テラーノベル
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スペクターが約束した「補償品」として、崩壊の余韻が残るSWAPSAKENの白銀の地に降臨したShedletskyーーまた神として呼ばれていた頃の名は、テラモン。
その姿は、あまりにも静謐で、それ故に異質だった。
茶色い巻き毛を覗かせる白いフードは目元を深く覆い隠し、一目ではその表情を伺い知ることはできない。
白と黒を基調とした重厚な衣装の仕立ては完璧であり、その上に装着された精緻な鎧は、かつて彼が「秩序の神」として絶対の法を象徴していた頃の神聖な威厳を今なお色濃く纏っていた。
「まあ……なんて美しく、そして硬質な『道具』なのかしら」
白銀の玉座からそれを見下ろすアクチュアリティ女王は、うっとりとため息を漏らした。
ヌーブの引き起こした狂気の暴走により、世界には大きな亀裂が走り、FORSAKENのどろどろとした泥と血の匂いが侵食していたはずだった。
しかし、テラモンがその身をひるがえし、右手に握られた眩い金色の剣をゆっくりと抜き放つと、周囲の空気が一変する。
――チィン……ッ!!
テラモンが一閃を見舞う。
金色の刃が描いた光の軌跡は、単なる空間の斬撃ではない。
刃が空を割る音と同時に、目に見える形で光の針と糸が走り、破裂して歪んでいた空間の亀裂が、まるで高級仕立物の縫い目のように見事なシームを描いて一瞬で縫い合わされていった。
泥の匂いは雲散霧消し、殺伐とした空間が瞬時に静寂を取り戻す。
散らばっていた世界の断片を再び一つの形へと縫い合わせ、崩れた概念を力ずくで矯正してみせるその光景は、まさに神の御業そのものだった。
「素晴らしい……! スペクター様も、たまには粋なお贈り物をしてくださるのね。これなら私の箱庭も、すぐに元通り以上の完璧さを取り戻せますわ」
アクチュアリティが惜しみない拍手を送る。
だが――世界の修復を試みるその当人の内部では、SWAPSAKENの領域が誇る「最も大切にしていた概念の反転」という惨烈な呪いが、すでに決定的な変質を引き起こしていた。
かつて高潔な神性を誇り、冷徹ながらも万物への慈愛と理(ことわり)を有していたテラモンの魂。
それがこのあべこべの世界に沈められた結果、彼の精神からは「感情」という概念が根こそぎ削ぎ落とされ、ただの冷酷無比な自動追撃機械へと堕落を遂げてしまっていたのだ。
金色の剣をゆっくりと下ろしたテラモンは、白いフードの陰から一切の温度が存在しない眼光を暗闇に光らせた。
修復された世界を見渡すこともなく、感謝を捧げる女王を一瞥することすらない。その薄い唇が、まるで精巧なカラクリ人形のように機械的な低音で音を紡ぐ。
「……空間の縫合率、9.8%完了。……秩序の再構築を一時中断」
「……最優先排除対象(ターゲット):1x1x1x1。……発見次第、直ちに殺害を実行」
その声には、怒りも、憎しみも、悲しみすらも存在しなかった。
かつて己の身から切り離された邪悪の化身・1x1x1x1に対する執着すらも機械的なタスクへと反転し、ただ絶対の殺意だけを原動力として稼働する怪物が、ここに誕生してしまったのだった。
「……あら?」
首をかしげるアクチュアリティの視線の先で、無感情な「修復道具」は金色の剣を引きずりながら、ガシャリ、ガシャリと重厚な鎧の音を響かせ、震えて隠れている「かつての最凶キラー」を探して歩き始めた。
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