家の中に入り染め粉が付いても大丈夫な部屋ですまないの髪を黒く染めていく。
(せっかく綺麗な色だったのに……)
ヘビの国には良質な染め粉はない。いくら丁寧に染めても髪が傷んでザラザラになってしまう。それでも可能な限り丁寧に染めた。サイドの一房だけ色が違うところだけそのままにしているとすまないが
「……ここは、白にして欲しい……」
と言った。エウリは少し考えた後白の染め粉があったはずだ、と取りに行こうとした。
くいっ
「……?」
エウリが足を止めるとすまないがエウリの服の裾を掴んでいた。
「何?」
「……ぁ……ぇ……ぇっと……」
すまないは目を泳がせる。自分自身でも無意識だったのだろう。手がおずおずと不安気に離される。
「別に離さなくても良いのよ」
エウリはそう微笑みそばにあったベルを鳴らした。するとひとりの少女が入って来た。先程物陰からエウリ達を見ていた少女だ。
「クルカ、悪いけど物置きから白の染め粉取って来て貰っても良いかな?」
「分かりました」
クルカと呼ばれた少女は早足で物置きに染め粉を取りに行った。
「……もしかして、ひとりは苦手?」
エウリがそう聞くとすまないは躊躇いがちに小さく頷いた。なら何故ヘビの国の城壁の外でひとりで居たのかという疑問が湧き上がって来るが、それを聞くのは得策ではない事くらい分かる。そうしているとクルカが白の染め粉を持って来た。
「ありがとう、クルカ」
それを受け取りすまないの一房だけ鮮やかな青だった髪を真っ白に染めた。
「ほら、出来たよ」
エウリは最後にすまないの髪を梳かしそう言った。先程までとは全く違う真っ黒な髪に一房だけ白い髪のすまないがそこに居た。すまないはしばらく自分の姿を眺めた後、ポケットから黄色のカラーコンタクトを取り出し右眼だけに付けた。そして小さく頷く。
「それで良いのね」
「……コク」
エウリは悲し気に笑うと後ろに控えているクルカを前に出した。
「この子はクルカ。私に仕えているけど正直お友だちみたいな存在よ。私が居ない時は彼女に頼ってね」
「クルカと申します。何か御用がありましたらお申し付けください」
クルカは丁寧にお辞儀をする。すまないは聞いているのがどうかちょっと微妙だが。
「クルカ、食事の用意をして来てもらえる?」
エウリがそう言うとクルカは頷いて厨房に消えていった。
「何か嫌いなものとかある?」
エウリがそうすまないに問う。すまないは僅かに首を横に振って否定する。
「そっか。じゃあ好きな物は?」
「……?」
「……」
(困ったわね。好き嫌いがない事はいい事なのだけれどここまでだと逆にね……)
まるで“意志”と言うものが無いようなすまないの、光の無い、淀んだ瞳を見てエウリは天を仰いだ。
コメント
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クルカって人も出てきたね…髪染めちゃったのかぁ…勿体ないような気がする…髪の一部が白で右眼に黄色いカラーコンタクト…?何か意味があるのかな…?薄々気付いてくれているのが救い……かも…?