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「……はい、そうなんです。作り過ぎてしまって。どうです? 折角来てくださった訳ですし、よければ召し上がっていきませんか?」
この女……予想していたよりも強い。
私は正直、この高月玲奈という女を下に見ていた。晃一との浮気が果たして、どちらから始まったものなのかは不明だが、どちらにせよ、既婚男性と関係を持つというのは悪以外の何者でもない。
だから、私が急に家に押しかければ、弱腰になるだろうと、そう読んでいたのだが……。
「そんな……でも、本当に良いんですか?」
「はい、もちろんです。晃一さんが普段、家ではどのような人なのかも先輩として気になりますし……」
「では、お言葉に甘えさせていただきます」
「ふふっ、良かったです。少々準備がありますので、それまでどうぞ、くつろいでいてください」
高月玲奈は立ち上がり、台所の方へ向かった。すぐに背を向けられたので、その口元が強張っていたのか、それとも笑っていたのかはわからなかった。
深呼吸をする。手汗がひどい。まるで、将棋名人と対局していたかのようだ。
私は確かに今日、始めから、この女の夕食をいただくつもりでいた。どう難癖をつけてでも、そこへ行き着くつもりでいた。しかし、このように向こうから仕掛けてくるとは予想外。
開幕の狼煙を上げるつもりでいたというのに、高月玲奈からすれば浮気を始めた時点でそれは既に終わっていたというのか――。
確信がある。先程からの言動や立ち振る舞い、この女は今私に銃口を向けている。勝負を挑まれているのだ。完全に誘われている。
引き金の弾けるような音がする。食器が並べられた。
「お待たせしました。カチャトーラになります」
いいわ……やってやる!
突きつけられている銃口。風は砂を運ぶ。一刹那の隙をくぐり、地面に転がっていた剣を拾う。高月玲奈と久我美蘭、二人は笑みを浮かべる。一コンマの違いなく同時に、玲奈の頰を美蘭の頰を、刃が、鉛が掠め取った。
私は丁寧にナイフを取ると、女をただ見つめた。
「いただきます」