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沙織の頑なな意志に、目を見開いたステファンは何も言えなくなった。
「とにかく、祭壇を壊す! ……その方向で進みましょっ」
(どうなるかは分からないが、今は自分に出来る事をやるしかないわっ! それでも駄目なら、また考えればいいもの)
「本当に、貴女という人は……頑固ですね」
「頑固なのは遺伝なので、文句はあっちの世界の私の父に言ってください」
「なっ……! 無茶苦茶な事を……」
呆れるステファンは、さっきまでの全身の強張りが、いつの間にか和らいでいた。
「ねえ。その祭壇は、どうやったら壊せるのかしら?」
「……はぁぁ、全く貴女は。……祭壇を壊す方法は、一つです。祭壇の陣の何処かに光の乙女が触れ、光の魔力を叩き込むように一気に流すのです。闇の力に対抗出来るのは、光の力だけですので」
「陣に触れられればいいの? じゃあ、スピードがあればどうにかなる……。ステファンのお母さんを躱して祭壇に突っ込めば、戦わなくて済むかしら?」
「「は!? 躱して突っ込む?」」
唖然とする、ステファンとシュヴァリエ……。
(あれ? 何か変な事を言ったかしら?)
「だって、シュヴァリエみたいにシュッと動けたら、早く祭壇に行けるでしょ? そうだわ! シュヴァリエ、私を鍛えてくれないかしら?」
(そうよ! 結構、本格的なボクササイズやって来たんだもの。それに身体強化の魔法を使えば……)
「それは難しいと思いますよ。シュヴァリエは特殊な訓練を、幼少期からずっと受けてきたから出来るのです。とてもではないですが、普通の女性には出来ませんよ」
「むっ……! でも、頑張ったら少しくらいは……ねっ、シュヴァリエ?」
シュヴァリエは困り顔で沙織を見た。
「え〜、行けると思うんだけどなぁ」
と久しぶりのボクササイズの動きに、軽く身体強化をかける。
――シュッ!シュシュッ!
パンチやキックのシャドーボクシングを二人の目の前でやってみる。
(うん、中々いい感じに動けるわっ。本当、身体強化って凄いわぁ。サンドバッグがあったら、かなり良い音出そうね。正直、私にはまだ剣は上手く扱えないし、命を奪える刃物は怖いもの)
「サオリ様……」
「はい?」
「どうして、貴女は僕の想像を軽く超えて行くのでしょうね? ああ、そうでした……サオリ様は、普通の女性ではありませんでした」
「はい? ちょっと意味が分かりませんが?」
「はあぁぁぁ……」とステファンは長い溜息を吐く。
「シュヴァリエ、暫くの間サオリ様の訓練を見てやってくれ」
「はっ。承知しました」
何だかよく分からないが、シュヴァリエに訓練してもらえる事になった。
「それから、サオリ様!公爵令嬢がその様な格好で脚を上げるのは、絶対にお止めくださいっ」
(あっ)
ワンピースだったのを完全に忘れていた。
――トントン。
突然ノックが聞こえ、シュヴァリエが姿を消したタイミングでやって来たのは、ガブリエルだった。
「アーレンハイム公爵、どうされたのですか?」
先触れも無い突然の訪問だった。
「サオリがお邪魔していると思ってね」
さすがステラからの情報は早い。
ガブリエルは沙織に向き直り話しかけた。
「サオリ、久しぶりだね。カリーヌとミシェルは、さっき馬車で学園へ戻ったよ」
「お義父様、わざわざ会いに来てくださったのですか?」
「可愛い娘に会いたいと思うのは当然だろう?」
数日ぶりに会ったガブリエルは、優美な笑みを浮かべ、沙織の頬を優しく撫でた。
(はうっ! ダメだ……! 美しいイケメンに大人の色香まで加わって。破壊力が強すぎです……お義父様っ)
「私も久しぶりに、お義父様とお会いできて嬉しいです」
バクバクする鼓動を抑え、何とか返事をした。
「ところで、ステファン。影は……シュヴァリエは居るかい? 呼んで欲しいのだが」
ステファンは、なぜガブリエルがシュヴァリエを呼ぶのか理解できなさそうな顔をする。
だが、ステファンの事情を知っていて、味方として動いてくれるカリーヌの父、アーレンハイム公爵に隠す必要はない。
「はい、こちらに」
ステファンの声と共に、スッ……とシュヴァリエは現れた。
ミシェルの時とは違い、そのままの姿で現れたシュヴァリエにガブリエルは驚いたようだ。
「成る程。ステファン、君の姿はシュヴァリエのものなんだね。両親に、似ていないわけだ」
今度はステファンが驚く。
「……公爵は、母も知っているのですか?」
「ああ、何度か見かけたくらいだがね。本来の姿を見せてくれないか?」
「分かりました」
ステファンは、本来のアレクサンドルにそっくりな姿に戻った。息を呑んだガブリエルは、ステファンを凝視する。
「ありがとう。確かにそれでは、姿を変えておくしかないね」
ステファンは直ぐにシュヴァリエの姿に戻り、ガブリエルの言葉に頷いた。
(そうだ、お義父様はあの時席を外していたから……。ステファンの、本当の姿を知らなかったんだわ)
そして、ステファンの背後に居るシュヴァリエに声をかける。
「君がシュヴァリエか。サオリの護衛を感謝する」
じー……っとシュヴァリエを眺めたガブリエルは、フっと表情を緩めた。
「あ! お義父様、国王陛下に頼まれた件ですが。そろそろ動きたいと思います。その為に、暫くシュヴァリエに特訓してもらうつもりなのですが……学園の方はどうしたらよろしいでしょうか?」
「そうか……」と、ガブリエルは考え込んだ。