テラーノベル
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降りしきる雨が、アスファルトを激しく叩く音と乾いた銃声をかき消していく。
視界は白く煙り、世界が溶けていくような錯覚に陥る。
俺は駐車場のコンクリート柱から柱へ、死を運ぶ弾丸の軌道を縫うように疾走した。
背後では志摩が横転したセダンの影から応射し、敵の退路を断つ。
砕け散ったフロントガラスの破片が、雨を反射して冷たく光った。
「なんで、なんで黙って死んでくれないんですか!」
松田の叫びは、もはや怒声というよりは悲鳴に近かった。
かつて俺を慕い、後ろを歩いていたはずの弟分は、狂ったように引き金を絞り続ける。
だが、迷いと恐怖に支配されたその銃弾は、俺の残像すら捉えることはできない。
「松田、お前に足りないものを教えてやる。……『覚悟』だ」
俺は遮蔽物を捨て、あえてセダンの真正面へと躍り出た。
一瞬、松田の指が凍りついたように止まる。
かつての「家族」を射殺するという最後の一線。
その迷いの隙を、俺は逃さなかった。
手に持っていた重い暗視ゴーグルを、奴の顔面へ向けて力任せに投げつける。
不意を突かれ、反射的に顔を覆った松田の視界が塞がった瞬間、俺は雨の壁を切り裂いて奴の懐へと潜り込んだ。
「あ…が……っ!」
電光石火の早業で、俺の左手が松田の銃を掴み、その銃口を天へと向けさせる。
同時に、右手に隠し持っていたドスの「柄」を、奴の喉仏へと正確に叩き込んだ。
鋭い衝撃。松田は膝を突き、その手から黒い鉄塊が力なく滑り落ちた。
「……殺せよ。…どうせ俺は、あんたを裏切ったんだ」
雨に打たれながら、松田が力なく笑った。
「殺す価値もねえ。……んなことより親父の居場所を吐け。本部にいないのは分かってる」
松田は激しく咳き込みながら、震える指で北西の方角――
都心から離れた奥多摩の山中にある、榊原組の隠れ別荘を指した。
通称『鉄の檻』。
そこはかつて、組の裏切り者を拷問し
処刑するためだけに使われていた、血の匂いが染み付いた呪われた場所だ。
「……久保田も、そこに運ばれたはずだ。親父さんと中臣が、最後のお披露目会をやるって…」
その時
後続のセダンから新たな刺客たちが飛び出してきた。
自動小銃の掃射がアスファルトを跳ね、志摩の声が怒号となって響く。
「黒嵜、追っ手が来る、早く乗れ!」
俺は松田の胸元を掴み、冷たい雨と共に吐き捨てるように耳打ちした。
「松田。次に会うときは、三途の川かもしんねぇな」
俺たちは再び大型バイクに跨り、濡れたオフィス街を猛烈な加速で脱出した。
目指すは、霧に包まれた奥多摩の山。
そこには、天涯孤独だった俺を拾い、極道として育て
そして最後にはゴミのように捨てた、このすべての悲劇の元凶が待っている。
俺の全身を流れる返り血は、冷たい雨に流されることなどなかった。
それは皮膚の下で、消えることのない復讐の火となって、今も激しく燃え盛っていた。
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