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その時、俺は既に壊れてた。

絶望の淵に立っていたような感覚だった。もういっそ、楽になりたい。この世から逃げてしまいたい。そう思うや否や、その一歩を踏み出した。


俺たちは親友だ。

そのはずなのに、気づいたら俺は君を追いかけていた。恋心を抱いていたんだ。

でも君は、キョウは人気者だから。いろんな人が君のまわりに寄ってくる。俺にはそれが小蠅にしか見えなくて、いつの日からか俺のなかにはドロドロとした独占欲が渦巻いていた。

俺のことだけ見て。他のやつなんて相手にしなくていい。俺だけでいいでしょ?


9月が始まったばかりの頃から、毎朝俺の机に花瓶が置かれていた。それだけじゃない。世間一般で言う、所謂「いじめ」ってやつだろう。

俺は困惑してた。いじめられるなんて思っていなかった。俺の何がダメだったの?何が嫌いなの?どうしてそんな目でみんな俺を見るの…?

俺の親友であるレンに相談しようともしたが、レンを不安にさせてしまうと思って黙っていた。何よりこれは俺の問題であって、レンを巻き込むわけにはいかない。そう思っていた。


キョウをいじめの標的にした。

あくまで犯人がわからないような、陰湿なやつ。下駄箱の靴のなかに画鋲や小石を入れたり、机の中にゴミを詰めたり。いつもキョウより早く登校する俺は、キョウが来るまでの間に仕掛けていた。登校してきていじめに気付くキョウの顔を見ると、背筋がゾクゾクとする。絶望したような、驚いたような表情をするキョウが大好きだ。

しかし一向に俺に相談しに来ない。親友の俺に相談しに来ると思ったのに。やっと俺だけのキョウになると思ったのに。

まだ余裕があるのかと思い、さらにいじめをエスカレートさせた。


いじめがどんどんエスカレートしていく。直接的なものではなく、陰湿な、なんとも意地の悪いいじめ方だった。

こんな思いをしてまで生きていく必要なんてない。俺がいじめられるような存在であるなら、消えてしまった方がみんなのためになるだろう。


ある日の帰り道。いつものようにキョウと並んで帰っていた。その日は夏休み前で午前授業だった。よく日が照っている昼頃、踏切の前で立ち止まる。カンカンと鳴る踏切の音が頭に響く。

「なあレン。」

キョウが口を開く。どうしたの、と答えると、俺と向かい合わせの位置に立ってこちらを見つめる。その目は、夏に咲く向日葵よりも鮮やかな黄金色をしていた。にこ、と目を細めて笑う顔に釘付けになる。

「ごめんな、今日でさよならなんだ。」

急に何を言い出すかと思えば、くるっと身体の向きを変えて俺に背を向ける。夏の空と同化して風になびく青い髪が美しくて、本当にキョウは、どこまでも可愛くて、綺麗で。大好きだ。

電車のガタゴトという音が右側から聴こえてきた。そろそろ目の前を通りすぎるかなというタイミングで、キョウが線路に飛び出した。

「危ない」なんて声がキョウに届く前に、目の前の親友は、夏の空気に弾けた。

電車が急ブレーキを踏む耳を劈くような高い音と、蝉の鳴き声、青い晴天とは正反対の真っ赤に染まる線路。全てが本当に気持ち悪くて、思わず嘔吐く。なんでキョウはこんなことをしたの?なんて問いは、数秒で自問自答するには簡単すぎた。こんなことになるなんて思ってなかった、そんな薄っぺらい言い訳でキョウの気持ちを表せるわけがない。

俺の愛は歪んでた。

今更自覚したところで結果は変わらない。自分のしたことの重大さ、残酷さ、全て理解した。

いっそのこと、目の前にいる形を失ったキョウに取り憑かれてしまいたい。

線路から放り出されたキョウの鞄からは、お揃いで買ったキーホルダーは取れていた。それを握りしめて、しばらくの間うずくまっていた。

そんな俺を、透明な君は指差していたのかもしれない。

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