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#現代ファンタジー
裏五条
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闘技巨王バルグラン・ミノス。
鹿島ダンジョンの主は、ただ強いだけじゃなかった。
大戦斧で前衛を押し潰し、鎖付き鉄球で後衛を狙い、さらに咆哮で魔物の群れを呼ぶ。
この闘技場そのものを使って、俺たちを潰しに来ている。
そう理解した直後、鉄格子の奥から魔物の群れが溢れ出した。
ブラックドッグ。
小型ゴブリン。
コウモリ型の魔物。
一体一体は、ここまで来た俺たちにとって致命的な相手じゃない。
だが、数が多い。
しかも、目の前にはバルグラン・ミノスがいる。
雑魚だけなら処理できる。
巨王だけなら、まだ向き合える。
だが、この二つが同時に来ると、話が変わる。
「本体だけに集中させてくれないタイプか……!」
俺は剣を構え直しながら、舌打ちした。
ブラックドッグが左右に広がる。
小型ゴブリンが数で押し寄せる。
上からはコウモリ型が羽音を響かせて降ってくる。
その奥で、バルグラン・ミノスが大戦斧を持ち上げた。
「セリナ、正面頼む! ノエルは後衛に結界を! クロエ、雑魚を減らしてくれ! フィーネ、巨王の危険行動の確認を頼む!」
「承知いたしました」
「任せて!」
「オッケー♪」
「……はい……!」
返事が重なる。
セリナが二枚盾を構え、巨王の正面へ出る。
ノエルが手をかざし、フィーネとクロエの周囲に結界を重ねた。
クロエはロッドを振り、床を這うような炎を走らせる。
「まとめて通行止めだよ♪」
炎の帯が、ブラックドッグの進路を塞いだ。
黒い犬たちが一瞬足を止める。
そこへ、クロエの小さな火球が連続で撃ち込まれた。
爆発。
青い光。
黒い影が消える。
上空から降ってきたコウモリ型は、ノエルの球形結界に弾かれた。
「上、来てるわ!」
「任せて!」
クロエがロッドを上へ向ける。
細く絞った炎が走り、コウモリ型を撃ち落とす。
フィーネは周囲を見渡しながら、次々に声を飛ばした。
「……右から、ゴブリン五体……! 左上、コウモリ型……!」
「了解!」
俺は抜けてきたゴブリンを斬る。
一体。
二体。
三体。
小型ゴブリンは軽い。
だが、巨王の攻撃を気にしながら処理するとなると、厄介さが跳ね上がる。
視界の端で、バルグラン・ミノスの大戦斧が振り下ろされた。
「斧が来ます……!」
フィーネの声。
セリナが盾を合わせる。
その直前、ノエルがセリナの盾の前に小さな結界を一枚重ねた。
巨王の斧が、球形の結界に叩きつけられる。
バキィンッ!!
結界が砕ける。
その分だけ勢いが削れた大戦斧を、セリナの二枚盾が受けた。
ガァンッ!!
それでも重い。
セリナの足元の石床に亀裂が入る。
だが、今度は一歩も下がらない。
「……重い一撃です。ですが、皆様の道を閉ざすほどではございません」
「セリナ、無理しないでよ!」
ノエルが声を張る。
「ご心配ありがとうございます、ノエル様」
セリナは盾を構えたまま、静かに答えた。
「ですが、まだ問題ございません」
『セリナ耐えてる!』
『ノエルの結界補助いいな』
『盾の前に結界挟んで衝撃削ってるのか』
『雑魚も多いのに連携すごい』
『これ全員忙しすぎる』
コメント欄が流れていく。
その間にも、巨王の鎖鉄球が動く。
じゃらり、と鎖が鳴った瞬間、俺は後衛側を見た。
「鉄球が来るぞ!」
「分かってるわ!」
ノエルが後衛を包む球形結界を厚くする。
棘付きの鉄球が結界を叩き、表面にヒビを入れた。
ノエルの顔が歪む。
「っ……もう、さっきから重すぎ!」
「……戻り、来ます……!」
フィーネの声。
クロエがすぐにフィーネを引き寄せる。
「こっち!」
鉄球が鎖に引かれて戻る。
球形結界の外側を削るように通過し、床石を砕いた。
破片が飛ぶ。
ノエルは結界を張り直しながら、顔をしかめる。
「守る場所が多すぎるのよ、この闘技場!」
「文句はあとで聞く!」
「あとでたっぷり言うわ!」
言い返す余裕があるだけ、まだましだ。
だが、状況は悪い。
雑魚は減らせている。
けれど、減らしても減らしても、巨王がまた咆哮すれば湧く。
そして、巨王本体はまだほとんど傷ついていない。
このまま雑魚処理を続けるだけでは、じり貧だ。
「雑魚を倒し続けても終わらない」
◆
俺は巨王を見上げた。
「あいつを、まず止めるしかない」
斬るか。
いや、さっき試した。
俺の剣なら外殻に傷は入るだろう。
だが、そもそも届かせてもらえない。
地上なら斧。
空中なら鉄球。
懐に入れば柄で払われる。
正面から攻めるのは、かなりきつい。
なら、別の場所を見るべきだ。
俺は巨王ではなく、足元を見た。
闘技場の床。
そこには、無数の亀裂が走っていた。
中ボス戦でできた傷。
雑魚ラッシュで削れた石床。
巨王の斧が砕いた跡。
鉄球がめり込んだ穴。
そして何より、バルグラン・ミノス自身が踏み込むたびに、床が大きく沈んでいる。
巨王が重すぎるのだ。
あいつは一歩踏み込むだけで、石床を軋ませる。
大戦斧を振る時には、踏み込みの力が床に集中する。
鉄球を引き戻す時にも、足元で床を噛むように踏ん張っている。
「……そうか」
俺は小さく呟いた。
「シンゴさん?」
ノエルが俺を見る。
「弱点を探すより、早いかもしれない」
「何が?」
「あいつの足を斬るんじゃない」
俺は床に走る亀裂を見た。
「床を壊す」
ノエルが一瞬、ぽかんとした。
「床!?」
「そうだ。あいつは重すぎる。踏み込む場所を崩せば、体勢が崩れる」
クロエが炎でゴブリンを焼き払いながら、にやっと笑った。
「お兄ちゃん、そういうゲーム攻略っぽいの好きだよね♪」
「元ゲームデザイナーだからな」
「でも、床をどうやって壊すの?」
ノエルが聞く。
剣で石床を斬るのは効率が悪い。
メイスで叩き割る手もあるが、今の状況で俺が床を叩きに行くには、少し時間がかかりすぎる。
もっと一気に。
もっと広く。
亀裂をまとめて壊す手段。
俺はフィーネを見た。
「フィーネ」
「……はい……?」
「爆発矢で頼む」
フィーネの目が少しだけ大きくなる。
ノエルも、すぐに思い出したように表情を変えた。
「あれをここで使うの?」
「ああ」
フィーネが作った爆発鉱石を使った武器だ。
大きな爆発と同時に、小さな爆発鉱石が飛び散り、さらに連鎖する。
威力は高い。
高すぎるくらいだ。
だからこそ、味方が近い場所では使いにくい。
狙う場所を間違えれば、こちらまで巻き込む。
だが、今回は敵を直接撃つ必要はない。
狙うのは、床だ。
フィーネは小さく頷いた。
「でも……近すぎると危険です……爆発が広がります……」
「分かってる。俺が、あいつを撃てる位置まで誘い込む」
「誘い込む……?」
「巨王が踏み込む場所を作る。そこに撃ち込んでくれ」
フィーネが闘技場の床を見る。
「……床を、壊すんですね……」
「ああ。狙うのは本体じゃない。足元だ」
ノエルが口元を引きつらせる。
「派手なことになりそうね」
クロエが笑った。
「いいじゃん♪ 闘技場だし、派手にいこ」
『爆発矢!?』
『後衛メイジ吹き飛ばしたやつ!』
『ここで爆発矢再登場は熱い』
『床狙いってことか!』
コメント欄もすぐに反応する。
俺は闘技場の右寄りを指した。
「フィーネ、あそこを見てくれ」
そこは、さっき鉄球がめり込み、中ボス戦でも傷が入っていた場所だ。
表面はまだ残っているが、亀裂がいくつも重なっている。
「……右側の床、かなり傷んでいます……」
フィーネが頷く。
「爆発矢が入れば……崩せると思います……」
「そこへ誘導する」
俺は全員を見た。
「役割を変える。セリナは正面で巨王の注意を引いてくれ。ただし、無理に押す必要はない。あいつが踏み込む方向を少しだけ誘導できればいい」
「承知いたしました」
セリナは迷わず答える。
「ノエルはフィーネを守ってくれ。爆発矢を撃つまで、狙いに集中できるようにしてくれ」
「任せなさい。フィーネは私が守るわ」
「クロエは右側の雑魚を減らして、俺の動線を作ってくれ」
「オッケー♪ 誘導路の掃除だね」
「フィーネは観客席側の高台へ。そこからなら床が見えるはずだ」
「……はい……!」
方針は決まった。
巨王を倒すのではない。
まず、止める。
そのために、あいつ自身の重さを利用する。
「行くぞ」
俺は剣を握り直した。
◆
フィーネが石段を駆け上がる。
観客席のような高台。
そこなら、闘技場の床全体を見下ろせる。
だが、フィーネが狙いを定めるには時間がいる。
当然、魔物たちはそれを見逃さない。
コウモリ型が上からフィーネへ向かう。
小型ゴブリンも、石段を登ろうとする。
ノエルがフィーネのそばへ飛ぶ。
「フィーネ、狙いに集中して。周りは私が守るわ」
「……お願いします……!」
ノエルが両手を広げる。
結界が、フィーネを包むように展開された。
コウモリ型が結界にぶつかり、弾かれる。
ゴブリンの投げた石が、結界の表面で跳ねた。
「はいはい、邪魔しないの!」
その下で、クロエの炎が右側へ走った。
今度はただ燃やすのではなく、雑魚の群れを左右に割るような炎だった。
ブラックドッグが炎を避けて進路を変える。
小型ゴブリンが足を止める。
そこへ、クロエの小さな火球が撃ち込まれた。
「はい、誘導路確保♪」
爆ぜる炎。
青い光。
右側の通路が、ほんの数秒だけ空く。
俺はそこへ飛び込んだ。
目標は、床の亀裂。
そして、そこへバルグラン・ミノスを踏み込ませること。
俺は巨王の正面から少し右へずれた位置を走る。
近づきすぎない。
離れすぎない。
斧の範囲には入る。
だが、直撃はしない距離。
巨王の赤い目が俺を追った。
「こっちだ」
俺はわざと声を出す。
「お前が潰したいのは、こっちだろ」
バルグラン・ミノスが低く唸る。
大戦斧が持ち上がる。
セリナが前に出る。
「シンゴ様、無理はなさらず」
「大丈夫だ。引きつける」
「承知いたしました。では、支えます」
セリナが二枚盾を構え、巨王の正面に立つ。
ただ受けるのではない。
巨王の視線を切らさないように、位置を調整している。
「こちらです」
静かな声。
だが、バルグラン・ミノスには届いたらしい。
巨王の足が動く。
右足。
亀裂のある床の近くへ。
「……右足が出ます……!」
高台から、フィーネの声が響く。
その声を聞きながら、俺は《跳空のブーツ》で低く跳んだ。
巨王の足元を横切るように動く。
巨王が俺を追う。
大戦斧を振るために、さらに踏み込む。
セリナが盾を合わせる。
だが、セリナは巨王の正面から退かない。
巨王は追う。
俺を潰すために。
セリナを押し潰すために。
その足が、狙っていた亀裂の上へ重なった。
「今だ、フィーネ!」
俺は叫んだ。
高台の上で、フィーネが弓を引いていた。
いつもの矢ではない。
先端が少し太い、特別な矢。
爆発矢。
「……いきます……!」
フィーネの指が離れる。
矢が飛ぶ。
狙いは、巨王の体ではない。
足元。
亀裂の中心。
矢は一直線に闘技場の床へ向かい――突き刺さった。
次の瞬間。
どどどーーーん!!
低く、腹に響く爆発音。
床石が跳ね上がった。
最初の爆発を中心に、火と衝撃が広がる。
さらに、小さな爆発が連鎖した。
ばばばっ、と亀裂に沿って爆発鉱石が弾ける。
ひとつ。
ふたつ。
みっつ。
石床の割れ目をなぞるように、爆発が走る。
闘技場の床が、内側から砕かれていく。
「うおっ……!」
思わず声が漏れた。
分かっていた。
威力は知っていた。
それでも、実際に足元の床が連鎖爆発で崩れていく光景は、かなり迫力がある。
『爆発矢きたあああ!』
『床狙い!』
『連鎖爆発やばい』
『フィーネちゃん命中!』
フィーネが小さく息を吐く。
「……命中、しました……!」
爆発は、巨王の足元を正確に砕いていた。
そして、その瞬間。
バルグラン・ミノスの右足が、砕けた床を踏み抜いた。
バキィッ!!
十五メートルを超える巨体の重さ。
大戦斧を振るための踏み込み。
そこへ、爆発矢で砕かれた床。
全部が重なった。
巨王の右足が、石床の中へ沈む。
右膝近くまで、砕けた闘技場の床に飲まれた。
「グオッ!?」
初めて、バルグラン・ミノスの動きが明確に乱れた。
巨体がぐらつく。
振り下ろされるはずだった大戦斧の軌道が、大きくズレる。
斧はセリナの正面を外れ、闘技場の床を叩き割った。
土煙。
砕けた石。
響き渡る衝撃音。
『沈んだ!?』
『足首どころじゃないぞ!』
『膝近くまで埋まった!?』
『爆発矢えぐい!』
『これは止まる!』
『床破壊攻略きたあああ!』
コメント欄が一気に流れていく。
俺は剣を握ったまま、沈んだ巨王の右足を見た。
止まった。
ほんの一瞬だけじゃない。
あれだけ深く沈めば、すぐには抜けない。
バルグラン・ミノスが、床に埋まった右足を引き抜こうとする。
だが、砕けた石床が巨王の脚に絡みつき、重すぎる体を逆に縛っていた。
巨王の膝が軋む。
黒鉄色の筋肉が膨れ上がる。
床がみしみしと悲鳴を上げる。
それでも、抜けない。
「……今なら、止められる」
俺が呟いた瞬間、クロエがロッドを構えた。
「そのまま――」
黒い魔力が、彼女の足元に集まっていく。
沈んだ右足。
砕けた床。
崩れた石の隙間。
そのすべてを、闇が飲み込もうとしていた。
ここから先が、勝負だ。
コメント
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おお、117話読んだ!めっちゃ熱かった!! シンゴが「弱点を直接狙うんじゃなくて、足場を崩せばいい」って発想に切り替えたところ、最高やったわ。元ゲームデザイナーならではの視点やね🔥 爆発矢で床ごと砕いて巨王の足を沈める…もうそのシーンだけで脳汁出たわ。連鎖爆発で床が崩れていく描写も、フィーネちゃんの命中シーンも、演出がめちゃくちゃ気持ちいい。 しかも全員で連携して誘導して、見事にハマった瞬間は鳥肌ものやった!次どうなるかマジで気になるわ。続き楽しみにしてる🔥