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年が変わる瞬間を、神社で迎えるなんて。そう思っていたのは、家を出る前までだった。
「ほら、もうすぐだぞー。今年最後の一分」
境内は思ったより人が多くて、吐く息は白い。
🌸はマフラーに顔をうずめながら、黒尾の隣に立っていた。
「寒い?」
「寒いけど……なんか、いいね」
そう言うと、黒尾は少しだけ口角を上げる。
「だろ?年明けを家じゃなくて神社で迎えるの、意外と悪くねぇ」
鐘の音が遠くで鳴り始める。
ざわついていた空気が、一瞬だけ静かになる。
――三、二、一。
「……あけましておめでとう、🌸」
黒尾の声は低くて、いつもより少しだけ真面目だった。
🌸が顔を上げると、すぐ近くで視線が合う。
「あけましておめでとう、てつくん」
その瞬間、黒尾は何かを思いついたように🌸の手を引いた。
「ちょ、なに?」
「初詣だろ?並ぶ前に手、離すなよ」
大きな手に包まれると、冷えていた指先がじんわり温かくなる。
人混みの中でも、黒尾は自然に🌸を自分の前に引き寄せた。
「人多いなぁ」
「迷子防止。俺のだから」
さらっと言われて、🌸は思わず足を止める。
「……なにそれ」
「新年早々、独占欲強めでいくって決めた」
ふざけた言い方なのに、握る手はしっかりしていて。
胸の奥が、きゅっと鳴った。
お賽銭を入れて、並んで手を合わせる。
🌸は小さく願う。
――今年も、この人の隣で笑っていられますように。
横を見ると、黒尾は目を閉じたまま、真剣な表情をしていた。
「……なにお願いしたの?」
「内緒。言ったら叶わねぇだろ」
そう言いながら、🌸の頭にぽん、と手を置く。
「ま、でも一つだけ確実なのは」
「なに?」
黒尾は少し屈んで、🌸の耳元で囁いた。
「今年も俺は、🌸を離す気ないってこと」
境内の冷たい空気の中で、
その言葉だけが、やけに温かく残った。