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町の灯りは遠く、家々の窓から漏れる明かりだけがぽつぽつと闇を照らしていた。
遠くの道を一台の車が通り過ぎる音がして、それきりまた静けさが戻る。
最近やっと降り始めた雪も今では当たり前のように降り続いている。
そんな雪は音もなく降りて、それはまるで世界ごと眠りに落ちているみたいだった。
今日は12月25日。 クリスマス 。
クリスマスとは思えないくらい静かなこの町、この家、この部屋にいる俺達の時間はゆっくりと降る雪のようだった。
rd「ぺいんと」
雪は細かく降り続けていた。
外を見ると山の木々には雪が覆いかぶさってこり、なかなかに美しい景色があった。
外の白さに照らされて部屋はやけに静かで、ただただ時間だけがゆっくりと流れていくのを感じた。
そんな中でぺいんとはいつもよりもぼんやりしていて、視線がどこにも定まっていない。
声をかければ反応はあるけれど、少し遅れていて、それはまるでどこか夢の中にいるような調子だった。
rd「手冷たいね、寒いかな」
pn「……. うん 、 」
rd「うん、じゃあストーブも付けるね」
pn「….」
rd「昨日あんまり眠れなかった?」
pn「…..、 ううん、」
rd「そっか、良かった」
ぺいんとの瞳はいつものような透き通りを失って少し汚れたビー玉のようだった。
声も掠れていて細く、もうあの頃のような明るい声色を聞けないのかと思うと辛い気持ちで胃から何か出てきてしまいそうだった。
rd「最近体調崩してばっかりで疲れちゃってるのかもね、ゆっくり休もうか」
俺のその発言にぺいんとは返事をせず握っている手がぴくりと少し動いただけだった。
rd「今日はクリスマスだよ、一緒にどこか行きたかったけど….来年行けばいいよね」
俺はずっとぺいんとの前で平然を装っているつもりではあるが内心全くそんなことない。
呼吸が少しでも乱れたら崩れてしまいそうなくらいだった。
ぺいんとの手に入っている力が少し弱くなって、それと同時に俺の不安も積もるばかりだった。最近は俺もぺいんともろくに食事もとれていない。
少し前まで当たり前だったことが当たり前じゃなくなることが増えてきて、その度に俺は心に何かを刺され、何かが零れているような感覚に陥っていた。
rd「ねぇ、ぺいんと」
rd「ちょっとだけ懐かしく感じる話をしよっか」
rd「俺達が出会った日のこと覚えてる?」
あの時は確か緑の葉が当たりを染めていた季節だったかな。
春と夏の間の5月の風は温かいけど少し涼しくて心地いいよね。
俺が久しぶりに気分転換がてら寄った図書館で俺達は出会ったんだよね。
高いところにある本が取れなくてすごく頑張ってたの可愛かったなぁ…まさか本が降ってくるなんて思ってなかったけど。
でも今思うとあれが無ければ俺らはこうして一緒にいる未来がなかったかもしれないからありがたいことなのかもしれない。
rd「ぺいんとが毎日セレクトしてくれるカフェも美味しかったね」
pn「….. うん 、」
rd「お泊まり会とかも懐かしくない?
俺がぺいんとに告白して振られたやつね 笑ヾ」
rd「俺断られると逆にやる気でるからちょっと感謝してる 笑ヾ」
pn「ふふ、」
ふわっと笑うぺいんとの表情は口だけ笑っていて目は変化がなかった。
段々と遅くなっていくぺいんとの返事がやけに目立ち、それと同時にストーブのぱちぱちと言う音が耳によく入るようになった。
それを意識してしまえばもう終わりで、この沈黙が落ち着かなくなってしまう。
そんな不安を紛らわすようにぺいんとを優しく抱きしめて深呼吸をする。
rd「ッ … 、」
pn「 ッ 、 らぁ ….」
rd「ッ ん? …. どうしたの 、?」
pn「日記……の 、 最初の、ぺーじ … 、」
rd「日記?」
俺は肌身離さず持っている日記を取り出し言われた通りに最初のページを開く。
pn「….. ッ これ 、」
rd「….ずっと集めてたの? すごい …」
ぺいんとの震える手が俺の日記に触れれば表紙の裏のポケットから写真が出てくる。
一緒に図書館で撮ったツーショット、カフェの写真、一緒にアイスを食べた写真、お泊まり会の写真….写真の裏には必ず日付が着いてあって今に近づくにつれて無くなっていくツーショットが少し悲しかった。
rd「ありがとう、こんなに沢山」
太陽は気づけば朝と反対方向に傾いて見えなくなりかけてしまい、クリスマスの1日も終わろうとしていた。
都会ではイルミネーションがキラキラしていて、そこで写真を撮るカップルがたくさんいる景色を大勢の人が見ているだろうけど俺らはそんなの気にしたもんじゃない。
田舎のこの静かな町で静かに呼吸し、静かに微笑み合う。
その一瞬一瞬が幸せそのものだった。
rd「ぺいんと?大丈夫?」
pn「…..、」
rd「俺がそばに居るから、ぺいんとは大丈夫だよ」
返事がなくても、視線が会わなくてもぺいんとの瞳に俺が写ってると信じて声をかけ続ける。
ぺいんとの口が少し開き、何か話そうとしているのを感じて耳を少し近づけた。
pn「……. 、 だい 、 … すき 、」
そう言って微笑むぺいんとを見て俺もだよ、と言って髪の毛に唇を落とす。
ぺいんとの表情からは俺の行動に満足そうにしているように見えた。
今日一幸せそうな笑みをしたまま彼は瞼を閉じて眠りについた。
クリスマスの夜も無事に終わった。
コメント
4件
おっふ……もう泣きそう😭なんでこんなに感動というか上手く書けるの?!やっぱり表現の使い方がすきだなぁ………写真集めてたのいいな。