「な、何を……」
エウリはヨルムンガンドの冷酷な瞳に問う。
「エウリ」
「は、はい」
「これからこやつ____Mr.すまないを蛇一族で育てる。お前が教育係となり、蛇一族の基本を叩き込め。いいな?」
さっきの冷酷な瞳を見てしまっては断ると言う選択肢は無かった。
「分かりました」
エウリはすまないを連れて最上階を出た。
(あの時のヨルムンガンド様の目、すっごく怖かった……一体何を考えていたの……?)
「ここが私の家よ。今日から蛇一族について学んで貰うし一緒に暮らした方が便利だから、当分の間はここが貴方の家よ」
そう言ってまた中に入るように促す。すまないはふらふらとエウリの家に入る。さすが蛇一族の中でもかなり地位の高い貴族の家ということもあり、家というより屋敷と称した方が似合う大きさと高級感を兼ね備えている。ひとつ足りない物があるとすれば【花】だが。
「……」
「部屋はこっちよ。空き部屋がたくさんあるから、そのひとつを使って貰うね」
そう言ってすまないを2階に連れて行く。奥まった部屋のひとつに連れて行く。
「ここがすまない君の部屋よ。今はベッドと引き出し付きサイドテーブル、あとはクローゼットしかないけど増やしたかったらいつでも言ってね」
「……コク」
しかしすまないは部屋の中には入らず、何処からかバケツを取り出すとふらふらと外へと出て行った。
「ちょっ、すまない君!?」
エウリは慌てて追いかける。すまないは外の水汲み場でバケツに水を汲むと、その中に黒いドロッとしたものを入れた。
「え……?何入れたの……?」
すまないはしばらくそれを手でかき混ぜ、少しだけ粘性のある液体になったところでそれを頭から被ろうとした。
「ちょっ!それはさすがにストーップ!」
エウリはすまないからバケツを奪った。
「……何するの」
すまないは不服そうだ。
「それはこっちのセリフよ!何しようとしてるのよ!?」
エウリは思わず捲し立てる。
「……染めるの」
「え……?」
「……染める……」
すまないは自分の髪を摘み『染める』と言った。つまり綺麗な鈍色の髪をバケツの中の液体の様な澱んだ黒に染めるというのだ。
(……もったいない……)
心の中ではそう思った。しかし、それを声に出すことは出来なかった。何故なら、エウリは薄々気付いていたからだ。すまないが何故ヘビの国に現れたのか。すまないの身に何があったのか。そして、すまないの身に起きた何かがすまないを“この状態”にしてしまったということに。
「……頭から被ると寒いし、綺麗に染められないわ。私は染め方を知ってるのよ。だから少し任せてくれるかしら?」
エウリは心を決めてそう言う。すまないはバケツを奪い返そうとしていた手を止め、しばらく不思議そうな顔をした後スッと下ろす。
「家に戻りましょう?その後染めてあげるわ」
そう言って身を翻したエウリ達を家の影から誰かがこっそりと見ていた。
コメント
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最後覗いていたの誰だよ!エウリのストーカー?!すまない先生、エウリの言うことはちゃんと聞くんだな…それにしても勿体なさすぎ!あんな綺麗な髪の毛染めるなんて!