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皆さんこんにちは。アメリカと日本の話を投稿しようと思ったら、ふと考えたやつを書いていたほうが先に完成してしまったので投稿します。
今回の物語は🇨🇦と🇺🇸の話で、時代は1870年代頃の話。設定としては🇨🇦が自治領で、まだ14程度の子供。🇺🇸が既に独立していて、イギリスの元からは出ている状態。
お互いに一度も会ったことがない状態…今回は二人が会うお話ですね。
多くの作品では幼少期に2人はほぼ同年齢として描かれることが多いので…自己解釈になっています。
もう一度言います。自己解釈です。
カプではありません
年の差のある二人が描きたくてですね……
⚠️本作には
特定の国に対する反感の助長や戦争賛美など反社会的思想の肯定や擁護、誘発する意図は一切ございません。
また、🇬🇧推しの方は少し注意です。厳しい性格として描かれています。
自衛をお願いします
もう一度言います。自己満足、自己解釈です。
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
僕がカナダ自治領になってからしばらくした頃だった。
相変わらず曇り空の外から差し込むのは薄暗い光。晴れる日なんて滅多にないし、ましてや外に出してもらうことも難しい。
いつかは広々とした青空の下で走り回ってみたいな。お父様が淹れた紅茶のティーカップを持ちながら、そんなことを思っていた。
そういえば、僕には血の繋がっていない兄がいる。それも最近になってこの世界のトップになった大国。そう、アメリカだ。この世で知らないやつだなんてそうそういないくらい。
でも、面識があるわけじゃないし、僕がイギリスの領地となる頃にはすでに独立をして家を出てしまっているから、兄弟なんて言葉はただの義理の肩書に過ぎなかった。
お父様も、兄が独立して、自分を上回ったことを妬ましく思っているのだろう。
なかなか兄のことを話さないし、言うとしても愚痴だらけ。兄のこんなところがダメだとか。失敗しただの。
こんな堅苦しく重苦しく…規律正しい家の中から自分で独立した兄に対しては少し尊敬していた。
ちゃんと自分で反抗して…戦って…自由を勝ち取った…。僕にとって映る彼はまるでヒーローだった。
「…いつか僕も。」
気がつけば口から言葉が漏れていた。
「…どうかしましたか?」
お父様が僕の顔を覗き込んで言った。親の猫を被った支配者の顔。言葉の裏にくっついた意図は相変わらず見下すようなドロドロとした感情だった。僕は急いで背筋を伸ばす。
「いいえ、なんでもありません。」
ゆっくりと、僕は熱々の紅茶に口をつけた。一口飲んで嚥下をし、ふぅと一息ついた。水面に映るのは浮かない顔をした、ユニオンジャックのついた赤い顔。まるで所有物と主張するように。
「そう言えばカナダ。近いうちに会ってもらいたい人がいるのです。いいですか?」
「えっ?」
間抜けな声が出た。なんだか声色がいつもとちがったのだ。違うと言うよりも、複数の気持ちが入り混じったと言う方が近いのかもしれない。
命令する時、支配する時、それからもう一つの知らない何かが入っていた。
「わ、わかりました。どなたですか」
「…あなたの兄ですよ。カナダも少し大きくなりましたし、会いに行ってはいかがかと。」
大きくなった。そうは言っても僕は自治領を選んだ身。まだ成長したとは言い切れるほど大人ではない。
見た目で言うとまだ14ちょっと。それでも、きっとお父様の目にはそう映るのだろう。
「僕一人ですか?」
「ええそうです。私としてはついていってやりたいんですがね、あのクソ息子の顔を見たくないもので。でも、あなたは会っておいて損はないはずですよ。」
「…わかりました。」
うんうん、と父は満足そうな顔で頷き、飲みかけのティーカップをおろした。僕に対しての迷いの時間は与えられることなく。
「一週間後、出発してもらいますよ。」
「はい、お父様。」
「それから、アメリカとは仲良くしておきなさい。」
また浮かんだ笑みは企みが深く彫られていて、まるで
『情報を手に入れてきなさい。私とアメリカを繋ぐ橋となりなさい。』
とでも言いたそうだった。
実を言うと、めんどくさい。と言う感情よりも僕はワクワクでいっぱいだった。初めて一人で外に出るし、僕にとっての憧れであるアメリカに会えるからだ。
兄弟であるという実感こそはないが、まるで夢のような自由への切符を手に入れた気分だった。
浮き足ったった心で僕は荷物をまとめようと鞄を探し始めた。お父様が言うには兄の家に泊まってもいいと言っていたので着替えはもちろん、移動にかかる時間の分だけの荷物もだ。
おそらくアメリカの家に着くまでは短くても二週間ほどかかるらしい。イギリスから北アメリカ大陸までは船で行き、そこからは馬車で…と言うように初めての外出にしてはだいぶ大きな冒険になる。
部屋から大きなバックパックを引き出して、洋服と靴と、それから地図も、ランプと食料とコンパスと、紙と、ペンと…数え切れないくらいだった。
それを一気に詰め込もうとしても流石に入り切らなそうで。結局僕はもう一つバックパックを出そうと物置へと向かった。
物置へと向かう途中、いつも当たり前のようにある兄の部屋の扉が目に止まった。いつもなら気にしないはずなのに今日ばかりはどうしても気になってしまった。
「お兄様は…僕くらいの時何してたんだろう」
きっと、会う前にお兄様についての情報を集めたら、きっとうまくやれる。そして父に喜んでもらえる。兄弟として役に立てる。
そんな感情なんて置いて行って1番に先だったのは好奇心だった。抑えようとしても無性に高鳴りが治らなかった。
だから、僕は恐る恐るドアノブに手をかけた。
鍵は閉まっておらず、開けるとすぐに隙間から埃っぽい空気が流れ出した。
「けほっ…けほっ」
少し吸うだけでむせてしまった。手で埃をはらいながら中へ進むと、部屋の中は思っていたよりも何もないことが分かる。
積み上がった本、勉強道具、机の中には古い救急箱、包帯。どれも埃かぶっていた。
クローゼットの中には既に虫食われているよそ行きの服らしいものが一着。
部屋の隅には割れたまま、片付けられていないティーカップが転がっていて、こぼれた紅茶が床のシミになっていた。
(ほとんど持っていっちゃったのかな。)
そう思った。はたまた、元から持っているもの自体が少なかったのか。本来この部屋にあるはずだった、兄の姿も、時間も、温もりも。僕には感じることができなかったんだ。そうひしひしと感じた。
「情報もないみたいだね。」
お父様にバレる前に早く部屋を出なくては。元々ここは暗黙の了解で、立ち入り禁止のはずだった。きっとここに入ったことが知られると、父にとってのアメリカは地雷でしかなく、どんな罰を下されたとしても何もいえない。
立ち去ろうと足を前に動かすと、床に置いてあった本?と言うよりも日記帳に近いようなものが足にぶつかった。
「いたっ…!…ん?」
置いてあった日記帳は他のと比べてみると何度も使い古したような、強く力を入れたような…なんだか僕には重要そうなものに見えた。
「開けてみようかな…」
震える手つきで手に取り、めくろうとした。
「カナダー!荷物まとめましたか??」
「…っ!!やばい。」
少し遠くの廊下からお父様の声が聞こえた。僕は急いで廊下に出て、二つ目のバックパックを取り出し、冷や汗を拭いながらお父様の元へ向かった。
「どうですか?上手くまとめられないでしょう」
お父様は僕のいっぱいになったバックパックを見つめて言う。こんなに長いこと帰らなくていいだなんてことは生まれて初めてで、正直何を詰め込めばいいのか分からなかった。
「はい。すぐにいっぱいになってしまったのでもう一つ持ってきました。」
「いい判断だ。でもすぐに終わらせなさい。明日の昼には出てしまいますよ」
「はい、お父様」
監視をしにきたのか、部屋のことがバレたかはわからないが、不気味な笑みを浮かべる姿は変わらずだった。
「…カナダ。肩に埃がついていますよ」
「…あっ」
背筋が凍る勢いだった。まさかバレた?やはり知った上でこちらにやってきたのだろうか。緊張と恐怖で体がこわばる。
「物置は埃が多いのです。私の息子たるもの、いかなる時も身だしなみには気を使いなさい」
そういい、僕の肩の埃をはらった。安堵した僕は胸を撫で下ろして俯いた。でも、その時のお父様の顔はなんだか…まるで。
いや、きっと気のせいだろう。
すると父はコツコツと靴の音を立てて長い廊下を去っていった。僕ら以外に誰もいないから余計に響く。
「…よし」
お父様がいなくなったことを確認して、僕は再び音を立てないように兄の部屋の扉を開けた。先ほどよりはマシになった埃が再び流れる。急いで僕はさっきの本を手に取り、自室へと運んだ。
「どうしよう…」
誰もいない部屋にぽつり。僕だけの声が響いた。いざ冷静になってみると人の日記帳を覗くだなんておかしいんじゃないだろうか。普通、心の内側を覗き見するような行為と同等なのではないだろうか。
良心と好奇心がせめぎ合った結果、僕は負けてしまったようだ。
ぺらっ…
一枚めくれば、おそらく幼い兄の字が見えた。拙くて、汚くて、感情のこもった文字。それと同時に見えたものは
負の感情だった。
めくるたびに、父から受けた暴行、体罰、躾、精神的な攻撃、強い束縛…僕とは比べ物にならないくらいの苦しみが綴られていた。
「これが…お兄様?」
僕にとってのヒーローだった兄も、かつては父の支配下で苦しんでいたのだ。僕よりも強く、痛く。それなのに毎ページごとに必ずと言っていいほど書かれていたのは、
『絶対に独立してやる』
その強い意志と希望だけは捨てきれていなかった。こんな環境でも何度も立ち上がって、戦って。絶望するだけじゃない。
でも、何より兄もかつては僕と同じように苦しんでいたと言う事実がものすごく衝撃的だった。強くて大きな国、僕は到底届かない存在。兄弟だと言い張れない。そう思っていたのに、
兄にも、そんな時があったんだという事実が、なぜか僕の胸に刺さった。
「カナダ。忘れ物はありませんね?」
「はいお父様。全て入れました」
二人しかいないのにも関わらず、慌ただしい朝だった。
「途中で寄り道はしないように。時間は限られていますから。…それから」
「ーーアメリカとは仲良くするのですよ」
いつもの言い方ではなかった。それどころか、命令の感情が少し薄いことに気がつく。まるで、僕らのことを心から思っているかのように。
僕は一拍置いて答えた。
「…はい」
玄関にはもう馬車が来ていたようで、僕は重たい荷物を抱えながら歩く。御者の人に挨拶をして、どさっっと荷物を置いた。
「ふう…」
と一息ついてみた。
「カナダ。」
優しい声色でこちらへ手招きする父は、なんだか柔らかいはにかみだった。
「もしよければアメリカの様子を報告してくれませんか?元気か…忙しそうか…あ、ちゃんと寝ていますかね。」
「え…」
想定外だった。まるで実家から離れた息子を思う父親のように見えて、とても嫌っているようには見えなかった。
「変わったことがあったら…帰った時にでも、私に報告してくれると嬉しい」
「わかりました。」
嬉しいだなんて言葉、命令じゃないから尚更やらなくてはと言う気持ちにさせてくる。なんだか断りづらかった。
「あ、あとあなた宛に手紙を預かっています。移動中にでも目を通しておきなさい」
預かった便箋には差出人がアメリカ。宛名が僕の名前が綴られていた。まだ封が切られておらず、父が目を通していないことがわかる。
父の言い方はだ他の伝達に過ぎないようだが、僕にはなんだか特別なものに見えて仕方がなかった。
「ありがとうございます。」
手紙を懐に入れれば、父はその先はもう何も言わなかった。
玄関の前。外は既に旅立ちの空気を纏っていた。
「では、気をつけるのですよ。間違っても恥ずべき行為はしないように」
シルクハットが影になり、父のモノクルも反射しているから、表情がいまいちわからない。けれど、手厚く見守っていたいと言う感情が感じられた。
「はい、頑張ります。」
僕がそういうと、御者の人が馬を走らせ始めた。僕は、内装はよく知っているはずなのに見慣れない家の外観と、小さくなっていく父の姿を見つめていた。
馬車道に揺られる中、僕はいまだに便箋を見つめていた。なんだか開けるのが申し訳なかったのだ。日記をのぞいた身としては、兄の過去を知っていると言う人物になってしまった。
僕は、現在の兄がどんな人かはわからない状態。つまり、何も知らない状態で会うのと、過去を知っているかどうかはまた変わってくるのだ。
きっと日記を見ずにいたら、「あ、僕のお兄様はこんな人なんだ。」それだけで済むはずだろう。
けれど比較対象がある状態なら、「かつてはもっと弱かった。」だとか、自分でも届いてしまいそうだと、誤認してしまいそうで怖かった。
僕にとっての希望であり、支えである兄は、いつも完璧なヒーローでいて欲しいというわがままな思想だった。
ゆっくりと一息を吐き、封蝋に手をかけ覚悟を決めて引き剥がす。入っている手紙は一枚。折り畳まれたものだった。
両手を使い開くと、中に書かれていたのは日記とは比べ物にならないくらい。大人のしっかりした文字。
『Dear my brother
遠いところから来てくれてありがとう。急な話で驚かせてしまったことを謝らせて欲しい。でもカナダと会えることを心から嬉しく思っているよ。
カナダが兄弟になったと知らされた時、ものすごく嬉しかったよ。
まだ堅苦しいところもあるかもしれないが、書き方がこれくらいしかわからないんだ。どうか笑って許してくれ。
それから、長い旅になるだろう?こちらでは温かい飲み物を用意して待っているから。
どうか道中は気をつけてくれ。 From America』
短い文章。それでも一つ一つに気遣いがこもっていた。やはり、この手紙に綴られていたお兄様は僕が想定していたような人だった。
でも、日記を読もうが読まなかろうが、僕の憧れの象徴であると言う事実は何も変わらなかった。
「…歓迎、してくれてるんだ」
社交辞令かもしれないけれどそれがどうしても嬉しくって。しばらく折り畳まずに文字を見つめていた。
血が繋がっているかなんて書いていない。国の立場も政治のことも。何一つ。
ただ書いてあったのは会えることが嬉しいと言うこと。それだけだった。
どうしようもなく胸があったかくなる感覚がした。さっきまであった不安が萎んでいく感覚がして、日記の中の兄と手紙の中の兄がゆっくりと、一人の人物になっていく。
それから僕は馬車を降り、二週間にわたる船の旅に出た。何度かお父様と乗ったことはあるけれどどうしても苦手で、一人旅で楽しいはずなのに楽しむ余裕はなかった。
その後、北アメリカ大陸についた後は、父が手配したであろう馬車がいて、また揺られる。ロンドンとはまた違った街並みでなんだか新鮮だった。
しばらくすれば街から外れ、人気のない静かな道へと変わっていく。流れる時間は実におだやかで、小鳥が鳴いていた。
「あ、あれかな?」
目の先に見えたのは大きな屋敷。この辺りに民家も何もなく、ポツン…と言うには少し大きいが。それっぽいものだった。
御者の人もそろそろつきますよと報告をしてくれた。僕は急いで荷物をまとめて、降りる準備をした。
(緊張してきた…)
世界で知らないものはいない大国。僕よりずっと年上で、憧れであり、初対面の兄弟であり、僕にとってのヒーロー。兄弟だと言われても実感なんて湧かないくらいに遠い存在だった。
馬車を降りると大きな門がそびえ立ち、僕をちっぽけな存在にしてきた。重そうな鉄の扉は、向こうの屋敷を簡単には見せてくれない。
「でかい…」
見上げていると奥の扉が開く音がし、足音の後にたて続きに門の扉が開く。ぎぃ…と扉は音を立てて、そこの影から現れたのは背丈の高い青年。きちんとした服装、ちょっと硬い表情。そう、
アメリカだった。
一瞬の沈黙。
気まずいまま僕らは見つめあっていた。ひと呼吸置いてから兄は口を開いた。
「…いらっしゃい。長旅だっただろう?よくきたね」
思っていたよりも低めの、落ち着いていいた若い声。言葉が抜ける時に少しだけ緊張を挟み込んでいた。
僕は裏返る声を抑えながら背筋を伸ばす。
「こっ…こんにちは。えと…あ、か、カナダです。」
緊張していたし、どう接していいかわからず、ぎこちない名乗り方だった。アメリカは一瞬驚いたような顔つきになったが、すぐに小さく笑った。
「うん。知ってるよ…会えるの楽しみにしていたんだ」
その言葉は滑らかでつっかかるものが何もなく、僕の心が少し暖かくなる感じがした。
さっきまで大きかったはずの屋敷は威圧的ではなく、人が住んでいるような確かな温もりを感じた。まるで自分が住む屋敷とは違う、自由にあふれる匂いだった。
「さあ、上がって」
と言う言葉を合図に僕はお兄様の家へと上がった。どうやらリビングに案内してくれるらしい。まさかとは思ったが客間に案内されなくて本当に良かった。
いや、きっと兄弟ならリビングに案内するのが普通なんだろうが、どうしようもなく不安だったのだ。
リビングまでの廊下の途中、アメリカは部屋の説明をし出した。
「右の部屋が書斎、あっちの扉が客間で、向こうは…もう使ってない物置。こっちは寝室」
通り過ぎる一つ一つの部屋にこのひとが生きてきたという時間が詰まっているような気がした。
僕がこっそり兄さんの部屋に入った時には感じられなかった。いや、生きてきたと言えないのだろう。こちらはなんだかのびのびとした優しさで溢れていた。
壁にはいくつかの絵画、風景画が多くってどれも鮮やか。その隣の棚には少し年季の入ったトランペット。
僕が目に止めると兄が気がついたようで、
「それ、昔知り合いからもらったんだよ。まあ…そんなにうまくはないけれどな、たまに吹くんだ」
「そうなんですね…お兄様はどんな曲を?」
「お、じゃあ後で楽譜を見せようか」
「ありがとうございます。」
世界の大国とはまた違う印象だった。なんだか意外で人間らしい趣味。あの部屋からは感じられなかった鮮やかさだった。
リビングに通されると、大きな窓から眩しいほどに明るい日光が差し込む。イギリスじゃ晴れてる日なんて滅多にないからなんだか少し新鮮だった。
僕がソファに腰掛けるとアメリカはすぐにキッチンへと向かう。
「お茶、いれるね…長いこと船にいたからつかれたでしょ?」
「あ…」
あの手紙に書かれていたことを思い出した。温かいお茶…約束事をしっかり守ってくれているようだった。
「お、お願いします。」
僕の言葉を聞いたアメリカは少しはにかんで扉を開けて外へ出ていった。
一人きりになった部屋にはとても静かで、それでも窓から差し込む自然の豊かさの音、日光、それから名前でしか知らなかった、ひとりでに音楽を奏でるという「レコード?」と言うものまであった。
ここで兄は暮らしてきたんだな…と思うとなんだかこの空間に足を踏み入れているという事実が突然主張しだし、緊張がぶり返してきた。
しばらくすればアメリカがティーカップにお茶を入れてきて、僕の前に茶菓子と一緒に置いてくれた。
「あ、ありがとうございます」
いまだにぎこちない返事は変わらず、なんだかお兄様も落ち着かないような雰囲気を感じる。
しばらくは天気の話や、道中での話。イギリスでは曇りばっかだとか、船酔いが大変だったとか、途中で会った人の話。
カモメにお気に入りの帽子を取られた話。アメリカでの今の流行や、文化。医学などの技術の話。レコードの話。
なんだか新鮮で面白くって。ぎこちなくもあるが段々と張っていた糸が緩む感じがした。
「あ、あのさ…ところで呼び方ってどうする?」
ちょっと会話が止まり、静寂を放っていたが、その沈黙を破ったのはアメリカだった。
「え…?」
「ほら、ずっと俺のこと“お兄様”だと…ちょっと堅苦しいし…?」
ちょっと恥ずかしそうな、むず痒そうな顔をしていた。思わず僕は背筋を伸ばす
「ですが…失礼に当たるかと」
「失礼以前に、俺らは兄弟なんだろ…?俺は、対等に接したい…」
目の前にいる大国のイメージが、どんどん兄へと変わっていく感じがした。そうか、僕らは兄弟なんだって。大国だからって自分からお願いしないわけじゃないし、見下すでもない。
ただ、お互いに平等に国として、人として、家族として。そう接したいんだと気がついた。
「で、では…なんて呼びましょう」
「んー…何がいいかな。俺はカナダって呼んでるけど…アメリカでもお兄ちゃんでも兄貴でもbrotherでも…ははっ…いっぱいあるな」
あげるたびに指を折りたたむ兄の様子を見ているとなんだか微笑ましく感じられた。僕のことを思って頭を抱えて悩んでいる。応えたい気持ちが飛び出して、僕は口を開いた
「そ、それじゃあ…兄さんって呼んでもいいでしょうか?」
裏返らずに言えた言葉。放った後に全身から汗が流れそうだった。それを聞いた兄さんは目を見開き、驚いた後、嬉しそうな顔をした。
「もちろんだ!my bro!!あ…えっと…」
思わずあがったテンションを恥ずかしそうに隠そうとする兄さんはなんだか微笑ましかった。
「ありがとうございます。兄さん」
「あ、じゃあ敬語もよしてくれよ。」
「え…」
「俺はカナダと“対等”でありたい」
その言葉から、父親の影がチラついた。思えば今日は父さんの手配で来たんだった。兄との関係を取り持つために。でも兄さんを見ているととてもそうとは思えなかった。
まるで、本当に仲を深めるためだけにあっているのでは?と疑ってしまいそうなほど。
それに少なくとも今目の前にいる兄さんは、父が語るような道具でもなんでもない、大国でもない。少し不器用だけれど、弟との距離を測りかねている青年だった。
だから僕は、父親のためでも、道具でもなんでもなく、今日はお互いに一人の人として、兄弟として接することができていることに嬉しさを覚えた。
「もちろんで…だよ!兄さん!」
迷いの捨てきれない言葉を聞いた兄は満足そうに笑った。
「そうだ、お手紙…ありがとうございます。わざわざ丁寧にありがとう…」
「手紙…読んでくれたんだな。ありがとう。突然の招待だったよな」
ん?招待??
「え…招待って、これってお父様が行けって命令したんじゃ…」
「huh?!いや、違う違う。今回招待したのは俺だ!!」
お互いが「え?」と見合わせて気まずい雰囲気が流れていた
「あ、あと…親父はカナダと俺のことを会わせたくないって思ってるから…今回こっちに来れたのが奇跡なくらいなんだよ」
「…お父様はいい経験になるって言ってたからてっきり…」
「…それに、お父様は兄さんのこと心配してたよ」
再び沈黙が流れた。今度は兄さんがびっくりしたような顔をしている。
「…親父がか?」
「うん…」
「変わったんだな。」
「やっぱり違う?」
また一呼吸を置いてから兄さんは口を開いた。
「違うも何も、あいつは人のこと心配するようなやつじゃないんだ。」
「…やっぱり兄さんが…あの家にいた頃は…苦しかったの??」
しまった。ふとこぼれ出してしまった。まるであの日記を読んだかのように、過去を知っているかのように。背筋が凍る感覚がした。もしかしたら嫌われてしまうかもしれない。
でも次に兄さんが浮かべた顔は、疑いでもなく心配そうな顔だった。
「まさか…カナダも何かやられてないか?痛い思いしてないか?苦しい思いしてないか?」
「無理させられてないか?」
「抱え込んでないか…?」
まるで子供を心配するような言い寄り方だった。それもなんだか複数の意味が重なっているようで、過去に語りかけるような。そんな気もした。
「大丈夫だよ。兄さんが想像するほどじゃないし、打たれたりすることも減ったよ。」
それでも不安の目つきは変わらなかった。
「そうか…」
その不安な目つきが僕にとっての確信へと変わるピースだった。あの語りかけ方も、僕と、それから過去の自分へと送るメッセージだったんだ。
また少しばかりの沈黙を置いたあと、僕は口を開こうとする。でも一言目の勇気が出ずに何度か止まってしまう。
「あの…兄さんは、あんなに苦しかったんだよね?」
「…」
否定できない。とでも言いたそうな顔をして、黙っていた。
「…それなのに、どうして独立の道を選んだの?」
兄さんは少し驚いた顔をしたあと、ゆっくりと視線を窓の外側に向けた。
「正直…これ以上同じ場所にいたくなかったんだよ。独立することが目標でもなく、希望でもなく。」
兄さんは言葉を探すように答えた
「苦しさから逃れたくて、自由になりたくて…でも逃げるのは違うなあって。自分で道は切り開くものだって昔から思ってたんだよ。」
窓から差し込む光が兄さんに当たって、瞳がキラキラ輝いていた。その姿はなんだか、自分の心と葛藤し、夢に向かってただ立ち向かう。ただ一人の青年。
「怖く…なかったの??」
「そりゃ怖かったさ。失敗したらどうしようって…でもね」
「それ以上に自分で立ちたいって思ったんだ。その時に初めて、俺ってちゃんと生きてるんだって、そう思えたよ」
兄が放つ言葉は、僕の心に優しく刺さった。まるで撃ち抜かれるように。
僕はティーカップをギュッと握りしめた。僕の目に映る兄さんはただ強いだけでもなく、有名なだけでもない。
自分と同じ場所にかつて立っていた人だった。
それでも自分の道を切り開き、逆境を生き抜いた。
そう思った瞬間、兄という存在が少しだけ近づいた気がしたんだ。
ーー夜。ベッドの中。僕は兄さんと同じベッドで眠ることになった。兄さん曰く「せっかくの兄弟なんだ!どうせなら一緒に眠らないか?」と誘ってくれたのである。
僕としては他の人と一緒に眠る機会なんてないもんだから、なかなか眠れない。
家のと比べるとものすごくふかふかで寝心地はすごく良さそうだけどなんだか落ち着かない。道中で鍛え上げたはずのどこでも寝れる能力が台無しになった。
ふと横を見ると兄さんの広くて大きい背中が見えた。きっと、昨日までは信じられなかった光景。再び昼の会話が蘇ってきた。
苦しかった過去。それでも希望を捨てずに立ち向かい、自ら独立を勝ち取った。
(本当にすごいな…)
世界が知る大国、それだけじゃない。苦しさの中で未来を選び取った人。
それはいつの間にか僕にとっての「憧れ」になり、「希望」になっていたんだ。
じっと背中を見つめていると、兄がモゾモゾと動き出し、寝返りを打つ。
(やばっ…)
咄嗟に寝たふりをしようとすると兄さんが声をかけてきた。
「眠れないか?」
…どうやらばれていたらしい。小声で返事をすると兄さんはむくりと起き上がった。瞳には月明かりが静かに反射しているのが見えて、昼間とはまた違う雰囲気を漂っていた。
「兄さん」
「どうしたんだ、カナダ」
「兄さんってほんとすごいよ。」
兄さんはポカンとした顔をした
「いやいや…そうか?」
「そうだよ」
僕は真剣に続けた
「あんなに苦しくても、辛くても、自分で立ち向かって自由を手に入れた…最後まで諦めなかった。その姿勢がかっこいいんだよ。」
それから止まらずにまた一つ…また一つ。底がないくらいには語り続けていた。アメリカもだんだん居心地が悪そうになり目を逸らし始めた。
「それから…僕のことを今日みたいに心配してくれて…」
「す、ストップ!ストップだカナダ!?」
兄さんは両手を振って僕を止めた。なんだか恥ずかしそうにしていた。
「そんなに褒められると、なんか…むず痒いってか…」
それでもカナダは止まらずまた口を開き
「本当のこと…だから!」
「僕も、希望を捨てない。」
アメリカが再び静かに目を合わせた。
「僕は兄さんみたいになれないかもしれない。けれど僕なりの形で…いつかは胸が張れるような立派な国になるよ。必ず」
放ってから少し間をおいて、アメリカは声をあげて笑った。
「ははっ…なんだよそれ」
そして、ぐっと近づき、僕を抱きしめた。
「さすがは俺のbrotherだ!!最高だよほんと!」
力強くも優しい腕が回る。僕も答えるように腕を回した。
「じゃあ俺も頑張らなきゃな!」
カナダは驚きながらももう一度強くアメリカを抱きしめた。
(ああ…やっぱり)
ただの“大国“じゃない、ただの“兄“じゃない。自分が進む道を照らしてくれる存在なんだ。
朝の光が、カーテンの隙間から差し込んでいた。朝食を終え、そろそろ食後のティータイムも終わろうとしていた。
「まだ、いてくれても良いのに…」
出発の準備をしているとアメリカがポツリと言う。
冗談めかした声ではあるが、心の奥から感じ取れる気持ちは本音らしかった。
「お父様に…すぐ帰るよう言われちゃって」
「はー?そんなの無視無視!!これからは俺がパパだ…」
アメリカはクスクスと笑う。
「アメリカパパなら僕も安心だなぁ、養子にでもなろうかなぁ〜」
僕もそのノリに乗っかるように笑った。暖かな笑いが朝日と共に照らされていた。
昨日潜ったばかりのもんを通ると、既に馬車が迎えにきていた。
(…もう、帰らなきゃなんだ。)
いざ、事実を目の当たりにするとどうしようもなく寂しさが募った。
「そうだカナダ。これ」
そう言い差し出されたのは、僕が旅の前にもらった手紙と同じ便箋だった。封蝋は赤ではなく青色だったが。
「帰る時にでも読んでくれよ。」
「わあ、ありがとう…!」
するとアメリカは頬をかきながら照れ臭そうにいう
「いつでも遊びに来てくれよ。文通もしよう。雑談でも愚痴でも、頼み事でも…なんだっていい。」
その言葉に目頭がつうんと痛くなった。嬉しい。けれど同時に離れてしまう寂しさ…人生で初めてだ。こんな気持ちは。
誰かのそばにいること、過ごすことがこんなにも暖かいだなんて、名残惜しく感じることが不思議で仕方がない。
思わず僕は一歩前に出て兄さんを抱きしめる。
「もちろん…!!また会いにくるよ!!」
震える声を隠そうと強く抱きしめた。
「それから…兄さんみたいな大人になるよ」
アメリカは驚いて、それからゆっくり抱きしめた。
背中を優しく叩き
「でも、無理はダメだからな。いつでも俺を頼ること!約束だ」
「うん!!!」
だんだんと大きかった屋敷が小さくなり、兄さんも見えなくなった。景色も変わり始め、昨日見逃したであろう大きな草原が見えた。
「わあ…広いなあ」
もし、年齢がさほど変わらなくて、ここに住めていたなら。兄さんとここで走り回れただろうか。大空の下、時間の流れも気にせずに
ただ。
ーー幸せな時間を。
「ただいま帰りました…」
一人で家の玄関を開けた。すぐ先には僕の父親であるイギリスが立っていた。
「お帰りなさい。長旅で疲れたでしょう。お茶を淹れます。ゆっくり休みなさい」
「はい」
変わらず重苦しい雰囲気だったが、僕の心はそれ以上に軽かった。なれた手つきでリビングに向かい、椅子に座る。父と自分の分のティーカップが置かれて、情報収集タイムが始まる。
…というわけではなかった。
いきなりアメリカの話をするのではなく旅の道中の話、見つけたもの、出会った人…主に自分の体験談を聞いてきたのだ。
正直、この情報収集のためのティータイムは苦手だったし楽しくなかったが、なんだか人生で初めて楽しいティータイムだった。
「ところで、アメリカはどうでしたか?」
…始まった。のだろうか?よくわからないが答えてみる
「元気そうでした。」
「そうですか…」
でもこれだけで、それ以上聞こうとはしなかった
自室に戻りベットに横たわる。隣には誰もいない、ただ一人の寝具。
僕は懐からまだ開けずにいた手紙を取り出した。結局怖くて開けられず、今日まで持ち越してしまった。
「よし…」
手に汗が滲む前に僕は封蝋を剥がして手紙を広げる。文字は相変わらず大人の文字だった。
『Dear My bro
わざわざ遠いところから本当にありがとうな。また長い船旅になるだろうから、とにかく気をつけて。カナダと過ごした時間は人生の中で1番楽しかったぜ。
いつだって来てくれよ。それから、もし親父がいいというなら俺が会いに行くことだってできる。そこに関しては要相談が必要だが、楽しみにしていてくれ。
それから辛くなったら必ずいうんだぞ?お兄ちゃんが親父のところに上陸してやるから。
いつか肩を並べる日を待っているからな。 From America』
初めにもらった手紙とは大違いだった。なんだか目の前に兄さんがいる気分で、ちょっと思い出しては泣いてしまそうだった。
『会いに行く』という言葉は本気なのだろうか。まだわからないが、今日のお父様をみる限り、やはりお互いに寄り添う意思を感じた。きっと兄さんがこっちに帰ってくる日は遠くはなさそうだ。
「…ん?もう一枚あるじゃん」
そこに写っていたのは衝撃的な文だった。
『俺の部屋にある本はなんでも読んで大丈夫だ。物語も、勉学も、基本何でもあるはずだからな。ただ、内容は口外するなよ。俺がちょっと恥ずかしい…』
「…バレてんじゃん。」
兄さんにはやっぱり勝てないや。
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