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自分の部屋に戻って、
まどかは鞄を床に置いた。
しばらく、そのまま動かなかった。
担任から渡された封筒は、
まだ中を見られていない。
白くて、きれいで、
触るのが少し怖かった。
机の上に置いて、
深呼吸をひとつ。
ゆっくり、封を切る。
中から出てきたのは、
厚みのある資料一式だった。
表紙には、控えめな銀色の文字。
鈴蘭学院 入学案内
飾り気はない。
でも、どこか断れない雰囲気があった。
ページをめくる。
「建学の理念」
「学院の歴史」
「生徒の品位について」
どの文章も、
丁寧で、やさしくて、
同時に、逃げ道がなかった。
“自覚を持つこと”
“ふさわしさを身につけること”
そう書かれている。
写真のページ。
整えられた庭園。
静かな廊下。
笑顔の生徒たち。
誰も、声を上げていない。
誰も、ふざけていない。
楽しそうなのに、
音がない。
制服のページで、
まどかは指を止めた。
紺色のブレザー。
見覚えがあった。
朝、玄関で見送る姉の制服。
同じ色。
同じ形。
なのに、
それを着ている自分が、
想像できなかった。
資料の最後。
小さな文字で、こう書かれていた。
本学院は、
生徒一人ひとりの人格形成を重んじ、
途中退学を前提とした制度を設けておりません。
まどかは、
その一文を、何度も読み返した。
噂が、
紙の上で、静かに肯定された気がした。
資料を閉じて、
机の上に置く。
鈴蘭学院は、
もう、知らない学校じゃない。
名前があって、
規則があって、
制服があって、
自分を待っている。
そう思った瞬間、
胸の奥が、少しだけ冷えた。
ドアの向こうから、
姉の声がした。
「まどか、ごはんできたよ」
「……うん、今行く」
返事をしながら、
まどかは資料をそっと閉じた。
まだ、決めていない。
でも、もう見てしまった。
それだけで、
前とは同じじゃいられなかった。