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#現代ファンタジー
裏五条
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黒い魔力が、クロエの足元に集まっていく。
フィーネの爆発矢が砕いた闘技場の床。
そこへ踏み込んだバルグラン・ミノスの右足は、右膝近くまで石床の中に飲まれていた。
「グオオオオッ!!」
巨王が吠える。
沈んだ右足を引き抜こうと、黒鉄色の筋肉が膨れ上がる。
砕けた石床がみしみしと軋み、足元から土煙が噴き上がった。
だが、深い。
足首どころじゃない。
右膝近くまで飲み込まれている。
あの巨体の重さが、逆に自分自身を縛っている。
「抜ける前に止める!」
俺が叫ぶより早く、クロエがロッドを構えた。
「足は床が止めてる。だったら――」
クロエの口元が、いつものように軽く笑う。
「上はクロエが止めるよ♪」
黒い影が、闘技場の床を走った。
《闇縛域》。
闇が波のように広がり、バルグラン・ミノスの足元ではなく、胸から上へと伸びていく。
巨王の胸。
肩。
両腕。
首元。
大戦斧を握る腕へ。
鎖付き鉄球を操る腕へ。
頭を振って暴れようとする首へ。
黒い帯のような闇が絡みつき、締め上げる。
「グ、オオオオオッ!!」
バルグラン・ミノスが大戦斧を振ろうとする。
だが、腕が鈍った。
鎖付き鉄球を引き戻そうとする。
だが、肩から先が重く沈む。
完全に封じたわけじゃない。
相手が大きすぎる。
力が強すぎる。
闇の帯は軋み、今にも千切れそうに震えている。
それでも、止まっている。
数秒だけなら。
「うっわ、重っ……! お兄ちゃん、長くは無理!」
クロエの声に、俺は即座に動いた。
『闇縛域きた!』
『胸から上を縛った!?』
『足は床、上半身はクロエ!』
『爆発矢からの闇縛域コンボ!』
『今しかない!』
コメント欄が一気に流れる。
分かっている。
今しかない。
右足は床に沈んでいる。
胸から上は《闇縛域》で縛られている。
斧も鉄球も、思うようには動かせない。
そして何より――頭が低い。
十五メートル以上あったはずの巨王の頭部が、右膝近くまで沈んだことで、明らかに近くなっている。
届く。
今なら、届く。
俺は剣を握り直した。
狙うのは胸じゃない。
腕でもない。
頭だ。
「頭を断つ」
短く言って、床を蹴った。
《跳空のブーツ》が反応する。
砕けた石床を飛び越え、俺の身体が一気に加速した。
「いっけぇ、お兄ちゃん!」
クロエの声。
「決めてーシンゴさん!」
ノエルの声。
「シンゴ様!」
セリナの声。
「……お願いします……!」
フィーネの声。
全部聞こえた。
でも、返事をする余裕はない。
目の前には、バルグラン・ミノスの巨体。
黒鉄色の胸。
闇に縛られた腕。
そして、赤く光る牛頭。
巨王の赤い目が、空中の俺を睨んだ。
大戦斧がわずかに動く。
鎖付き鉄球も揺れる。
だが、遅い。
《闇縛域》が、まだ上半身を縛っている。
俺は空中でさらに一度、足場を蹴るように身体を持ち上げた。
狙うのは、角と角の間。
額から顎へ。
真正面。
バルグラン・ミノスが口を開ける。
咆哮しようとしたのか、噛み砕こうとしたのか。
どちらでもいい。
その前に終わらせる。
俺は《キングはぐれミスリルドラゴンの剣》を両手で握った。
神話級の刃が、青白く光を返す。
「これで終わりだ!」
振り下ろす。
黒鉄色の外殻。
牛頭の骨格。
巨王の魔力。
まとめて、刃が断った。
一瞬、抵抗があった。
分厚い。
硬い。
さすが鹿島ダンジョンの主だ。
だが、止まらない。
神話級の剣は、そのまま真下へ抜けた。
バルグラン・ミノスの頭部が、縦に真っ二つに裂ける。
闘技場全体が、静まり返った。
ほんの一瞬。
魔物の声も、鎖の音も、コメント欄の流れさえ止まったように感じた。
次の瞬間。
『入ったああああ!』
『頭いった!』
『真っ二つ!?』
『神話級やばすぎ』
『これは決まった!』
『決着うううう!』
コメント欄が爆発した。
バルグラン・ミノスの赤い目から、光が消える。
《闇縛域》がほどけた。
黒い帯が霧のように散り、クロエが大きく息を吐く。
「はぁっ……重すぎ……!」
俺は空中で体勢を変え、床へ着地した。
その直後、巨王の身体がゆっくりと傾いた。
右足はまだ床に沈んだままだ。
だから、巨体全体が綺麗に倒れるのではなく、上半身だけが崩れ落ちるように前へ倒れる。
ドォォォンッ!!
地響き。
闘技場の床が震えた。
観客席のような石段に亀裂が走り、土煙が大きく舞い上がる。
俺は剣を構えたまま、倒れた巨王を見た。
まだ動くか。
まだ来るか。
数秒、待つ。
バルグラン・ミノスは動かない。
大戦斧も、鎖付き鉄球も、床に沈んだままだ。
「……倒した、か?」
俺がそう呟いた直後だった。
バルグラン・ミノスの巨体が、青い光を放ち始めた。
黒鉄色の外殻が、粒子になってほどけていく。
大戦斧も、鎖付き鉄球も、身体と一緒に青い光へ変わっていく。
闘技場を支配していた重圧が、少しずつ消えていった。
胸の奥にのしかかっていた圧が抜ける。
耳の奥で鳴っていた低い振動が、遠ざかる。
青い光は、ゆっくりと上へ昇った。
そして、闘技巨王バルグラン・ミノスの姿は、完全に消えた。
『消えた……』
『討伐完了!?』
『鹿島ボス撃破!』
『やばい、鳥肌』
『全員連携すごかった』
『爆発矢→闇縛域→断頭、流れ綺麗すぎる』
ノエルが、少しだけ気の抜けた声で言った。
「……勝った、わよね?」
クロエがロッドを支えにしながら、へらっと笑う。
「勝ったでしょ♪ クロエ、もう腕ぷるぷるなんだけど」
フィーネは高台から降りてきて、胸元に手を当てていた。
「……よかった……」
セリナも盾を下ろし、深く息をつく。
「皆様、ご無事で何よりです」
「みんなのおかげだ」
本当に、そうだ。
フィーネの爆発矢が床を砕いた。
クロエの《闇縛域》が上半身を止めた。
ノエルの結界が後衛を守った。
セリナが正面を支え続けた。
その全部がなければ、俺の剣は届かなかった。
「……最高のパーティだな」
小さく呟くと、ノエルがすぐに反応した。
「ふふん。今さら気づいたの?」
「前から気づいてるよ」
「ならよし」
そんな会話をしている間に、青い光が完全に消えた。
そして、巨王が消えた場所に、何かが残っていた。
まず目に入ったのは、青く輝く魔石。
「……でかいな」
思わず声が出る。
五階で倒したギガントミノスの魔石も、メロンサイズで相当大きかった。
だが、これはそれよりさらに一回り大きい。
メロンより大きく、小玉スイカに近い。
青い結晶の塊が、闘技場の床にずしりと存在感を放っていた。
「メロンより大きいぞ。小玉スイカくらいあるんじゃないか?」
『魔石でかっ!』
『メロン超え!?』
『小玉スイカサイズw』
『これは絶対高い』
『鹿島ボスの魔石!』
『いくらするんだこれ』
コメント欄がまた騒がしくなる。
だが、俺の視線はすぐに、その横へ移った。
もう一つ、落ちているものがあった。
黒い革表紙の本。
分厚い。
古びている。
表紙には、巨大な角のような紋様が刻まれていた。
金属製の留め具もついている。
ただの本じゃない。
その雰囲気には、覚えがある。
「……本?」
俺は慎重に近づいた。
「前にも、こういうの拾ったな」
ノエルが隣に来て、すぐに頷く。
「《衣透視》の魔導書ね。銀座で鑑定してもらったやつ」
フィーネも、黒い本を見つめる。
「……魔導書の可能性が高いです……」
魔導書。
本に一つの魔法が込められていて、使用するとその魔法を習得できる。
以前、俺は魔導書から《衣透視》を習得した。
正直、あの魔法は名前だけ聞くと問題しかなさそうだった。
だが、暗器や隠し装備の確認にはかなり使える。
実際、用途を知ってからは、ただの変な魔法ではないと分かった。
だからこそ、分かる。
これは、軽く扱っていいものじゃない。
俺は黒い革表紙の本を拾い上げた。
重い。
物理的な重さもあるが、それ以上に、選択の重さを感じる。
誰が覚えるか。
どんな魔法なのか。
本当に今のパーティに必要なのか。
「どんな魔法なのか。完璧に鑑定してから、どうするか決めよう」
ノエルが頷く。
「そうね。前も鑑定してから決めたし」
クロエがにやっと笑う。
俺は黒い革表紙の本を見下ろした。
「久しぶりに、山崎さんの店に持って行こう」
『魔導書二冊目!?』
『今度は何の魔法だ!?』
『今度はまともな魔法頼むw』
『いや衣透視も実用的だから!』
コメント欄の勢いが止まらない。
俺は小玉スイカほどの青い魔石と、黒い革表紙の魔導書を見た。
闘技巨王バルグラン・ミノス。
鹿島ダンジョンの主を倒した報酬は、魔石だけでは終わらなかった。
この魔導書に、どんな魔法が込められているのか。
それはまだ分からない。
けれど一つだけ確かなことがある。
今回もまた、銀座の特約店に持ち込むしかなさそうだ。
コメント
1件
バルグラン・ミノス戦、決まったね…!!フィーネの爆発矢で足止めて、クロエの闇縛域で上を縛ってからのシンゴさんの断頭、流れが綺麗すぎて鳥肌立った😭💕 特にクロエが「腕ぷるぷる」言いながら勝ったって笑うとこ、めっちゃ好き。今回の連携パない…魔導書どんな魔法かめっちゃ気になる!続き楽しみにしてるよ!!🌸