翌朝、目を覚ますと、竜之介くんと凜が気持ち良さそうな表情で眠っているのを目の当たりにして、寝起きから幸せな気分になった。
しかも、竜之介くんとは手を繋いだままで、起きなきゃいけないのは分かっているのに離したくなくて、なかなか動けずにいた。
「……亜子さん……おはよ」
そうこうしているうちに気配を感じ取ったのか竜之介くんが目を覚まして彼と視線がぶつかると、口角を上げて笑みを浮かべながら『おはよう』と挨拶してくれる。
「おはよう、竜之介くん」
ただそれだけの事なのに、そんな些細な事が幸せに感じられる。その事実が、何よりも嬉しかった。
「……ママ? おにーちゃん?」
すると、私たちが起こしてしまったのか目を擦りながら凜が私や竜之介くんの方を交互に見てくる。
「凜、おはよう」
「よく眠れたか?」
名残惜しいけど繋いでいた手を離した私と竜之介くんが起き上がって凜に声を掛けると、
「おにーちゃん、いっしょにねたの?」
一緒に寝ないと言っていた彼が同じベッドに居る事を不思議に思ったらしい凜が尋ねた。
「ああ」
「パパじゃないといっしょにねれないって、いってたよ?」
「お泊まりの時は特別なんだ」
「そっか! おとまりならおにーちゃんもいっしょなんだね!」
竜之介くんの説明に納得した凜は喜ぶと、まだ眠いのかもう一度目を閉じて眠ってしまった。
「亜子さん、コーヒー飲む?」
「うん、飲みたい」
「それじゃあ、俺が用意するよ」
「ありがとう」
眠る凜を起こさないようにベッドから降りた私たちは、少しだけ時間に余裕があった事から、竜之介くんが用意してくれたインスタントコーヒーを二人で飲みながら、私は昨日までとは違って少しだけ彼との距離が縮まった事を密かに喜ぶのだった。
それからホテルを後にした私たちはそのまま新居になるマンションへ向かうと、田所さんが手配してくれていた事もあって、既に荷物の搬入が済んでいた。
「お早うございます、竜之介様、亜子様。お荷物や家具の方は指示通り、各部屋へ運び込んであります」
「ああ、ありがとう」
「すみません……助かりました」
「いえ、それでは私はこれで失礼致しますので、また何か御座いましたら何なりとお申し付け下さい」
何から何までやってくれて感謝しているけれど、田所さんは真面目でお堅くて完璧過ぎるのか人間味が無いところが少しだけ苦手で、彼と話す時はついつい萎縮してしまう。
「ママー、ここがあたらしいおうち?」
「そうだよ。凜とママは竜之介くんと一緒に今日からここに住むのよ」
「亜子さんと凜の部屋はここ。ベッドは俺の方で用意しておいたから」
玄関から向かって右側にある8畳の洋室へと続くドアを開けると、既に運び込まれていた私と凜の荷物と共に、ダブルベッドが一つ設置されていた。
「ありがとう。良かったね、凜。今日からお家でも大きいベッドで眠れるよ」
「わーい!!」
マンションは予想していたよりもだいぶ立派な所で、部屋は15階建ての最上階。
オートロックでセキュリティーもしっかりしていて、リビングは18畳、洋室は私と凜の部屋が8畳、竜之介くんの部屋が6.5畳、その他にバスルームやトイレ、ウォークインクローゼットまで付いている素敵な間取り。
だけど、自分がこんな高級マンションに住むのかと思うとやっぱりどこか慣れない。
「亜子さん、早速片付け始めようか」
「あ、うん、そうだね」
「俺の部屋は特に片付ける物も無いから、手伝うよ」
「ありがとう」
でも、例え分不相応だったとしても竜之介くんと一緒に居られる、その事が今の私には嬉しくて、これから始まる新しい生活へと期待に胸を膨らませていた。
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