テラーノベル
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暗い、密室のような部屋に今彼女は居る。
窓からは小さな星がぽつ、ぽつと輝いている。
『ごめーん!電気つけるの忘れてたー!』
明るい声で、茶髪を高く結んでいる少女がリトナに話しかけている。
リトナはコクッと頷き、外を見ようと立ち上がった時、聞いたことない音が耳に入って来た。
『えーこんな時間に誰?ちょっとついて来てよ!』
リトナは手を引かれて階段を降り、扉がある部屋まで連れて行かれた。
少女がその扉を開けた時、何かに刺された。
黒い影の何かがこちらを見た。表情は見えないのに笑っている様な気がする。
その影にリトナは手を伸ばした。
目が覚める。いつもの部屋だ。
天井に伸ばしている手を引っ込め、ベットに倒れる体を起こす。
窓からは朝の日差しが差し込んでいる。
「…またあの夢か。」
リトナはよく、夢をみる。
紅い目をした少女が何かに殺される。そんな夢だ。
嫌な気分になったリトナは気持ちをさっぱりさせる為洗面台に向かった。
顔に水をかけ、洗った後鏡を見るとそこには夢で見た赤い目の少女が微笑んでいた。
数回瞬きをすると彼女は消え、驚いた顔のリトナがその場に残っていた。
はぁとため息を吐き、部屋の外に出た。
さて、今日はどうしようか。
急ぎの仕事は無いし、いい天気だし散歩でも行こうか。
なんて考えていたら背中の方からドダドダと足音が聞こえて来た。
「すまん!ちょっと通してくれ!」
「サーナルガ!?どしたん?」
「寝坊した!仕事遅れたらやばいねん!」
リトナの横を彼が風の様に通り過ぎて行く。
彼女は穏やかに笑いながらゆっくりと手を振る。
いってらっしゃいと、小さくボソッと呟いて。彼女は踵をひるがえす。
赤い髪と白いアホ毛をゆらゆら揺らしながら、ファイアール・ヌーヴェルトは静かな廊下を歩んでいた。
静かな、とは言っても誰かのうめき声だとか枯れ切った声は一部の部屋から聞こえる。
でも彼の用事はそれでは無い。
別の所だろうかと踵をひるがえすと、少女が一人立っていた。
こちらに気づいた瞬間表情をぱっと明るくしてファイアールの方へと走って来て、 とても勢い良く、全力で抱きついて来た。
「ファイアール兄だぁー!どうしたの?」
「いっだ!?」
そして今に至る。
腹に体当たりを決められたファイアールはうずくまり、少女はそれを見て慌てている。
はぁとため息を吐く音が聞こえた後、ファイアールに手を伸ばす少年の姿が見えた。
「…大丈夫?ファイアール兄…」
「おう…俺もいい加減慣れねぇとな…」
差し出された小さな手を掴み、ファイアールは立ち上がった後二人をジッと見つめた。
桃色の可愛らしい髪を下の方で二つに結んだ少女は、翡翠色の丸い両目のうち、右目を眼帯で隠している。
彼女はルドベキア、苗字は無く必要な時はファイアールのものを使っている。
逆に翡翠色の髪を静かに揺らす少年は、ジトっとした梔子色の瞳を覗かせる。
さらっとした前髪が目の一部と被り、全貌が見える事は滅多に無い。
彼はロタネ、ルドベキアの双子の兄であり、真面目で静かな少年だ。
「しんどくないか?辛くないか?」
「「全然へーきだよ!/へーきだよ。」」
二人が同じタイミングで同じ言葉を揃えた後、ファイアールは笑う。
「そっか、じゃあよかった!頼むから無理だけはしないでくれ。」
「「もちろん!/もちろん。」」
撫でてくれる彼の手が、二人は大好きだ。
手をパッと放し、 離れて行くファイアールを、二人はじっと見つめていた。
「…どうする?ルド。」
「どうしようねぇ?ロタ君。」
「いや、そうじゃなくて…今から何するのかなって事を…」
ロタネの説明にルドベキアは納得し、しばらく考えた後にボソッと呟いた。
「…お仕事?」
「じゃあ同じだ、早く行こう。」
そして小さなB級幹部の二人組は、禍々しい廊下の奥へと歩んでいった。
リュートル・フェイスナルは今、ヴィーナスの話し相手となっている。
食事が美味しく、おしゃれなカフェに彼女はぴったりと似合っている。
腕のタトゥーが見えないだけでもこんなに印象が変わるんだなと思っているリュートルに対し、彼女は口を開く。
「最近あいつがまーた悪戯だのなんだのを繰り返してて…うざったいんですよね。」
「貴方本当二人の時言葉選びませんね?」
ヴィーナスとリュートルは仲が良く、二人でよく遊んだり食事に行っている。
まぁほとんどヴィーナスの愚痴にリュートルが付き合っているだけなのだが。
「…リュートルは辛い事、無いの?」
「お気遣いどーも。私は元気なので大丈夫ですよ。」
返事をしながら、甘いケーキを口に運ぶ。
これ美味しいなと思いながらそれを紅茶で流す。最っ高の瞬間だ。
「ま、なんかあったら言って欲しいわ。私のにも付き合ってもらってるしね。」
「それはもっと信頼できる人にしますよ。」
「あんたいつのまに毒舌キャラになったの?」
「それは貴方の役割ですよ?」
二人で目を合わせ、笑う。
リュートルはこの時間が嫌いでは無い。
あっという間に残りひとくちになったケーキの味を噛み締めて、今日の至福の時間は終わった。
自分の部屋で、体をグッと伸ばす男の影が見える。
眠たげに目を擦りながらジュピター・アガメムノンは鏡に向かい合う。
ジッと、ただ閉じているような目がそこに映った。
指でぐっと口角をあげて、偽りの仮面を被る。
笑っている顔の男は、その表情のままあくびをして、部屋の扉に手をかけた。
「いだっ!?」
がごっと言う物音と共に扉は外に開く。
おでこを押さえながらしゃがみ込んでいるリトナがそこにいた。
「…」
「…った…」
「…ごめん!」
「いいよ!」
いつもの笑顔を見せるリトナに対し、ジュピターは何故か親近感を覚える。
まぁ気のせいだろうと思いながらも、彼らは二人で共同のリビングまで歩く。
お互いのんびりしようかとしたらお互いの秘書であるC級幹部がパッと目の前に現れた。
「緊急の仕事でございます。東北の方向にある森に魔物が出たとの通報がございました。先程見た限りAランクは行っております。」
二人は目を合わせた後、ニッと笑いながら同時に口を開いた。
「「了解。」」
自身の武器を持ち、ちらっと秘書の方を見つめると、理解したようにこちらを見つめ返して来た。
「「瞬間移動。」」
二人の声が重なった時、リトナ達は目を開けると森の一歩手前の大きな草原だった。
後ろを振り返ると、巨大な魔物がその場にいた。
Aクラスのクレイジーラビット。
にしては大きいのでSクラス行ってるか行ってないかぐらいだろうか?
目を合わせるタイミングがバチっと合った二人は笑い、武器を手に取る。
「「〝任務開始!〝」」
二人は息ぴったりにセリフを語った。
リトナの目は、徐々に紅く染まって行く。
完全に染まり切った目は丸い目を不気味に見せる。
二人同時に地面を蹴り、リトナは下から。ジュピターは上から魔物に向かっていく。
「遠隔操作。」
ジュピターが何かを複数投げた後、そう唱えた瞬間、空に浮かぶ三つの点が紫に光った。
ぐっと手で動かすように、その点を凄まじいスピードで動かしまくる。
「解除。」
そして三つ同時に、魔物へ降り注ぐ。
それの正体は槍だ。
二つの槍で魔物を弄び、残り一本の槍で自身の周りを固める、これが彼の戦闘法なのだ。
目を紅く染めたリトナは左の双剣を前足に向かって投げる。
見事にそれは的中し、残った右の双剣と繋がる鎖を掴み、片割れを引き寄せる。
魔物は怒りながらリトナに噛みつこうと物凄いスピードで頭を突っ込む。
「能力強化。」
咄嗟に魔法を唱え、攻撃を避ける。
土が抉られ、周り一面に飛び散っている。
あれに当たればやばいと、普通なら心臓が飛び出そうなほど怖いだろう。
だが、彼女が感じているのは高まって行く高揚感だけだった。
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