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一瞬で閉じられてしまった扉を見つめ、さっきの鎧くんを心配している間に、いつの間にかゼロはダンジョンメンバーを王子様に紹介するフェーズに入っていたらしい。
気がついたらルリがかつてない笑顔をふりまいていた。
「へぇー、ハイエルフ! 綺麗な人だね。知り合う事が出来て光栄です。ルリさん、よろしくね」
にっこり笑う王子様。
ルリはこの上なく幸せそうだ。良かったなぁ、ルリ。王子様に褒められて。
あまりに嬉しそうだから、こっちまでなんだか嬉しくなっていたんだが。なんだか急に、受付あたりが騒がしくなってきた。
それに気づいた王子様がペロリと舌をだす。
「ふふ、来たみたいだね。カフェに移動しよっか」
王子様の言葉に、さっと動いたユリウスが扉をあけると同時に、叫び声が響き渡った。
「最低っ! あんたたち、ホンット最低っ!」
ツインテールの超可愛らしい女の子が、大粒の涙を流しながら、ジタバタと暴れている。
これはいったい、どういう状況なんだ!?
なんでこの女の子、後ろ手に縛られてんの!? しかもさっき出ていった鎧くんに、あろうことか肩に担がれてるんだけど。せめてそこは普通、お姫様抱っこだろう!
「おーーろーーせーーっっ!!」
女の子もなかなか口が悪い。いや、でも状況的にムリもないのか?
「申し訳ありません。あまりにもその、激しく動かれるもので、普通にお連れ出来ませんでした」
女の子を担いだ鎧くんの周りには、さっき見た鎧たちよりも簡易な皮鎧を身につけた若い兵士が増えていた。察するにこの女の子をここまで連れてきてくれたんだろうけど、明らかに疲れ切っている。
体つきから見ても、いかにも新米兵士だよな。なんだかご苦労様、とねぎらってやりたくなる。
「ありがとう。じゃあ、降ろしてあげて」
一方の王子様はいつの間にかカフェのテーブルに落ち着いて優雅にお茶を飲みながら、鷹揚に指示する。
女の子は地に足が着いたと同時に、後ろ手に縛られているとは思えない身のこなしで、王子様に回し蹴りを放った。
「危ないなぁ」
王子様は彼女の足が顔の真横に迫っているというのに、微動だにしない。ちなみにユリウスが彼女の足を受け止めているので、被害もゼロだ。
「エリカったら乱暴なんだから。女の子は回し蹴りとかしちゃダメだよ?」
女の子に言い含めるように言うと、王子様は俺たちの方を振り返る。
「紹介するね。この子は僕の妹のエリカ。超初心者用ダンジョンの、今日の挑戦者でっす!」
ああ、やっぱり……お姫様でしたか。
「見ての通り、元気有り余ってるから、ちょうどいいかと思って」
「だからやるって言ってないっ!」
エリカ姫、猛抗議。そりゃ後ろ手で縛られてるあたり、自主的参加とは思えないしな。
「そんな冒険服着込んどいて、説得力ないよ?」
「兄様がムリヤリ着せたんでしょっ! 私のドレス返してよ! ホント最低っ!」
「あの……」
見かねてゼロが仲裁に入る。ていうか、よくこの兄妹のケンカに割って入れるな。軽く尊敬するんだが。
「なによっ!」
涙目のまま、それでも噛みつきそうな勢いで、エリカ姫はゼロを睨んだ。ゼロはそんなエリカ姫を心配そうに見下ろして、ゆっくりと、彼女にわかるように説明する。
「その、超初心者用ダンジョンは……危険は少ないように作ってるけど、でも、モンスターも罠も本物だから。攻撃を受ければ痛いし、傷も残るかも、しれなくて」
エリカ姫は驚いたようにゼロを見あげた。
「だから、本人が希望してるわけでもないのに、入れられないよ……」
「えっ……」
ゼロはそのまま、今度は王子様へ視線を向ける。
「僕、いくらアライン様の指示でも、本人が希望しない限り、絶対ダンジョンに入れませんから」
言いながら、ゼロはエリカ姫の手首を縛っていた縄を切り、回復魔法をかけてやっている。さっきまでオドオドしてたのに、こんなにきっぱりと言い切るとは。なんだか分からないが、ゼロは怒っているようだった。
あれ程乱暴だったエリカ姫も、毒気を抜かれたのかすっかりおとなしくなってしまった。
「あの、ありがとう」
そうやって恥ずかしそうに微笑んでいると、本当に可愛らしい。輝く金色の巻き毛は、ツインテールで頬の横で揺れている。長いまつげ、大きな緑色の瞳。細い首すじ。指の先まで繊細な造りだ。
さっきの回し蹴りは見なかったことにして、ここだけ見ているとまさに理想のお姫様だな。
鎧達も兵士達も、口を開けて見惚れている。
それを見ていた王子様は、面白くない、といった表情で抗議してきた。
「ちょっと、うちのエリカに気軽に優しくしないでくれない? 優しくされるの、慣れてないんだから!」
いや、それは酷くないか?
それにしても、ここの王家はどうなってるんだ。この混乱を止めるべき立場だろう人たちが全然機能してくれない。
王子の護衛隊長な筈のユリウスはカフェの料理をもくもくと食べてるし、カエンは例のごとく、このカオスな状況に爆笑している。
誰もアテに出来ないと悟った俺は、この場を仕切ることに決めた。