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「……人、多くない?」
スーパーの入口を見ただけで、🌸がそう言うと、
黒尾は楽しそうに笑った。
「そりゃ大晦日だし?
みんな考えること一緒なんだって」
そう言いながら、自然な動きで🌸の手首を軽く引く。
「はぐれたら面倒だろ」
「子ども扱い」
「違いますー。彼女扱いですー」
軽口を叩きながらも、
人混みではしっかり前に立って道を作る黒尾。
「年越しそば、どれにする?」
「乾麺と生麺どっちがいいかな」
「俺は生派。年一だし贅沢しよーぜ」
そう言って迷いなくカゴに入れる。
「はい決定」
「即決すぎない?」
「迷う時間も楽しいけど、
今日は一緒に食うって事実の方が大事」
さらっと言われて、🌸は一瞬言葉に詰まる。
それに気づいた黒尾が、にやっとする。
「今の、刺さった?」
「……うるさい」
「図星かよ」
次はお惣菜コーナー。
黒尾が立ち止まってじっと眺める。
「なあ、ちょっと多くね?」
「年末だよ?」
「言い訳が強い」
黒尾は笑いながらも、🌸の方を見る。
「無理して食わなくていいからな。
余ったら明日でもいいし」
その言い方がやけに優しくて、
🌸は小さく頷く。
「じゃあこれと、これくらいで」
「お、いいじゃん。分かってる。
お菓子も買っておこ」
会計を終えて外に出ると、
冷たい空気が一気に頬に触れた。
「寒っ」
「言うと思った」
黒尾は当然みたいに自分のコートの前を少し開いて、
🌸を引き寄せる。
「ちょ、外だよ」
「いいの。大晦日特権」
人混みの中、
肩が触れる距離で歩きながら、黒尾がぽつりと言う。
「こういうのさ」
「こういうの?」
「年越し前の買い出しとか、
一緒に袋持って歩くのとか」
一瞬だけ真面目な声になる。
「なんか、ちゃんと“一緒”って感じしてさ」
🌸が顔を上げると、
黒尾は少し照れたように視線を逸らした。
「来年も普通にやってそうじゃん、俺ら」
「……そうだね」
「それがいい」
家が近づくと、
黒尾は袋を持ち替えて、🌸の手を握る。
「よし。あとは年越すだけだな」
「てつろう、もう浮かれてない?」
「バレた?」
にっと笑って、黒尾は言う。
「だって今日の夜、
一番最初に“来年”になる瞬間、
🌸が隣にいるんだぜ?」
その言葉に、
胸がじんわり温かくなった。
「逃がすわけないじゃん」
冗談みたいに言うけど、
その手はしっかり離さなかった。
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