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「私・・・ちょっと・・・お手洗いに」
くるみが席を立って由紀に言った
「ちょうど今なら空いているわよ!いってらっしゃいな!荷物見ててあげる」
「はぁ~い、ありがとう~」
上機嫌でくるみは席を立った
由紀は自分のスマートフォンの機内モードで先ほどのくるみの情報をもとに『佐々木洋平』『仮想通貨』と調べた。すると洋平の情報が次々とヒットした
間違いない彼は大金持ちの有名人だ
由紀は通路を挟んで、くるみがいない隙を狙って、シートを倒して寝ている洋平をじっくり観察した
今や大口を開けて涎を垂らしてガーガー寝ている洋平だが、それでも彼から醸し出されている若さと熱気は、由紀には素敵に感じられた
長い脚・・・すっきりとした今流行りの髪型・・・アイマスクをしていても分かる高い鼻筋に広い肩幅・・・
じっと眺めていると・・・なるほど思わずときめいてしまうほど彼は素敵だ
それに比べてうちの旦那は・・・
由紀は反対側で洋平と同じように口を開けて寝ている慎吾を見た
夫の慎吾は、由紀より10歳も年上の、由紀の人材派遣会社のオジサン上司だった・・・
たるんだお腹・・・短い脚・・・
冴えない社内恋愛の末の結婚
唯一の良い所は由紀の願いは何でも聞く所だ
「ふ~ん・・・・佐々木・・洋平ねぇ~・・・」
由紀はくるみがトイレから帰って来るまでじっくり寝ている洋平を観察した
・:.。.・:.。.
ホノルル空港に降り立ったくるみは、ピカピカの床を歩きながら、物珍しくキョロキョロ辺りを見回した
熱帯の陽光がガラス張りのターミナルを眩しく照らす中、年間2000万人もの旅行者が行き交う空港は、また関西空港と違う活気に満ちていた
くるみは窓の外に広がる風景に見とれた。6本もの滑走路が放射状に伸び、次々と飛行機が離着陸して行く
管制塔から英語が流れる館内アナウンスがここまで響いていた
ターミナル内には、ファストフードやカフェが立ち並び、『ホノルル・クッキー・カンパニー』の甘い香りが漂っていた
「くるちゃん!一応あちこちでWi-Fiが繋がるみたいだけど、日本で契約してきたグローバルアプリ入れて!これでGPSも繋がるし、LINEも出来るから!ハイこれパスコード」
「ありがとう!迷子になったら大変だね!私ハワイ初めて!洋平君は?」
「学生の頃に何回か祖父と来てるよ、ワイキキ沿いのマンションをじいさんが持っているからね。でも昔と違って、随分治安が悪くなってるから、絶対僕から離れないでね!」
「ハ~イ!」
離れてと言われても切手のように貼り付いて、絶対離れないもぉ~ん♪
贅沢な長距離飛行中ぐっすり睡眠をとった洋平は、今は元気を取り戻したのか、顔色も良くハツラツとしている
クルミのピンクのスーツケースと、自分の深緑のスーツケースを力強く両手で引きずって歩いて行く
ハンドバックだけを肩から下げて身軽なくるみは片手にゴープロを持って、後ろからスーツケースを引きずる彼のコブが盛り上がった、肘から下の腕筋をズームでうっとり撮影して、つまづきそうになる
ああ・・私の旦那様は逞しくて素敵(はぁと)
空港を包む湿った空気と、日本とは全く違う匂い、どこからともなく漂うプルメリアの香り
二人の新婚旅行は、まさに始まった所だとくるみは心を躍らすのだった
荷物の出てくるベルトコンベアの場所をふと見ると、くるみは見覚えのある顔を見つけた
「あっ!由紀さんだわ」
由紀夫婦が空港係員となにやら揉めている、由紀の夫、慎吾が困り顔で係員に身振り手振りで話している
くるみは思わず洋平の腕を引っ張った
「ねぇ洋平君見て!由紀さん達何かあったみたい」
洋平が視線を向けると、確かに由紀と夫の慎吾が困り気味に何かを訴えている
「あの人達・・・くるちゃんが飛行機で仲良くなった人達?」
「うん!ねぇ・・・困っているなら助けてあげたいんだけど」
「そうだね、行ってみよう」
洋平は迷わず由紀たちのもとに駆け寄った、英語に自信のある洋平が係員に何やら事情を聞く
「由紀さ~んどうかしたの?」
「あっ!くるみちゃん!」
由紀がくるみに駆け寄る
「それが・・・私の荷物が検査にひっかかっちゃって、ずっと出て来ないの・・・もうずいぶん経つんだけど」
慎吾も困り気味に言う
「僕達英語がからっきしダメで・・・・どうして由紀のスーツケースを返してくれないのか、わからないんです 」
「まぁ・・・大変ね・・・・ 」
空港係員は白いシャツに、黒ネクタイの制服を着た男性で、気難しそうな威圧感を出して由紀と慎吾を睨んでいる
「Excuse me, Do you need any help? 」
洋平が人懐こい笑顔で係員に英語で話しかけると、係員はほっとしたように振り返り、洋平と英語でペラペラ話し出した
「くるみちゃん・・・ 」
「大丈夫!洋平君が何とかしてくれるから!大舟に乗ったつもりでいてちょうだい」(※私は何もしないけど)」
鼻高々のくるみが、緊張している由紀と慎吾を慰める。10分後洋平がくるみ達の所へ戻って来た
「わかった!わかった!由紀さんの荷物が帰ってこない原因がわかったよ」
「よかった!」
「それで?」
ワッと三人が洋平に詰め寄る
「由紀さん1ℓの化粧水ボトルで持ってきてるでしょ?しかも新品じゃないヤツ!出国検査の時はOKでも、国によって液体の容量で引っかかるから、あれが原因みたい」
「あー!!そうなんだーーー!!」
「原因が分かって良かったわね~」
ホッとした三人に洋平が言う
「アレルギー体質であれでないとダメなんだとかテキトーに言い訳したら、残りの荷物は返すけど、一応成分調べたいから、化粧水は今日の夕方以降取りに来てくれだって!慎吾さん、由紀さんのスーツケースの番号タグある?」
「ハッハイ!ここにあります!」
慎吾が慌ててポケットからタグを出す
「わぁ~!よかったねぇ~」
「ずっと足止め食らうのかと思ったわぁ~」
洋平は慎吾から荷物のタグ番号を聞き出し、それを係員に示した、係員はデスクトップコンピューターを操作し始め
何やら洋平と談笑しながらキーボードを叩く、由紀と慎吾は不安そうに洋平を見つめていたが
今洋平は人懐こく係員の肩を組み、一緒にコンピューター画面を覗き込んでいる