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フォークを突き刺し、唇へ運ぶ。
私たち二人は争いをしながらも、互いに表面上ではただの食事を行った。「美味しいです」と言えば「お口に合って良かった」と返ってくる。そんな他愛のない様子見をもう六往復はしただろう。言葉が無くとも、頃合いが来たことがわかった。
「今聞く事なのかはわかりませんが。美蘭さんはなぜ、この住所を知っていたのですか」
遂に始まった。今までのとは明確な違いを持った問い。今回も先に仕掛けたのは玲奈だ。この争いの主導権を握ろうとしている。
「ああ、そうですよね。すみません。突然来たのですから、怯えてしまいますよね。
実は先日、夫と喧嘩をしてしまいまして。同僚の方のお宅に、泊まらせていただいているらしいんですよ。それで探していて……住所はこの前に伺った方に聞きました」
嘘だ。この女以外の家になど行っていない。必要が無いからだ。
夕方に私は、コンビニで雑誌を立ち読みしているフリをし、二人が一緒に歩くのを見た。そして、そこからその足取りを追った。もうこの家にいることは確実。
クローゼット、その中にいるのでしょう? 晃一。
「……っ。へぇ、喧嘩ですか。何だか意外です。会社では常に無難って感じなので。あっ、別に悪い意味ではありませんからね……!」
焦ったように言う。口に含んだものを飲み込んでからの、次の一口が明確に遅い。
失言だな。いや、私が失言と感じたのは晃一への無難発言では無い、初めに言いかけた言葉の方だ。上手く誤魔化そうとしていたが甘い。
まずは一勝。
私がなぜ嘘をついたと思う? 別の同僚から住所を聞いただなんて、すぐにバレるであろう嘘を―。単純な話だ。この嘘こそが私をのし上げ、この争いの主導権を握らせるものだからだ。
高月玲奈。彼女を様子見し、分析させてもらった。彼女は無駄が嫌い。そして、負けず嫌い。会話が最小限である事や、姿勢を変えない点からも、それらがよくわかるだろう。
そもそも、この争いにおいて私の立って いる場所は浮気をされた被害者。つまりは、どう転ぼうと負けは絶対にない。彼女がどう動こうとだ。あの嘘はそれを知らしめる威嚇。
まず崩すのは、その揺るがない姿勢――プライドだ。