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それは、放課後のことだった。
「日向さん、少し時間あるかな」
担任に呼ばれて、
まどかは職員室の奥の席に座った。
周りでは、先生たちが書類をめくる音を立てている。
いつもの場所。
いつもの匂い。
なのに、その日は少しだけ息がしづらかった。
「実はね」
担任は、机の引き出しから一通の封筒を取り出した。
白くて、厚い。
見覚えのある色だった。
「鈴蘭学院から、
推薦についての連絡が来ているんだ」
言葉が、ゆっくりと落ちてくる。
「……推薦、ですか」
「うん。正式な、特別推薦」
担任の声は、落ち着いていた。
まどかだけが、取り残されている。
「どうして、わたしなんですか」
気づいたら、そう聞いていた。
担任は一瞬だけ、言葉を探すように視線を外した。
「成績もいいし、
生活態度も安定している。
それに……」
「それに?」
「“問題を起こさない”」
その言葉が、胸に引っかかった。
「鈴蘭学院はね、
学力以上に、
“適性”を見る学校なんだ」
担任はそう続けた。
「日向さんは、
空気を読むのが上手い。
周りと衝突しない」
褒められているはずなのに、
まどかは、なぜかうつむいた。
それは、
選ばれる理由として、
少しだけ怖かった。
「もちろん、強制じゃない。
家に持ち帰って、
ゆっくり考えていい」
そう言って、
担任は封筒を差し出した。
まどかは、両手で受け取った。
重さは、紙の重さ以上だった。
帰り道、
まどかは封筒を鞄から出さなかった。
見てしまったら、
戻れなくなる気がした。
鈴蘭学院。
噂の中の学校。
姉が通う場所。
それが、
自分の名前を知っている。
家の前に立って、
まどかは深く息を吸った。
この扉を開けたら、
日常が、また少し動く。
そう分かっていても、
足は自然に、前に出ていた。