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それが表情に表れていたのだろうか、一瞬動きを止めた私を気にした竜之介くんが「亜子さん?」と心配そうに顔を覗き込んでくる。
「……竜之介くん、私……」
「いいんだ。今は何も言わなくていい。言わなくても、想いは伝わるから。だから、今は少しの間だけ、俺に全てを預けて欲しい」
「…………うん」
やっぱり彼には心が透けて見えるのか言わなくても気持ちは伝わっているようで、無理に言葉にしなくても良いんだと分かると気持ちが軽くなり、抱きしめられた私は再び彼に身を委ねていく。
竜之介くんの唇は私の首筋へと降りていき、何度かそこへ口付けた後、
「……っん、」
強く吸い上げられた事で、思わず声を漏らした。
(キスマーク……付けられてる……)
竜之介くんの積極的な愛情表現に戸惑いつつも嬉しさを感じた事で、もっと彼に触れられたい奥深くまで探られたい、彼を感じたいという欲求が溢れてきて、
「……竜之介くん……私――」
先程言えなかった想いをもう一度口にしようと言いかけた、その瞬間、
「うわぁーんっ」
ベッドルームの方から凜の泣き声が聞こえて来た事で、一気に現実に引き戻されていった。
「…………」
離れたくないと思いながらも凜の元へ向かわなくてはいけない私が開きかけていた唇を一旦閉じると、何かを感じ取っていたらしい竜之介くんと目が合った。
「……あの、ごめんね、凜が……」
「いや、いいんだ。かえって良かったんだと思うから」
「……そう、だね」
互いに好き合っているし、触れたいと思っていた気持ちに嘘は無い。
だけど、お酒の勢いがあったのも否定出来ないから、もっと勢いづく前に止める事が出来て良かったんだと思う。
少しだけ乱れた髪や服を整えた私はソファーから降りて凜の元へ向かう。
「凜、どうしたの?」
「ママぁ……こわいよぉ」
どうやら怖い夢を見たようで、私の姿を見るなり起き上がって抱き着いて来た。
「大丈夫だよ、もう怖くないよ」
「うえーんっ」
まだもう少し起きていて竜之介くんと話していたかったけど、かなり怖い夢だったのか、いつになく怖がる凜を前に、これはもう一緒に寝ないと泣き止みそうにないと悟った。
「それじゃあ、ママも一緒に寝るから、それなら怖くないでしょ?」
「うん……」
私が一緒に寝ると分かった凜は瞳に涙を溜めながらも小さく頷いた。
「凜、大丈夫か?」
そこへ竜之介くんが様子を見に来てくれると、
「おにーちゃんもこっちきて!」
彼の姿を見つけた凜は手招きをした。
「どうした?」
「怖い夢を見たみたいで」
「そっか。凜、もう平気だから泣くなよ、な?」
凜に呼ばれ、ベッドへ腰掛けた竜之介くんに泣いている理由を説明すると、彼は凜の頭を優しくポンと撫でながらあやしてくれる。
私と竜之介くんが近くに居て、『大丈夫』と言い続けていたからか、安心したらしい凜は眠いのかウトウトし始めた。
「ほら凜、お布団掛けようね」
声を掛けながら凜をベッドに寝かせた私が布団を掛けると、瞼を閉じて眠りそうになっていく。
「もう遅いし、凜もまた泣くかもしれないから今日はこのまま寝た方がいい。おやすみ、亜子さん」
凜が眠りそうになったのを見届けた竜之介くんが静かにベッドから離れようとしたところで、私は無意識に彼の腕を掴んでいた。
「亜子さん?」
「あ、ご、ごめん……っ」
無意識過ぎて、名前を呼ばれて自分の行動に驚いた私は慌てて手を離そうとするけど、
「何? 遠慮しないで言ってよ?」
今度は逆に竜之介くんが私の腕を掴んでくる。
「……その……ね、竜之介くんも傍に居た方が、凜もより安心すると思うから…………ここで一緒に、寝て欲しい……」
凜を理由にそう言ったけど、本当は違くて。
私がもっと竜之介くんと一緒に居たかったから。
「……亜子さんが良いって言うなら、喜んで」
竜之介くんは嬉しそうにフッと笑いながらそう言うと、凜を挟んで左側の布団に潜り込んだ。
「ありがとう、竜之介くん」
電気のスイッチを押して部屋を暗くした私は凜を挟んだ右側の布団に潜り込んで、お礼を口にする。
そして、
「おやすみ、亜子さん」
「おやすみ、竜之介くん」
私たちは凜を抱き締めるように手を伸ばして互いの手を取ると、指を絡めてギュッと繋いで温もりを感じながら眠りについた。