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(……あれ?)
――どうやってステファンは、その山の中に呪いを行った場所があると調べられたのだろうか。
(国王もその場所を知っている……?)
そもそも、沙織は国王から詳しい話を聞いていない。こうして、ステファンが真実を知っていたから、場所を教えてもらえているが。
(もし、ステファンが真実を知らないでいたら……いや、違うわ。国王は影を送っている時点で、ステファンの動向を全て把握していたはずよね)
沙織に、わざわざ「秘密裏に」と言ってきたのは、ステファン自身の意見を尊重したかったのか。それとも――。
ステファン自ら、光の乙女に呪いの事実を伝えると、考えていたのかもしれない。
(私、上手く踊らされているのかしら?)
一見、国王は穏和そうな顔だが、やはりトップに立つくらいの人物は、油断ならない。
「ステファン様は、どうしてその山が怪しいと思われて調べたのですか?陛下もステファン様も……呪いをかけた者が、誰だか知っているのではないですか?」
「……言いたくありません」
ステファンは、目を閉じてフゥッと息を吐く。
「ですが――サオリ様に隠しても、仕方ないですね。そこへ行けば、分かることですから」
ステファンが溢した言葉は、沙織に向けてというよりも、自分を納得させる為の独り言のようなものだった。沙織はステファンが話し出すのを黙って待つ。
すると――。
「……母親です」
とステファンはボソっと呟く。
「え? 今なんて?」
「僕の産みの親……母がかけたのです」
「……ステファン様の……お母さん?」
「ええ、そうです」
頭の中が混乱してきた。
(何で、実の母親が息子に呪いをかけるの? もしかして……ステファンは、王妃の息子ではないの?)
意味が理解できずに頭を抱えていると――。
「僕の母親は、父の侍女でした」とステファンは話を続けた。
「出会った頃、父はまだ王太子でしたが、侍女の母と結婚するつもりだったそうです。侍女といっても、貴族の娘で魔力も持っていたそうですから。
僕を身籠ったことを、当時の王妃だった王太后に伝えたところ――大反対され、父は今の王妃と結婚させられました。
そして、前王が亡くなり父が国王となったのですが……。王太后は父を溺愛していて、父の愛した侍女である母を毛嫌いしました。ですから、母は側室にさえしてもらえず、城を追い出されたのです。それから母は、一人で僕を産んだそうです」
「え……!? それでどうして、大事な息子に呪いを?」
「王妃はなかなか身籠らず……。王太后は母から僕を取り上げて、王太子として王家にいれました。その時――王太后は母に毒をもったのです」
(……何て事をっ!)
恐ろしい事実に息を呑んだ。
「毒に冒されながら、母は……。母をずっと支えていた者と、あの山に逃げ込んだそうです。そして、精神の壊れた母は、王太后と僕に呪いをかけました」
全身が、粟立った。
「……王太后はどうなったの?」
「勿論、死にましたよ。呪いによって、それは苦しみ醜く亡くなったそうです。一応、国民への発表は病死となっていますが。見るに耐えない状態だったそうです」
(そんな怖ろしい呪いを、実の息子にもかけたの?)
「ですが、母はまだ生きているのです。あの場所には、毒に冒され壊れてしまった……母が、居るのです」
声を詰まらせながら話すステファンに、沙織も胸が苦しくなり、何も言ってあげられない。
「義父が、その母を支えた宮廷魔道士です。母が呪いを発動させた事実を知り、国王へ知らせに行きました。母のもとへ戻った時には……手遅れだったのです」
「手遅れ?」
「ええ、毒と呪いの副反応で……母は人では無くなったそうです。全てを知っている義父は、国王から爵位を与えられ、僕を育ててくれました。そして、僕は義父を問い詰め、全てを聞いたのです。優秀な魔導師になれば、何か母を助ける方法が見つかるかと思ったのですが……無駄でした」
「それで、ステファン様は……呪いを受け入れようとしていたのね」
「僕には、母を殺せません。呪いが全て終われば、必然的に母も消滅するでしょう。それが、呪いを行った者の代償ですから。だから、呪いは解かなくてもいいのです」
「……では、カリーヌ様は?」
(カリーヌの幸せを、見届けたかったのではないの?)
「カリーヌ様は日だまりのように、いつも暖かくて。闇に落ちそうな僕の、救いだったんだ……。だから、幸せになってほしい。相手が誰であろうとも」
だから、いいのだと。
(…………ぜんぜんっ、よくない!でも)
沙織は必死で考えるが、どうしたら良いかわからない。ステファンも、その母親も助けてあげたい。だけど、そのすべが見つからないのだ。
そんな状況が今も続いているなら、祭壇の近くには人でなくなった……ステファンの母親が居るはずだ。祭壇だけを壊すなんて、不可能に近い。嫌でも、その母親を倒さないといけなくなる。
(……光の乙女とは、何なのだろう? 無力過ぎるよ、私。でも……それでも……)
「それでもっ! 私はステファン様に生きてほしい!」
――それが、沙織が出した結論だった。