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いきなり会場に飛び降り、大声を上げた紫髪の男は、パーティメンバーと思われる三人にいそいそと控え室に戻されて行った。
控え室に来た三人が唖然とする中で、リオンはただ一人苦い顔を浮かべていた。
「ヒノトくん……彼なんだけど…………」
「あのうるさい奴か?」
ゴクリと息を呑むと、ヒノトの目を真っ直ぐ見遣る。
「彼はね…………レオが生まれなければ、“雷帝” と呼ばれていたはずの男なんだ…………」
その言葉に、ポカンと顔を浮かばせていた三人は、咄嗟に顔付きが変わる。
「どういうこと……? そんなに強いってこと……?」
「あぁ。そもそも “雷帝” とは、“王族” であり、“神童” であり、“雷属性を使う剣士” だった為に名付けられた、勲章のような呼び名だ」
「でも、アイツ、王族じゃないじゃん」
「カナリアと同じ…… “元王族” であり、貴族院代表の実の息子なんだよ…………」
「元王族!?」
「そもそも、キルロンド王国は、複数の国に分かれていたんだけどね、魔族戦争や、異邦人たちが国を起こした影響により、分散化していては他に潰されてしまうと言うことを危惧したことから、王を一人にしよう、と言う経緯で統一国家として、一つの国になったんだ」
「だから、元王族ってのがちらほらいるのか……」
「そう。ただ、やはり魔族戦争の中で内乱を起こすわけにもいかないと考えた当時の王たちは、『自分以外を推薦』すると言う形で王を決めた。それが、現国王の父上、僕の祖父に当たる人だね」
「ラグナおじちゃんはその時、父さんと戦争に出てたはずだけど、そんな息子だったのに、そこまで期待されるほどそのおっちゃんは強かったのか……?」
「いや、強くはない人なんだ。僕が継いだ水魔法の使い手だったしね。僕も今でも記憶に厚い。お祖父様は、どこまでも寛容で、本当に優しい人だったんだ」
「優しい人か…………」
「今の三王国、エルフ族や、異邦人の起こした国とも友好的な関係が続けられているのは、正直、お祖父様の顔があってのことだ。それを期待され、僕のキルロンド家が絶対的な王家となった」
「まあ、事の経緯は分かったけど、それと、アイツが雷帝に呼ばれることとは関係ないだろ?」
その問いに、再びリオンは息を呑む。
「お祖父様のパーティメンバーの前衛の一番弟子が、彼のお父さん、つまりは、現在の貴族院代表。自身の剣の実力もさることながら、貴族寮学院の運営から、貴族院を納める権限を与えられた裏の王。その息子が、雷属性で戦闘を好む子を産んだ。逆に、自分で言いたくはないけど、キルロンド家では、水魔法で戦闘を恐れる僕が生まれてしまった為に、彼が次代の神童として謳われていたんだ…………」
再び、顔を曇らせ、全員を見遣る。
「『雷帝と呼ばれるはずだった』ではない、彼が元々『雷帝と呼ばれていた』。それを、レオが奪った、が正しい流れだね…………。だから…………」
そんな、表情を暗くするリオンに、ヒノトは真顔で言葉を割いた。
「何ビクビクしてんだ? 元王族で、元雷帝で、って、情報量多い奴かも知らないけど、ソイツも、レオも、みんな倒すんだから関係ないだろ?」
その言葉に、リオンは目を丸くして、プッと吹き出す。
「確かに、その通りだ。僕だって王族だ。レオを倒す。だからまずは、みんなで彼を打ち負かそう!」
「あぁ! そうこなくっちゃ!」
そして、お説教を受けたのか、先程の元気さが消え、しょぼくれた顔で改めて入場して来た。
『それでは、本日最後の試合の選手を紹介をします。西門、キルロンド学寮より、前衛 ソードマン、ヒノト・グレイマン。中衛 ウィッチ、リリム・サトゥヌシア。中衛 ガンナー、リオン・キルロンド。後衛 シールダー、グラム・ディオール ―――――― 』
先程の戦いから、DIVERSITYは期待値が高まり、大きな歓声を上げていた。
『第ニ試合。南門、貴族院学寮より、前衛 ロングソードマン、キラ・ドラゴレオ。中衛 メイジ、ニア・スロートル。中衛 ガンナー、キル・ドラゴレオ。後衛 シールダー、クラウド・ウォーカー ―――――― 』
「なんか……編成が俺たちに似てない…………?」
「あぁ…………兄弟でパーティ組んでるのは知っていたけど、まさか僕と同じ水属性のガンナーだったなんて……」
他の二人は、水色の髪色で、恐らく氷属性で凍結反応を狙い、トドメにロングソードマン、キラの一撃を喰らわせると言う編成だと察することができた。
しかし、恐らく、ここまで見え見えの作戦だとしても、他の追随を許さない実力者であることも明白だった。
そして、本日最後のゴングが鳴り響く。
その瞬間、大きな声を上げ、キラは突撃する。
「ガッハッハッハ!! 勝利をこの手にィ!!」
「は!? 凍結狙いじゃないのか!?」
“岩防御魔法・岩陰”
何をしてくるか予想の付かない動きに、グラムは咄嗟に全員へシールドを展開させる。
「まったく、相変わらず兄さんは……。ニア、相手と衝突する前に頼んだよ」
「はい! キルさん!」
“氷支援魔法・リングスノウ”
「氷の支援魔法!? いやでも、どこかで凍結は絶対に狙ってくるは…………」
相手の動きを見計らっていた瞬間、ヒノトはキラとの間合いを開けていたと言うのに、瞬時に詰められた。
「いつの間に!?」
ブォン!!
そして、キラは高笑いを上げながら巨大な剣を横薙ぎに振るう。
ミィン…………
「ほう! 我が剣で破壊できないシールドとは! 洗練されたシールダーのようだ!!」
「いや…………剣術魔法でもなんでもない物理攻撃で破壊寸前にできる威力ってなんなんだよ…………!」
ボン!!
ヒノトは咄嗟に後退する。
「ガハハハ!! 逃げても無駄だ!! それならばこうしてやろう!!」
“雷魔法・雷弾”
ゴォン!! と音を響かせると、超速度の雷撃がヒノトに直撃し、シールドを破壊される。
「しまっ…………!」
そして、既に眼前には剣を構えるキラ。
「まず…………一人目ェ!!」
“闇魔法・幻花”
ブォン!!
リリムは咄嗟に闇魔法を発動し、ヒノトを幻影に隠し、キラの攻撃を防いだ。
そのまま、ヒノトはリリムの方へと後退する。
「すまん…………助かった…………」
「怒りたいところだけど……こんな超速度の戦いが起きるなんて予想できるはずない…………。こっちから全然仕掛けられないし、アイツの単独なのに捉え切れない速度の攻撃の連発はなんなの!?」
困惑するヒノトたちを他所に、キラの弟、キル・ドラゴレオは、手もとの銃に水魔力を溜めていた。
「 “雷帝” の勲章を得る条件…… “王族” “雷属性” “戦う意志” だけだと思ってるよね、多分…………」
「そうじゃ…………ないんですか…………?」
キルの直ぐ背後で、支援魔法を放ち続けるニアは目を逸らさずに訊ねる。
「レオ様と兄さん、共に同じ条件だからそう勘違いする人も多いんだけどね……。元々、兄さんがそう呼ばれ始めたのは、“勲章” なんて名誉なものではなく、むしろ逆、『こんな奴が次代の神童なの?』って嫌味な声たちから言われ始めた勲章なんだよ。ま、そこもレオ様と被っちゃってるんだけどね…………」
ニアは、露骨に疑念の顔を浮かべる。
「ンナッハッハッハ!! 並んだのなら二人まとめて葬ってくれよう!!」
再び、狙いを定めたキラは縦横無尽に駆け出す。
「 “雷帝” の勲章は、“自由奔放で単独戦闘を好む独善的な王” として揶揄された名前なんだよね」
その瞬間、キルはニヤリと笑った。