第12話:選ばれし回収者
廃駅のプラットフォームに、ユイナの足音だけが響く。
長い風の中、鉄の匂いが微かに漂う――だが、それ以上に強く、感じる気配があった。
背中のホルダーには99枚のマスク。
かつて“奪うこと”に戸惑っていた少女は、今や静かにそれを背負っている。
そしてその日、彼女のポケットに入っていたのは、一枚の封筒。
影を溶かした蝋と白銀の紋章――ギフト保持者の中枢、《コア・マスク機関》からの正式な招待状だった。
「“願いを叶える”資格を得るのは、君か、我々か。
その答えは、“回収者の到達点”で明かされる。」
ユイナは、招かれるように駅構内を進んでいく。
地下階段の先――広がっていたのは、“マスク空間”の核。
無数の仮面が宙に浮き、天井を覆うように渦を巻いている。
中央に立つのは、ギフト保持者最上位《ザイン》。
長身の男。赤と緑を反転させた燕尾服。
仮面は左右で色が異なり、右は透明、左は漆黒。
その両目には虚無と観測が同時に宿っていた。
「ようこそ、選ばれし回収者。君が“最初の100”に辿り着く者か」
ザインの声は凪のように静かだった。
ユイナはホルダーから100枚目のマスクを取り出す。
それは、自分の“最初の戦い”で関わった少女――アカリが落とした記憶の断片。
完全なマスクではなく、傷と涙が染み込んだ“未完成”だった。
「私はこれで、100枚目。だけど……まだ、足りない気がする」
ザインが手を広げた瞬間、天井から仮面の渦が降下し、戦場が形成される。
構造は立体円環型フィールド――回転しながら浮遊するリングで構成された特別空間。
「証明してもらおう。君が“願いを持つ者”として、最も強く、最も相応しい存在かどうかを」
ユイナはマスクを装着。
黒と青を基調としたバランス型フェイズフォーム。
意志と感情を両立した“第三人格”で迎え撃つ。
戦闘開始。
ザインのギフトは《ギフト・ミラーコード》。
相手の行動を一手“後追いコピー”し、完全再現する能力。
しかも“本来持つべきだった姿”として出力されるため、ユイナの行動が逆に自分を傷つけるリスクとなる。
彼女の蹴り、打撃、サイトスラストのすべてが――より鋭く、洗練された形で跳ね返ってくる。
ユイナは、リングを飛び、回り込み、死角を作り出す。
しかしザインは仮面を外し、別の人格を召喚する。
ギフト保持者は、10枚の“原初マスク”を持つ存在。
ザインが装着したのは、《オリジン・ゼロ》――願いを否定する仮面。
「お前の願いなど、ただの逃避だ」
その言葉に、ユイナの視界が歪む。
意識が裂かれ、過去の記憶――奪われた感受性、壊した仮面、背を向けた友の顔が押し寄せてくる。
だが、彼女は叫んだ。
「それでも、私は奪われたものを、取り戻したいだけ」
声と同時に、彼女のマスクが光を放つ。
99枚すべての記憶が回路のように脳を走り、“視える目”が真実に届いた。
「サイト・リリンク」――
すべてのマスクから繋がる記憶の糸を反転させ、ザインの“偽りの再現”を打ち破る。
炎が、氷が、空間がぶつかり、崩壊と再構築が交錯する戦場。
そして最後、ユイナの拳がザインの胸に届いた。
仮面が砕けたわけではない。
だがザインは後退し、静かに目を閉じた。
「君は……届いたか。ならば、願いへと進むがいい」
彼の背後、巨大な“仮面の門”が開く。
ユイナは傷だらけの身体を起こし、マスクを静かに外して言った。
「……私はまだ、願いが何なのかさえ、よくわかってない。でも、進む」
その目には、仮面では覆えない“本当の意志”が宿っていた。
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