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#あべさく
めかぶぷりん
8,223
29
雪月❄️
363
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一方の岩本たちは、迫りくる糸を焼き尽くし、凍らせて砕いていく。
糸を纏って見えなくなる女に驚いたけれど、佐久間も粒子になって姿を隠しながら戦っている。その間に飛んでくる糸を、大量に舞っている渡辺の花びらが感知し、岩本の炎で燃やし、宮舘の冷気で凍らせる。
それでも追い詰めるには至らなくて、意外と苦戦を強いられているのが現状だ。
異能を使い続けていて、こちらが消耗しているのが分かる。
💛「くそっ。異能を使わされてる気がする」
❤️「広範囲に糸があるから、消耗も激しいね」
🩷「俺らも、ちょっとじり貧かも」
💙「出し続けなきゃなんないの、しんどいわ」
「あらあ、もうおしまい? 私はまだまだ平気よ」
姿を現し、余裕の表情で立っている紅歪。
💙「何であいつは平気なんだよ! 俺らより異能、使ってるだろ!」
💛「なんか仕掛けがあるんだろうな」
🩷「うわ、こっちのメンツ考えんのとか向いてないじゃん。ラウも阿部ちゃんもいないし!」
💙「なんか、お前に言われんの腹立つ」
「困ってる顔もかわいいわね」
💙「うっせえ! あんたに褒められても嬉しくねえんだよ!」
❤️「えっ、かわいいって言われたがりの翔太が?」
💙「別にいいだろ!」
階段上に立っている紅歪は体のあちこちに宝石をつけていて、こういう風にアクセサリーだらけの女は好きじゃないなと思いながら渡辺は見ている。
💙「あれ?」
💛「どうした?」
💙「なんか、ピアスの宝石、ちっちゃくなってない?」
🩷「え? どれ?」
💙「右の方のやつ。派手なの付けてんなって思って見てたんだけどさ、左と右の大きさちげーの」
💛「……確かに、言われてみれば」
❤️「あそこにエネルギー源みたいなのがあるのかも。だから沢山つけてるとしたら……」
🩷「壊すしかねえな!」
気合いを入れる。
それが合っているのか間違っているのかは分からないけれど、可能性を潰していくしかないのだから。
攻撃を仕掛け、避けられ、それでも必死に食らいついていく。
佐久間が女のすぐ近くに出現して紅歪が避けたところに渡辺が近づき、右耳の雫型の石を、結晶化した花びらをぶつける事で砕いた。
💙「っしゃー!」
「……やるじゃない。花のボウヤ」
至近距離で女を見た瞬間、渡辺の中で記憶がフラッシュバックする。赤い口紅、背筋がゾワリとするような声。そして、白衣の胸元にある《紅歪》の文字。
目を見開く渡辺。
❤️「翔太……?」
様子のおかしい渡辺に逸早く気付いたのは宮舘で、ハッとすると駆け出していた。言葉にするよりも早く、渡辺と紅歪を分かつように氷の壁を作り出して物理的に距離を置かせる。
何があったか分からないけれど、紅歪を渡辺に近づかせないようにするために、佐久間と岩本が紅歪への攻撃を再開し、宮舘が渡辺の許に駆けつけた。
❤️「翔太……翔太!」
肩を掴んで揺さぶる。どこも見ていないような、焦点の合っていない渡辺。
今、近づいた時に何をされた?
先ほどの二人の行動を思い返しても、特段、何かされている様子はなかった。結晶を壊して、その後から動かなくなった。
とにかく、この状態の渡辺をこのままにはしておけない。
❤️「照、佐久間! ちょっと頼む!」
手を掴み、階段を駆け下りると影に隠れる。
❤️「翔太、翔太!」
もう一度、体を揺さぶった。
正気に戻さないと、何が起こっているかを確認することもできないから。何度目かに名前を呼んだ時、渡辺と目が合った。
💙「……涼太……?」
❤️「良かった。翔太、何があったの?」
訊いた瞬間、それまで呆けていた渡辺の眉が顰められ、口が引き結ばれる。
💙「あいつだ……」
❤️「えっ?」
💙「あの女だ。俺に、命の霊薬のためにやれっつったの」
❤️「それって、誘拐の時の……」
💙「今考えりゃ、あの研究員の中で、あいつだけだ。俺に話しかけてきたの! あいつが、命の霊薬の黒幕……!」
完全に頭に血が上っている。敵意をむき出しにし、憎悪すら見えている。このままではマズい。
落ち着いて? 冷静になって?
そんな言葉、今、意味を成すだろうか。全ての元凶になった、誘拐と命の霊薬の実験。それを起こしたかもしれない人物を前にして、止められる筈もない。
命冠の環の時には止めた。命の霊薬を作っているというのは分かってて向かったし、それを渡辺も承知で覚悟も決めていた。今回とて同じだった筈なのだ。それが、最悪の再会になるなど思ってもみなかった。
否。どこかで覚悟も決めていた。命の霊薬を追えば、いずれ、その元凶に会うことになる。何年越しになったとしても、それは変わらない事実だと思っていた。
だから今、宮舘がやるべきことは止めることではない。
❤️「翔太。因縁に決着をつけよう」
💙「……涼太……止め、ないのか?」
❤️「止める? 何で? 翔太がやらなきゃいけないことだよ。乗り越えないと。もう、過去に縛られて生き続ける必要、ないんだ。だから、終わらせよう。ここで」
ずっと、囚われ続けていたのを知っている。ずっと、心のどこかで引っかかっていたのを知っている。少年探偵団を作ったきっかけになった命の霊薬。それを、特務調査局になってからも忘れることなどなかったのだから。
今、必要なのは送り出すこと。隣で立つこと。そして、一緒に決着をつけること。
❤️「翔太一人ではいかせないよ。俺も、佐久間も、ふっかも。俺たちにとっても始まりの事件だから。それが条件」
手のひらを上にして、手を差し出す。
その手を見た渡辺の口元に、笑みが浮かんだ。
💙「……乗った」
パンっと強く叩かれた手に、熱がこもる。この先、戦っている内にまた冷静ではいられなくなるだろう。感情の高ぶりに飲み込まれるだろう。それを、支えるのが宮舘の役目。だからこそ、隣に居続けるのだから。
💙「いくぜ」
階段の裏側から出てきた渡辺と宮舘。見れば、岩本と佐久間が攻撃を仕掛け、それを紅歪が姿を消したり避けたりと、完全に翻弄されている状態だった。やはりニコイチの二人と比べて、紅歪には余裕がある。
もう片方のピアスの宝石も、先ほどより小さくなっているのが分かった。紅歪の方も、猶予はそう長くない。
💙「佐久間、照。助かった」
💛「翔太、平気か?」
💙「今んとこはな」
❤️「あの女、翔太が誘拐された時に見てる。命の霊薬の、元凶かもしれないんだ」
🩷「えっ!? じゃあ、あいつ倒せば、もう翔太が一人で悩むこともなくなるってこと?」
❤️「あれ、佐久間も気付いてたんだ」
🩷「当然。何年、一緒にいると思ってんだよ」
頭の後ろで手を組んで、カラカラと笑っている佐久間。その向こうにいる岩本の口元にも笑みが浮かべられているところを見ると、隠しきれていなかったらしい。
「お話は終わったかしら?」
❤️「こっちの都合に合わせてくれるなんて、悠長だね」
「それも含めて、お楽しみでしょう? 時間をかけていたぶる方が好きなのよ」
💙「だったら、さっさと決着、つけてやるよ」
「あら、つれないわね」
笑った紅歪の周囲から伸びてくる糸を避けていく。
絡みつくように飛んでくる糸が佐久間の足首に触れ、気付いてすぐに足首を粒子化しようとしたのだが、できなかった。
🩷「えっ? うおっ!」
上方に思い切り引っ張られたことで、佐久間の体は右足首に巻き付いた糸に吊るされてしまう。
💙「佐久間!」
すぐに渡辺が結晶化させた花びらを向かわせて、佐久間を吊っている糸を切ろうとするものの、糸は伸びるだけだった。
💙「っ、切れねえ!」
それを受けて、岩本が同じ糸に炎を纏わせたが、焼けることも焦げることもない。炎が消えたことで、今度は宮舘が糸を凍らせる。
すると、外そうともがいて動いていた佐久間の左足が凍った糸に当たると、糸は砕け、落ちた佐久間はくるりと回転して着地した。
🩷「うぉー、助かったー」
💛「糸の性質が変わった?」
🩷「なんかネバネバしてた!」
💙「くそっ。ここにきて、更にやりづらくなったな」
話している間にも、次から次へと向かって来る糸。それは先ほどとは違って、攻撃というよりも拘束をしようとしているように見える。糸に捕まれば、佐久間みたいに動きを封じられる。
そうならないように、唯一、対処できる宮舘が片っ端から凍らせていくしかなかった。
肩が上下し始め、目に見えて疲労している宮舘。けれど、紅歪のピアスももうかなり小さくなっている。
あと少し、耐えられれば。
「残念だったわね。一つ壊したくらいじゃ、意味ないわよ」
紅歪の周囲に浮かび上がる雫型の透明な石。それは10個ほどあり、愕然とした。替えはいくらでもあるという事だ。
🩷「え、あれ全部壊さなきゃ終わんないってこと?!」
💛「あの石からマテリアを補給してるなら、そういうことだな」
🩷「マジか!」
「せっかく、もう少しで終わると思ったのに、がっかりしたかしら」
こちらの反応を愉しむために、わざと消耗させていたのだろう。だから、このタイミングで他の石を出してきた。
この上なく厭らしい手法に、嫌悪を抱く。
💙「んなの、それ壊せばいいっつってんのと同じだろ!」
瞬時に出現した無数の結晶の花びらが全て紅歪に向かっていくも、それら全てが粘着性のある糸に絡めとられて、一つとして紅歪に近づけない。
「まだ焦る時じゃないわよ。ほら、特別なのも見せてあげるわ」
紅歪が左手を開くと、そこには三つの雫型の小さな石が乗っている。
他の石と違ってその三つには色がついており、それぞれ緑、黒、オレンジ。
「これ、見覚えあるでしょう?」
🩷「え? 緑、黒、オレンジの石? 見覚えってなんだ?」
❤️「阿部、目黒、康二、でしょ」
🩷「あっ、それだ! って、どゆこと?!」
💛「康二が血、抜かれてただろ。その結晶ってことじゃねーの」
🩷「え、じゃあ、あの人がいたら、ずっと阿部ちゃん達の血が抜かれるって、こと?」
❤️「恐らく」
🩷「やべーじゃん! 倒すとか倒さないの問題じゃないって!」
💛「捕らえて話を聞くのは難しそうだな」
「そうよ。さあ、私を殺してみなさい」
突然、阿部、目黒、向井の傷があったところから、ドロッと血が溢れ出して、意識のない阿部以外が驚きに目を見開く。
それは瞬時に、一直線に部屋の外へとレーザービームのように消えていって、深澤は慌ててイヤーカフ型の通信機に触れた。
💜「照! 今すぐその人、倒して!」
💛『えっ?』
💜「阿部ちゃんとめめと康二の血が抜かれた! このままじゃ、ヤバい!」
目の前の紅歪を見ていると、どこからか集まって来た血が三色の石に収束し、一回り大きくなった。
それは、もう一刻の猶予もない事を示している。
そして、空間を埋め尽くすように赤い結晶が無数に浮かび、それらは結びつくといくつもの結晶花を作り出す。
今までとは違う。いつもは薔薇の花のようだった結晶花が、今はまるで彼岸花のよう。
それは異様な光景を映し出していた。
💙「ざけんなよ……俺だけならまだ我慢できたけど、阿部ちゃんもめめも康二も……俺の大事な仲間にまで手ぇ出してんじゃねえよ!!」
沸き上がったものを止められない。
止める気にもならない。
目の前にいる紅歪だけが、渡辺の目に映り込む。他には何も見えない。何も、聞こえない。
「いいわ、ゾクゾクする! さあ、愉しみましょう!!」
紅歪が腕を広げると糸が凄いスピードで渡辺に向かって来る。それでも渡辺は一切、動かなかった。
渡辺の横にある、一際大きな結晶の彼岸花。はらりと、彼岸花から一つ、結晶の花びらが落ちた。瞬間、全ての糸が粉のようになって消えてしまった。
そして、紅歪の近くにあった彼岸花の一つが浮いている雫型の透明な石に触れた途端、粉になって消えていく。
「あら。なかなか面白いもの、持ってるじゃない」
💙「触れば粉になる。余裕な顔で動いてみろよ」
「挑発のつもりかしら? これ、忘れてなぁい?」
紅歪の手の上には、三色の雫型の石。
眉を顰め、渡辺が踏みとどまった。
💙「くそっ。あれをどうにかしなきゃ、阿部ちゃん達が!」
不意に、視界に映ったキラキラと輝くものに、ハッとする。発生した蒸気が一瞬にして部屋全体を覆った直後、渡辺の横を何かが物凄いスピードで飛んで行った。
蒸気が晴れると、紅歪よりも奥にいるカラスサイズのふーちゃんと、その横にいる佐久間の姿が見える。佐久間の手には、三色の雫型の石が乗っている。
💙「なん……」
🩷「お前一人で突っ走らせるかよ!」
💛「俺らにもやらせろ。何も見えなくなったら、そこまでだろ」
❤️「ふっかも同じ気持ちだってこと」
🩷❤️💛「いけ! 翔太!!」
三人の声が重なる。それだけではない。渡辺の頭には、ここにいないメンバーの声も聞こえたような気がした。
動こうとした紅歪の足は凍りつき、紅歪を取り囲むように炎の柱がいくつも上がる。
彼岸花に触れて破壊されていく、透明な雫型の石。数秒で全てが粉となって消えていく。紅歪の前には、大きな結晶の彼岸花。
決意したような渡辺が手を前に出すと、彼岸花は茎の先端を紅歪に向けて真っすぐに紅歪へ向かい、その胸に突き刺さった。
キラキラとした輝きを放つ彼岸花。
💙「彼岸花の毒は、体を麻痺させる。俺のは特製で、すぐ効く。そのまま大人しく逮捕されろ」
「フフッ! アハハハハッ! なかなかやるようになったのね、ボウヤ。あの頃は、指一本すら動かせなかったっていうのに」
💙「もう、何も分かんないガキじゃねえんだよ」
「……ああ、そうね」
💙「なんのために命の霊薬、作ってた。なんで俺だった!」
一定の距離を保ったまま、それでも紅歪に声をぶつける。想いを、ぶつける。
フッと、紅歪が口角を上げる。
「誰でも良かったのよ。命の霊薬に近づけられれば。たまたま、ボウヤの異能がその条件に合いそうだったっていうだけ」
ギリ、と渡辺の奥歯が鳴った。
「フフフ、楽しかったわ。こんなに心が躍ったのは久しぶりよ。でも残念ね。あなた達に情報はあげないわよ。そんなに安くないのよ、私」
その言葉が引き金になったかのように、紅歪の体が足元から糸で覆われていく。
💙「なっ」
「あーあ、時間切れね。最期に最高の興奮をもたらしてくれて感謝するわ。あなた達に、最高の地獄があらんことを」
ぐるぐると巻き付いた糸は大きな繭になり、紅歪は完全に見えなくなった。
暫し、そのまま立ち竦む。これは恐らく、飽和暴走だろう。できれば犯人とはいえ、殺したくはない。生きて罪を償っていくべきだと考えているから。
けれど、異能が絡むとそうもいかない。少し速く動けるとか、物を動かせるとか、そういった害のない異能も多いけれど、攻撃に特化した異能も多い。先ほどの糸のように使い手によっては危険になるものもある。
警察では異能封じを使用するが、設置型の異能封じは中心から離れるほどに効力が弱まるという欠点があり、装着型はその名の通り装着しなければならないので、近づかなくてはならないというリスクを伴う。
そのため異能力者が鎮圧するしかなく、こうして特務調査局が頼られることも多いのだから。
💛「俺とふっかで他のとこの警察に話に行く。ここの警察署は、ほぼ全滅だろうな」
🩷「だね……残ったのは、外に出てた人くらいかな。それに、一般の人もけっこう巻き込まれてたね」
❤️「そもそもすでに何人も被害者が出てたから、早めに対処できたのが良かったとも言えるけど」
釈然としない気持ちはある。
それでも、宮舘は渡辺の肩に手を置いた。
❤️「お疲れ様、翔太。ようやくだね」
自分の手を見つめる渡辺。ぐっと、拳を握る。
💙「ああ……やっとだ」
満足のいく答えではなかった。それでも、ずっと胸の内にあったものが吐き出せたことで心持は違うように思う。
💛「とにかく、動くぞ」
🩷「賛成! 阿部ちゃん達も早く治療しないとだろうし」
走って行って会議室に着くと目黒も阿部も傷はすでに癒えていて、けれど貧血で動けなさそうな阿部と目黒を佐久間が先に特務調査局に粒子転移で運び、深澤と岩本は警察に電話して事情を話し、他の者達は車で帰ることになった。
一足先に戻って来た佐久間は、応接間に降り立つと足に力が入らなくてぐらりとバランスを崩し、咄嗟に危ないと思った目黒は阿部の体を引き寄せた。
尻もちをつく佐久間と、立ったまま見下ろす目黒。
🩷「いってー……蓮、阿部ちゃんだけ守ったな!?」
🖤「そりゃそうだよ。佐久間くん、阿部ちゃんのこと落としそうだったし」
🩷「うーん、確かに……」
🖤「でしょ。俺、このまま阿部ちゃんのこと、寝かせてくるね」
🩷「お前も一緒に寝てこい。相当、消耗してんだろ」
🖤「あれ、知ってるの?」
🩷「ふっかから聞いたー。ケガもしてんのにずっと異能使い続けて回復してたって。お前も無茶するよな」
🖤「いや、実はあれ、俺の蔓が勝手にやってて……」
🩷「えっ?!」
🖤「俺の体に沿うように出て来て、足首から水入れてくれてたんだよ」
🩷「なるほどなぁ。まあ、とにかく休んでこい。こっちで話進めとくから、心配すんな」
🖤「ありがとう。じゃあ、寝てくるね」
ぺこっと頭を下げて、阿部をお姫様抱っこして休憩室に向かった。
部屋の中に入って阿部をベッドに寝かせると、その顔を見つめる。今は呼吸も落ち着いていて大丈夫だけれど、元々色白なのに、貧血で顔は真っ白だ。血の気のないその姿に、胸が苦しくなる。
🖤(あの時、阿部ちゃんに触れてたら多分、俺の蔓で回復できたんだ……)
そう思うと手に力が入る。
一瞬でも早く動けていれば良かったのに、と。人よりもテンポが遅いのは自覚している。それがこんなところで足を引っ張るとは思わなかった。
🖤「阿部ちゃん……」
もう傷はないけれど、傷だらけの阿部の姿が目に焼き付いて離れない。
その姿を見せるのもきっと、あの女の目的だったのだろう。目黒を精神的に追い詰める為か、歪む顔が見たいと言っていたからただ単にその為だったのか。
どちらにせよ、効果は覿面(てきめん)だ。
とにかく自分も回復しなくてはならないと、壁際に置いてあるソファに寝転がったのだけれど、どうしても阿部が気になってしまう。チラチラと見ていては休める筈もなく、悩んだ末にベッドの方に向かうと、自分もベッドに横になった。
広さは十分にある。二人とも身長はあるけれど、阿部が細くて華奢だからいけるだろう、と、阿部の方を向いて抱きしめる。
🖤「……起きた時、怒られないかな……」
先ほどまで触れられなかったからか、余計に今は触れていたい。そうすることで安心できるから。起きたらそのまま伝えよう。
抱き枕のように阿部の腰を抱き、目を瞑る。
少しでも、回復しますように。
後から戻って来た深澤がこそっと休憩室を覗き、目黒が阿部を抱いて寝ているのを見てしまい、更に、思わずみんなに言いふらしたものだから、皆が物珍しそうに微笑ましそうに静かに見つめるのだった。
命の霊薬編Ⅱ 終
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終わり方最高すぎてニヤけちゃいました🖤💚