テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「ところで、結と誓はどれくらいしゃべるようになったんだ?」
思いっきり前のめりで、子どもたちのことを覗き込む父に、
「お父さんたら、落ち着いてないと嫌われちゃうかもって、話したでしょ」
改めて念押しで口にする。
「おぉーそうだったな! わかっている、わかっているから。それで、一体どれくらい話すんだ?」
興奮冷めやらぬといった感じで、全くわかっている素振りの見えない父に、やや呆れ顔で傍らの貴仁さんを見やると、
彼がふっと顔を崩して、
「まだ言葉は少しずつですが、ママとパパは、ちゃんと言ってくれるようになりまして」
代わって答えてくれたことで、場は束の間に和んだ。
「そうか、パパとママはちゃんとか……」
うんうんと何度も頷いて見せた父が、
「……それで、じいじは?」
そう、身を乗り出して訊いてくるものだから、
「それで……って、」
と、聞き返して、どうにも先走るその有り様に、ついにはこらえ切れなくなって吹き出してしまった。
「うん? 何かおかしなことでも言ったか?」
大まじめで首を傾げるのに、クスクスと笑いが込み上げて止まらなくなる私を尻目に、
「パパ・ママの他にも、だいぶしゃべるようにはなったのだろう?」
父が貴仁さんへ話を振る。
「ええ」と、頷いた彼が、
「単語はだいぶわかるようになってきたので、良ければ”じいじ”と話しかけてみると、覚えるかもしれないですね」
人当たりのいい穏やかさでそう口にして、目を覚ましていた結を抱き上げると、父へ顔を向き合わせた。
すると、「おおー、それはぜひともやってみる価値ありだな!」と、言うやいなや、
「ゆーいちゃん、じぃーじって言ってみてくれるか?」
父が結を間近に見つめて、娘の私ですら聞いたことのない猫なで声で、さっそく声をかけた。
「じぃーじだ。ゆーいちゃん」
一心に言う父に、「じ……?」と、結が不思議そうに声に出す。
「おっ、おぉ~そうだ、じいじだ、じぃーじ」
はた目にもわかるえびす顔で、飽かずに促す父を、
目をまん丸にしてじーっと見つめていた結が、しばらくして口を開くと、「じっ、じ……」と、たどたどしく口にした。
「おぉ~、言ってくれたぞ! 聞いたか、彩花!」
あからさまにはしゃぐ父に、コクコクと頷きを返して、「わかったから、もうちょっと静かにね」と、唇に指を当てたしなめた。
「ああ、すまない。しかし、いいものだな。孫にじいじと呼んでもらえるのは」
父が満面の笑顔で、しみじみと口にする。
「うん、そう思う。私たちもパパとママって呼ばれた時は、すごくうれしくって幸せだったもの…ね?」
貴仁さんを振り返って言うと、
「ああ、確かに。とても愛おしくも思えて。だからお義父さんの喜びも、よくわかります」
いっぺんで周りまでもが幸せに包まれるような、温かな笑みを浮かべた──。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!