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俺は立ち止まった。引き留められたのが嬉しかったから。
「俺のこと置いてかないで…」
俺はただ、立ち止まってた。分かってる。多分これは″春人″に向けた言葉だ。俺に対しての言葉じゃない。
分かってるのに。何故か足が動かない。
「俺の事、1人にしないでよ…」
「…っ」
あぁ。クソ。しょうがねぇな。
俺は振り向いて、冬馬を抱きしめた。
「大丈夫。俺は、どこにも行かねぇから」
冬馬が苦しいなら、俺が助けてあげたい。春人のことなんて忘れるくらい、俺が愛してやればいい。いつか、ちゃんと俺の事見てくれるまで俺、頑張るから。だから。
「大丈夫」
それから俺は冬馬と色んな所に言った。遊園地とか水族館とか。春人とは出来なかった事を俺がやってあげたくて。
″春人くんだったら良かった″って言葉を塗り替えたくて、何回も抱いた。たくさん愛をあげた。
だけど、冬馬はいつまで経っても俺をちゃんと見てくれなかった。ずっと心の中に″春人″がいるから。
もう一つだけ、春人としてない事がある。
それは、″恋人″になる事。俺は冬馬の恋人になりたい。
だから俺は覚悟を決めて気持ちを伝えたんだ。
冬馬とソファーに座って、スマホいじってる時に。
「冬馬。俺達、付き合わない?」
冬馬の表情が曇った。その時点でもう、答えは分かってた。
「ごめんなさい。俺、恋人は作らないって決めてるんです」
「なんで?」
「高校生の時に色々あったんです。前にも言いましたよね」
「そんなさ。過去の事引きずっても仕方ねぇだろ。俺と付き合ってよ」
「…俺は、恋人なんていらない」
「じゃあ、1回俺で試してみればいいだろ?本当に恋人がいらないと思うのか」
「いらないですよ。俺はもう誰も信じたくないですから」
「俺の事、信じろよ。俺は冬馬を傷つけたりしねぇから」
俺は春人とは違うから。絶対傷付けない。
「そんな事言って、どうせ俺から離れるんでしょ?」
違う。俺はそんな事しない。
「離れない。絶対」
離さねぇよ。だって俺は…。
「嘘だ。どうせ…」
俺は…。
「俺は春人じゃねぇんだぞ!」
俺の声が部屋に響いた。ずっと心の中にしまってた言葉が口から出てしまった。
俺の言葉を聞いて、冬馬はたしか驚いた顔してたかな。
「俺は、春人とは違う。だから、俺を信じろ」
「…なんで春人くんの事知ってるの?」
冬馬にそう聞かれて、ハッとした。やべぇなって思ったけど、言い訳しても仕方ないと思って。
「…悪ぃ。日記勝手に見た」
「日記…」
「春人のせいで傷ついて、誰も信じれなくなったんだよな」
冬馬はただ俯いてた。
「俺は冬馬を傷つけない。だから春人の事なんて忘れて…」
「無理ですよ。俺は春人くんの事が好きなんです。傷つけられても、好きなんです」
目が本気だった。真剣な目して、そう言うから。俺は勝てないんだなって。俺は″代わり″でしかないから。
「…あっそ。じゃあもういいよ」
限界だった。
「いいって、何がですか?」
冬馬が俺を見てくれないなら、俺だって。
「もう冬馬とは会わない。代わりなんてゴメンなんだよ」
俺はその場を立ち去ろうとした。そしたら、冬馬が俺の腕を掴んだんだ。
「嫌だ。行かないでよ…」
俺は声を震わせてそう言う冬馬の手を振り払った。
もう、無理なんだよ。俺はもう、冬馬と一緒にいたくない。
「じゃあな。遊び人」
俺はそう言い残して冬馬の家を出ていった。
それから俺達はすれ違っても話す事は無かった。冬馬もちょっと迷ってたのかソワソワしてたけど、結局一回も話しかけてこなかった。俺が卒業の日も、同じだった。
それから月日が流れた春のこと。俺には恋人が出来ていた。俺は別に好きなわけじゃなかった。告白されたから付き合ったってだけだ。髪が長い華奢な女の子。
エッチなことは1度もしたことがない。俺にその気がないから。興味無いって態度に出てたのかな。ある日彼女が言ったんだ。
「私たち、別れよ」
別にどうでもよかった。
「…いいけど、なんで?」
理由くらいは聞いとこうと思って。
「そういう所だよ。私の事好きなら普通止めるでしょ?」
「あぁ…」
だって、俺はまだ冬馬が好きだから。
「そうだね」
「何それ。最低。」
そう言いながら頬を叩かれた。痛い。でもどうでもよくて。ただ、冬馬に会いたいと思った。心の片隅にいる冬馬に。
冬馬がどこにいるのかなんて知らなくて、大学の時仲良くしてた後輩に聞いてみたら、働いてる場所がわかった。
だから、会いに行った。
冬馬は誰かと一緒に出てきてて、とりあえず声掛けようと思って。
「冬馬。久しぶり」
「…大和先輩。何しに来たんですか?」
驚いた顔をしてた。
「何って、俺が冬馬に会いに来たらする事は一つでしょ?」
なんて言ってみたら、冬馬は気まずそうな顔で言った。
「すみません。俺、もう遊び人とか辞める事にしたんです。だから大和先輩とそういう事はもう出来ません」
──遊び人、やめた?
なんで。まさか、恋人でもできたのか?
「遊び人やめた?何。もしかして恋人でも出来たの?」
信じたくなかった。
「…そうです」
だから、笑うしかなくて。
「なにそれ。恋人は作らないとか言ってなかったっけ?」
「言いましたけど…気が変わったんです」
俺の事は振ったくせに。
「へぇ〜」
ふと、隣に立つ子をみた。どこかで見た気がした。
「もしかして、その子?」
「違います。柳くんはただの後輩です」
──柳。柳春人か。なんでこいつが冬馬といるんだ。
「ただの後輩ね〜。まぁ、どうでもいいけど。本人近くにいないなら良いじゃん。行こうよ」
冬馬を奪いたかった。
「ちょっと、離してください」
「バレなきゃ大丈夫だって。遊び人だったくせに何真面目ぶってんの。ほら、行くよ」
どうせ、お前は何も出来ないだろ。春人。
そう思ったのに、春人が冬馬の腕を掴んだんだ。
「何?」
「えっと…」
立ち止まった。でも春人は無言で俯いてた。
ほらみろ。やっぱり何も出来ない。
俺はまた、歩き出そうとした。けど、春人が冬馬の腕を引っ張ったんだ。
「何だよ」
ムカついた。何も出来ないくせに。
「…この後佐野さんと予定があるんです。だから、勝手に佐野さんの事連れて行かれたら困ります」
守ろうとしてる意思だけは伝わった。
「あー…そう。それは悪かったな。また出直してくるわ」
「じゃあね。冬馬。と…後輩くん」
俺はそう言った後、春人の肩をポンッと叩いてやった。
次は冬馬を貰いに来るから。
「…はい」
頼りねぇやつ。こいつのどこがいいんだよ。冬馬。
それからしばらくして、もう一度会いに行った。
春人から冬馬を奪いたくて。冬馬を幸せにしてやりたくて。
「…大和先輩」
「また来ちゃった」
また、春人と一緒にいた。
「こんばんは。後輩くん」
「…こんばんは」
「また二人で用事?」
「そうですけど」
最後に1度だけ、チャンスをやるよ。
「悪いけど、その予定は無しにしてもらうね」
お前がちゃんと冬馬を取り返せるなら。
「嫌です。俺は行きません」
「また真面目ぶっちゃって。でも、嫌がってる冬馬いじめんのもありかも。ほら、こっち来て」
恋人がこんなこと言われて、ほっとける奴なんて居ないよな。
「嫌だ…!」
俺の腕を春人が掴んだ。
なんだよ。前は冬馬の手掴んだくせに。
「…冬馬さんに気安く触らないでください」
お前はどうせ恋人だって宣言出来ねぇだろ。
「え?何?」
「冬馬さん、俺のなんで。もう冬馬さんに構わないでください」
…なんだ。言えんじゃねぇかよ。
そう思いながら俺は笑った。
「それはどうもすみませんね」
春人が恋人だって認めんなら、俺に勝ち目なんてないよな。
「もう冬馬には会いに来ないから。安心して」
そんなこと言ったら、春人は怖い顔してた。
春人もちゃんと、成長出来たんだな。
「冬馬。良かったな。いい恋人が出来て」
「…ありがとうございます」
冬馬は嬉しそうに言ってた。冬馬が幸せそうなら、俺はいいよ。
「ん。じゃあな」
まだ冬馬の事引き寄せてんじゃん。もう、離すなよ。その手。
俺は手を振ってその場を去った。振り返らなかった。
振り返ったら、戻りたくなりそうだったから。
これが、俺の恋の話。可哀想だって思うか?
そうだろ。まぁ、俺って良い奴だし。なんてな笑
まぁ、また俺が恋した時にでも俺の話聞いてくれよ。
今度はいい報告が出来るといいんだけど笑
俺の話聞いてくれてありがとな。じゃあな。また会う日まで。
ひでお