ああ……
どうして、俺はいつもエリアーナ相手だと上手くいかないんだ。
キャロル嬢は妹。
厳密には前世での妹なんだ。
エリアーナに本当のことを話してもいまは信じてもらえないだろう。
いま、俺達の間にそれを信じられるだけの信頼関係はないからな。
俺が前世で読んだ小説の世界に転生をしていて、いま現在がそのようだとエリアーナに打ち明けても、俺は階段事故で頭を打っておかしくなったのだろうと思われるのが関の山だろう。
だから、前世云々はエリアーナにはまだ内緒だ。もちろん、エリアーナに小説の中の彼女の辛い結末を話すつもりは毛頭ない。
それは俺が絶対に阻止をするからだ。
きっかけはあの時…だった。
転校してすぐで、事務室を探して迷子になったキャロル嬢が初めて執行部の扉を開けたあの日。
思い切って誘った観劇を一緒に行くことを目を輝かせて快諾してくれたエリアーナとの会話が弾み掛けた、いい時だった。
突然訪れた迷子の生徒を放っておけるはずがない。
かつてないぐらいエリアーナと話しで盛り上がっているのに話の腰を途中で折られ、残念な気持ちをグッと抑えて、生徒会長の義務感だけで、キャロル嬢の案内役を買ってでた。
事務室に送り届けるキャロル嬢が俺の後ろからついて来て、彼女が不意に呟いた言葉に耳を疑った。
「本当にいたわ。アーサシュベルト殿下。
この学園はやっぱり『失恋しそうなので悪役令嬢になりました』の世界ね」
どういう意味だ?
俺もそのタイトルを知っている。
春の殿下と言われる雰囲気を消し、足を止め、凄むように後ろを振り返る。
「それ…この世界にない小説だよな。お前、何者だ」
キャロル嬢の顔色がみるみるなくなった。
睨み合うように沈黙が続く。
「わたし、殿下が執務室にいるって知っていたんです。信じますか?ここが小説の中の世界だって、殿下は信じられますか?」
青ざめながらも硬い表情でこちらを真っ直ぐに見るキャロル嬢が嘘を言っているようには見えない。
俺は一息ついた。
「現実味がない小説だったな。信じるよ」
その途端、キャロル嬢は堰を切ったように俺が思い出した前世と同じ世界の話をしだした。
「現実味がない」
彼女の前世の兄も同じことを言ったのだと彼女は言った。俺とキャロル嬢が前世で兄妹とわかるまでには、そう時間はかからなかった。
ただ…あの時、昼休みが終わる直前までキャロル嬢と話し込み、急ぎ執行部に戻った時にはエリアーナはおらず、すぐに昼からの授業が始まってしまった。
このすれ違いが大きくなっていく。
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