょっと待ってね!」

私は急いで鞄の中にあった手帳からボールペンを引き抜く。

それを手渡すと、その人はすごい速さでレシートの裏に文字を書いていった。

「これ……。俺のSNSのIDだから。もし嫌じゃなかったら連絡して……。それからお互い自己紹介しよう?」

「えっ!?……あ、あのっ!うんっ!」

少し驚きながらも、急いで返事をした。

「だ、誰にでもこういう事してるわけじゃないからな!?」

「ふふっ!わかった!……絶対連絡するね!」

「……おう。待ってる」

やばい……私、今顔真っ赤だ……。

暗くて良かった……。

ちらっと見ると、その人もこういう事には慣れていなかったみたいで、顔を隠す様に横を向いてしまった。

コンビニの明かりでさっきより顔が見えるけど、結構カッコイイかも……。

そんな事を考えていると、カチャンという金属音がして、交番の方で動く人影が見えた。

「あ、ほら!お巡りさんパトロールに出ちゃうかも!早く行った方がいいよ!」

「あぁ!じゃあ、気を付けて帰れよ?」

「うん!またね!」

その人は交番の外に出て来たお巡りさんの元へと走って行った。

交番に入って行くまで見送っていると、その人は一瞬こちらを振り返って、手を振ってくれた。

私も手を振ってそれに応えると、彼はニッと笑った。

その一瞬の笑顔に、また胸がトクンとなる。

冷たいはずの春の夜風が、何故か今は心地良い……。

はぁ……。

やばい……こんな出会い方もあるんだなぁ……。

そう思いながら、手元のレシートに書かれた文字を見る。

男の子の字ってこんな感じなんだ……初めてちゃんと見た気がする。

まじまじと見ていて、はっとする。

あ、そうだ!忘れない様に……今、IDの登録しちゃおう!

慌ててコートのポケットからスマートフォンを取り出そうとすると、突然強い風に煽られてレシートが手から飛ばされてしまった。

あっ!!

急いで飛ばされたレシートを拾いに行くと、コンビニから出て来た人にぶつかった。

ドンッ

「わっ!ごめんなさいっ……」

「失敬……ん? 小日向じゃないか!」

顔を上げると、何と………

一年の時の担任石松……。

「 こんな時間に1人で出歩いているのか!」

「いえっ!その……えーっと! 塾です!」

うちの学校では、22時以降は塾以外で保護者同伴なしでの外出は禁止されている。

つまり、夜遊びは禁止という事。

先生にバレなきゃ大丈夫だし、生徒はその校則をあまり守っていなかった。

実際、先生に見つかるなんてほとんどないわけで……

すっかり油断してた。

「塾?何処の塾だ?通塾の届けは出ていないぞ!全くこんな時間に一人で出歩いて危ないじゃないか!それに、明日から新しい学年で新学期が始まるというのに、緩み過ぎじゃないのか? クドクド……」

ああぁ!始まってしまった!

そんなことより、早くレシート拾わないと……

あ!あんな所に!

「 先生!ちょっと!ちょっとだけ!待ってもらってもいいですか!?」

「何を言って…… コラ!小日向!何処に行く!?」

私は石松を振り切って、飛んで行ったレシートの所へ走った。

すると、レシートはうまい具合に枯葉と絡んで、誰かがポイ捨てをした火の残っているタバコによって焦げ始めていた……。

嘘でしょ!?

慌てて拾い上げるも、書かれていたIDは解読出来るか怪しい状態になっている。

そうだ!もう一回聞こう!

バッと交番の方を見ると、お巡りさんもあの人もいつの間にかいなくなっていた……。

「……」

「 小日向!何をしているんだ!聞いているのか!」

「 ……うるさい!馬鹿っ!」

「 んな!?何だその態度は!!」

石松より何より……レシートのIDに必死で、石松に暴言を吐いた事も忘れて、ただただ私は家に向かって半泣きになりながら走っていた。

家に着いてから洗面所で急いでレシートの焦げ目を洗い流すけど、 その行為でレシートは破れてしまって解読は完全に不可能……。

最悪……。

突然始まりそうだった恋の予感は呆気なく終りを迎えた。

明日最悪の気分で新学期が始まる……。


次の日の朝。

沈んだ気分のまま登校すると、新しいクラスの表が貼り出されている掲示板の前から萌が満面の笑みで走って来た。

「花梨!おはよう!今年も同じクラスだよ!」

「おはよう……うん……嬉しい……」

「ちょっとー!元気なくない!?」

「うぅーー!あのね……。100年に一度あるかないかの恋が昨日始まりかけて……終わりました……」

「どういう事!?昨日私と分かれてから何かあったの?教室で話聞くよ!」

「うん……」

とりあえず私達は新しいクラスの教室に向かう事にした。

自分の席に鞄を置いて、教室の1番後ろの窓際に寄り掛かりながら、萌に昨日あった出来事を話した。

「何それー?ナンパじゃん!」

「違う!ん?違わないけど、違うもん!」

「まぁ、私もその状況だったら連絡するけどね!ただし、イケメンに限る!」

「ただし、イケメンだったんだよ!あ、気になったのは顔だけじゃないんだよ?何ていうか……話してて居心地良かったっていうか……」

「気になるキッカケは顔でも全然いいと思うけど?好みがあるんだしさ!」

気になったのは顔だけじゃないという事を強調すると、萌にも伝わったようで少し安心した。

「そっか……あー……あんな出会いもう絶対にないよ!」

「その人夏休みに近所に引っ越して来るんでしょ?そしたら、また会えそうだけどね」

「……会えるかな?」

「また会えたらすごい運命的じゃん?……それよりさ、石松の方平気?そのままにして帰っちゃったんでしょ?」

「…… ああぁー!すっかり忘れてた……呼び出されるかも……今年の担任誰?」

「新しい先生っぽいよ?ヒガシグモ?とかいう名前だった!ちなみに、原ちゃんは隣りのクラスー」

「えー?原ちゃんじゃないの?知らない先生かぁ。ヒガシグモ?何か変わってる名前だし」

「本当にそう読むかわからないけどね」

「 お前等、担任の名前も読めないの?頭弱過ぎじゃね?」

私達の会話に突然図々しく入って来たのは、去年も同じクラスだった 山田(やまだ)宏輝(こうき)。

まさに残念イケメンとはこの人!というのに相応しい男子だ。

「げー……山田……また同じクラスなの?」

萌は本当にウザそうな顔をして、山田にそう言い放った。

山田は顔の作りだけは、整っててモデルや男性アイドルグループなどにも入れそうなくらいなのに、色々残念……。

「『げー』って!俺の扱いひどくね?」

「ウザい絡み方してくるからじゃん」

「それより山田。新しい先生の名前なんて読むの?」

大体このやり取りが始まると、終わらなくなるので、私達に読み仮名を教えたくてたまらなそうな山田に敢えて問いかけた。

すると、山田は得意げな顔をして、私の顔の横に手をつくとゆっくりと私の顔を覗き込んできた。

「教えて欲しかったら俺の事“こうちゃん”って呼んでみ?ん?」

「……顔近くて気持ち悪いんだけど」

私は山田の顔を手の平で押して、引き離した。

「花梨、そんな奴に聞くよりスマホで検索した方が早いよ」

「あ!そうだね!東に雲だっけ?」

「ちょっ! シノノメ!シノノメって読むんだよ!」

スマホで検索しようとすると、山田は慌てて私のスマホを掴んでデカイ声でそう言った。

「へぇ。あんまり聞かない名字だね」

「東雲先生かぁ!読み方が難しい名字で、イケメンとかだったら何か良くない!?」

萌は少し興奮しながら同意を求めてきた。

「もうイケメンだったら何でも良いんじゃん!男かどうかもわからないのに……」

「なぁ、花梨!何で俺が東雲って漢字読めるかっつーとな?スマホゲームの超レアキャラで東雲クレアっていうすっげぇ可愛いキャラがいてさ!それが花梨に似てて…」

ガラッ

山田がごちゃごちゃ何かを言っていると教室の扉が開いた。

すると、背の高い男の人が教室に入って来る。

「あ、先生じゃない?花梨、席戻ろ!」

「うん!」

「 オイ!聞けって!」

「 山田うるさい!」

私は山田を押し退けて、萌と席に戻った。

萌とは、名字が私が 小日向 (コヒナタ)で、萌が 小西(コニシ)なので、毎回前後の席になる。

中学の時も出席番号が前後だったので、それがキッカケで私達は仲良くなった。

先生と思われる人が教卓の前に立った。

「花梨!ヤバいかも!イケメン担任来た!しかも、眼鏡男子じゃん!」

前の席の萌はこっちを向いて、興奮しながらも小さい声で言った。

「え?」

新しい先生にあまり興味のなかったので下を向いていた私は、萌の声につられるようにして視線を上げた。

確かにかなりカッコイイ……しかし……アレ?

東雲先生を見ると、なんとなく違和感。

私……東雲先生と、何処かで会った事……ある?



*つづく*

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