戦姫の剣舞との面談が終わった次の日、ルナは浮かない顔で街を歩いていた。
オルタナの計らいでしばらくの間、冒険者としてのお仕事はお休みになった。しかし今の状態で家に居ては頭の中がゴチャゴチャしそうだったので考えを整理するためにルナは街の中を散歩することにした。
「はぁ…戦姫の剣舞の方たちは良い人たちだったんだけど、なんでこんなにもモヤモヤするんだろう…」
昨日の面談を通して戦姫の剣舞は今まで面談してきたパーティの中で一番良かったと感じていた。しかし彼女たちとの会話で全く不満点も懸念点もなかったはずなのに、ルナは何故か手放しで戦姫の剣舞に加入する気にはなれなかったのだ。
その理由は今の彼女にも全く分からず昨晩からずっと悶々としていたのだ。
そうして何とか頭の中を整理しようとゆっくりと街の中を歩いていると彼女はいつの間にか無意識にギルドの前までやってきていた。
「…なんでここに来ちゃったんだろう」
ルナは特に行き先を決めていなかったのだが何故か知らぬ間に足がギルドに向いていた自分に少し驚く。いつも来ているから癖になったのだろうと納得し、とりあえずギルドの中へと入っていく。
ギルドの中はいつも通り多くの冒険者で賑わっており、何も変わらないいつもの日常といった感じである。だがその中でルナは自分一人だけが何故だか浮いているような感覚がしていた。
「あれ…?ルナさんじゃないですか!」
「あっ、あなたは…!」
ギルドの中に入ってすぐにルナは近くの冒険者に話しかけられた。誰だと思い、声のする方へと視線を向けるとそこには昨日面談した戦姫の剣舞のリーダーであるリサがいた。
「リサさん、おはようございます。昨日はありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ。それよりも今日はお一人ですか?」
「あっ、その…実は…」
ルナはパーティ選びに関してのモヤモヤしていることは隠して、お休みになって散歩していたらギルドに来ていたということを素直に説明した。
隠す必要は特になかったのだが何故かリサに悪いと思ってしまい、一旦モヤモヤしている気持ちは押し殺して笑顔で対応する。
「なるほど、今日はお休みなんですね。あの、私が聞くのはあれかと思いますが…パーティはもう決まりましたか?」
「それは…まだちょっと決められてないんです。すみません」
「いえいえ、謝らないでください!冒険者にとってパーティ選びは大事なことですからじっくり悩んで決めてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
ルナは改めてリサの人柄の良さを実感する。
やはり彼女のいるパーティは安心して加入できると感じていた。
だがしかしルナの心の奥で何かが渦巻いている。
そのせいで彼女は加入を決められずにいる。
するとそんなルナを察してかリサがある提案を持ちかける。
「あの、ルナさん。もしよろしければ私たちと一緒に依頼でも行きませんか?一日で行ける範囲のところで仮加入みたいな感じで私たちのパーティを体験していただく感じで…」
「えっ、いいんですか?他に受けられている依頼とか…」
「いえ、今ちょうど依頼を探していたところだったので問題ありません。それに他のメンバーたちもルナさんと一緒に冒険できるのを楽しみにしていましたので大丈夫だと思いますよ」
まさかのリサからの申し出にルナはすぐに了承した。パーティに加入する前からそのパーティの実際の雰囲気を感じれるのはルナにとって願ってもない機会である。
そうしてルナは戦姫の剣舞のメンバーたちと合流し、近場で済みそうな依頼を受けることになった。
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「いや~、思っていた以上にすごいですね!ルナさん!」
「いえ、皆さんもすごかったですよ!!」
ルナと戦姫の剣舞のメンバーが森で倒した魔物の素材をはぎ取りながら楽しそうに会話をしている。
初めて一緒に行動したのにもかかわらずルナと戦姫の剣舞は素晴らしい連携を見せていとも簡単に討伐対象である魔物を倒すことに成功した。
ルナも思っていた以上に戦いやすく雰囲気も良く、そして何より楽しいと感じていた。だからこそなんで自分はすぐにこのパーティに決められずにいるのかという疑問が湧いてくる。
「あれだけの攻撃魔法を使えるのに高レベルな支援魔法も使えるだなんて…こうして実際に見てみて思っていた以上でした。本当に何で今までどこからも声がかからなかったのか疑問なくらいです」
「そ、そんなことないですよ!?もともと私は攻撃魔法が全く使えなくて支援魔法だけでしたから。私がここまで攻撃魔法を使えるようになったのはオルタナさんに教えてもらったおかげなので本当につい最近なんですよ」
「いやいや、オルタナさんに教えてもらえるっていうだけですごいですからね!普通だったら門前払いですよ」
「そ、それは少し事情があっただけなので…」
ルナは話の流れで以前所属していた冒険者パーティ『業火の剣』が解散した原因となった話を彼女たちに簡単に説明した。
暗くならないように気を付けて話したのだがやはりこの話は重いようで場の空気が少しだけトーンダウンしてしまったのをルナは感じた。
「そんなことがあったんですね…」
「で、でも今はみんなそれぞれ自分の道を歩いて幸せに暮らしているそうなので大丈夫です!私もオルタナさんのおかげで救われましたし、もう気にしてないですよ!あの件があったからオルタナさんはご厚意で私に魔法を教えてくださったんですよ」
ルナは必死に場の空気を元に戻そうと明るく振舞う。
するとリサが真剣な表情でルナの発言を否定する。
「それは違うと思いますよ、ルナさん。例えオルタナさんがその一件を申し訳なく思ってルナさんと臨時パーティを組んだのだとしても、オルタナさんがルナさんに魔法の才能を感じなければそこまで真摯に教えないと思います」
「…そ、そうですかね」
「ええ、もちろんです!後出しのようであれですが、私もルナさんは今以上にもっと素晴らしい魔法使いになられると思います。それだけの可能性をルナさんにはあると私は感じました」
「リサさん…ありがとうございます!」
そうしてルナの戦姫の剣舞へのお試し加入が終わった。街に帰ってきてギルドに報告してからすぐ戦姫の剣舞とは別れて家に帰る。
彼女は帰ってすぐに自室のベッドへと寝転んだ。
徳に疲れたわけではなかったが無性に寝転がりたかったのだ。
「やっぱり皆さんいい人たちだったな…」
ルナは仰向けになって天井をじっと見つめながら今日のことを思い返していた。
彼女たちとの冒険は思っていた以上に心地よく、少し不安に思っていた部分も何も問題はなかった。
みんな当然のように話の輪の中に入れてくれて、彼女たちがルナを快く歓迎してくれているのが伝わっていた。
だが同時にルナの頭の中には当然のようにオルタナさんとの過ごした日々が対比のようにして流れてくる。
たしかにオルタナさんと一緒に行動するのもとても楽しいし、何だか感心する。
もちろん戦姫の剣舞の人たちとも一緒に行動するのはすごく楽しかった。
(……なんで私は新しいパーティを探すのにずっとオルタナさんのことを考えているのだろう?)
ルナはふと自分の考えていることに疑問を抱き始める。確かに正直言って今回のパーティ選びとオルタナとは関係があまりない。
寧ろこれはルナ自身と相手のパーティの問題なのでこういっては何だがオルタナはこの件に関しては部外者なのである。
何故そんな彼のことをいつもパーティ選びの考えの中に入って来るのか。
もしかして私…
ルナはそこである一つの可能性に気づく。それに気づいた瞬間先ほどまであった心のモヤモヤが少しはっきりとしてきたような気がした。
「でも、それはオルタナさんに迷惑をかけてしまうし…約束と違うし…」
モヤモヤの正体に気づいたはいいものの、それが新たな悩みの種になってしまった。
これ以上、オルタナに迷惑をかけ続けるのは良くない。だけどルナ自身はオルタナに頼りたい。
そんな相反するような気持ちが彼女の心の中で渦巻く。
「オルタナさん…」
ルナは彼のことを思いながら自分がどうすべきなのか必死に考えて考えて考える。そうして答えの出ないまま無情にも時間だけが過ぎていくのであった。
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