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中高一貫の私立蔵門(クラモン)学園。
大きな敷地内の中央に聳える食堂は共同施設となっており、中学生と高校生が学食内に入り混じっていた。
雪乃はキョロキョロと辺りを見渡す。誰かを探しているようだ。
学食は人が多くてなかなか見つけ出すことができない。
「おーーーい、ゆっきーーー!!!」
雑踏の中遠くから名前を呼ばれた気がしてその方向を見る。
こちらにアピールするように大きく手を振る人物を見つけそこへ向かう。
「よっすチーノくん」
「よっすゆっきーお疲れ」
グルグル眼鏡に灰色の髪のチーノと呼ばれた男子生徒は学食を食べながら挨拶を交わす。
チーノの隣の席には相棒のチラーミィが座りポケモン用のフードをモグモグ食べていた。
「珍しいじゃん学食に誘うなんてさ」
「まぁたまにはええかなって。ゆっきーは食べへんの?」
「私は購買で買ってきた。委員長の分も買って差し入れに行こうかなって」
そう答えながら「チミィくんもこんにちは」と隣のチラーミィにも挨拶しチーノの前の席に座る。
「さすが風紀委員長の右腕。抜かりないなぁ」
「いやー委員長今引き継ぎ作業で追い詰められてるらしいからねー。私にはこれくらいしかできないけど。…それにチーノよりは委員長想いですし」
実はこの二人風紀委員に所属していて同期である。
今日は昼休憩の時間に風紀委員室に何人か集まることになっていて、お昼ご飯を食べてから行こうと思っていたのだがチーノに学食に誘われたのでその後一緒に風紀委員室に行くことになった。
「何言うてますのん、俺が誰よりも委員長想いやんか」
「ふーん、いじって遊んでるようにしか見えないけどね」
「それはまぁ、見る人の見方によるわ。それより今日はエーフィおらへんの」
カレーをモグモグ食べながら言われ、購買で買ったパンをつまみながらモンスターボールを取り出す。
ポカァンとボールから出てきたのは優雅に毛繕いをする相棒のエーフィ。
「おーえっちゃん今日もかわええなぁ」
「変な呼び方すな」
出てきて雪乃の隣に座るエーフィにポケモン用のフードを差し出すチーノ。
しかしエーフィは食べない。
「だから、他人の手からじゃ食べないって言ってるでしょ」
「いやーもういい加減食べてくれてもええんちゃう〜なぁ〜」
「はいチミィにあげる」
チーノの手からフードを奪い取り斜め前に座るチラーミィに食べさせる雪乃。
チラーミィは何の警戒もなくそれを食べた。
「チラァ〜♡」
「チミィくんはほんと可愛いね」
「チミィの警戒心はゼロに等しいんや」
モグモグと美味しそうにフードを食べるチミィを見ながら「ところで」と、雪乃は話を変える。
「何で突然学食誘ったの?どういう…まさかまたよからぬ事を考えてるんじゃ」
「いやいや考えすぎやそれは。どんだけ信用ないねん」
疑いの目を向ける雪乃に「そうじゃなくて」と首を振る。
「まぁもう中学生活も最後やんか。俺らも色々あったけど同じ委員会で頑張った仲やし、中学最後に一緒に飯でも食うとこかなぁて」
「ふぅん。なるほど」
確かに、同じ委員会で活動するのはこれで最後かもしれない。なんだかんだ同期と呼べるのは1人だけだし、一緒にご飯を食べたことなんて無かった気がする。
「とはいえ高校も一緒なわけやし、同じクラスになったりするかもやし、これからもまぁ、友人としてよろしくっちゅーことでひとつ」
「……」
『友人』という言葉に少し驚く。お互いただの委員会の同期としか思ってなかっただろうから余計に。
でも中1からの付き合いだし、そうなっても不思議ではないのかもしれない。
そうか、友達になれたのか。それとも既に友達だったのか。
わからないけど嬉しいことに変わりはなかった。
「……ごめん、チーノ」
しかし雪乃は暗い表情で俯き、何故か謝った。
チーノはその一言に驚き、動揺を隠せなかった。
「え、な、どうしたん?…もしかして嫌やった?俺と友人とか…」
「いや、そうじゃなくて…」
雪乃は俯き両手で顔を覆ったまま、
「…進級、できるかどうか、怪しくて…」
震えた声でそう言った。
チーノは絶句した。
「………はぁぁぁぁぁ!?!?」
騒がしい学食内にチーノの叫び声が響き渡った。
「いやいやいやいや、嘘やろお前、無いってそれは!!」
「…ごめん」
「いや、俺も別に自信はないけど、進級試験落ちるやつあんま聞いたことあらへんで!?」
「すいませんアホですいませんごめんなさい」
「いやいやいや、あかんてほんま!それだけは無いって!」
捲し立てられる雪乃は顔を上げることが出来ずずっと両手で顔を覆ったまま謝り続けることしか出来なかった。
嬉しい言葉をくれたのに、すまん。無理かも。
「おいチーノ、なに雪乃ちゃんいじめとんねん」