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欠けた救済者(レストアラー)
序章:歪んだ傷跡
**藤堂 葵(とうどう あおい)**は、過去のトラウマから心を深く閉ざし、自傷行為を繰り返す少女だった。彼女の腕には、決して消えることのない無数の傷跡が刻まれていた。
葵は、生きることに何の価値も見出せず、ただ静かに死を望んでいた。そんな彼女の唯一の**「生存理由」となったのが、クラスメイトの朝比奈 凛(あさひな りん)**だった。
凛は、誰にも心を開かない葵に、ただひたすらに優しく接し続けた。しかし、凛の愛は、ただの優しさではなかった。凛は、葵の「壊れやすさ」、「常に救済を求めている瞳」に、自分自身の存在価値を見出していたのだ。
「葵。あなたは、私がいないと壊れてしまうでしょう?だから、私はあなたの傍から離れない。あなたは、私の存在を証明してくれる唯一の天使よ」
展開:共依存の深淵
凛は、葵が自傷行為をしようとするたびに、優しくその手を止め、代わりに自分の腕を差し出した。
「痛いのは、私で十分よ。あなたは、美しいままでいなきゃだめ。あなたは私の作品なんだから」
凛の愛は、葵の自傷行為を**「永遠に止めないこと」で成立していた。なぜなら、葵が完全に立ち直ってしまうと、凛は「救済者」**としての役割を失い、自分の存在価値が消えてしまうと恐れたからだ。
凛は、葵のトラウマを呼び起こすような言葉を時折優しく囁いたり、葵が前向きになろうとすると無意識にその努力を否定するような態度をとったりした。
葵は、凛の重い愛情に気づかない。彼女にとって凛は、**唯一自分を生かしてくれる「聖女」だった。彼女は、凛の言葉通り、「自分は凛なしでは生きていけない、壊れた人形」**という役割を全うすることで、凛の愛を繋ぎ止めようとした。
葛藤:真の修復
ある日、葵は、凛の**「優しさの裏側にある歪んだ支配」**に、一瞬だけ気づいてしまった。
「凛は、私が壊れている方が、本当は嬉しいんじゃないの?」
その言葉は、凛の心を深くえぐった。彼女の愛の基盤が、葵の**「欠落」**の上に築かれていたからだ。
凛は涙を流しながら、葵に懇願した。
「そんなこと言わないで!私は、ただあなたを救いたいだけなの!信じて、葵!あなたは、私のすべてなのよ!」
その言葉は、愛の告白であると同時に、**「私を必要とする存在でいてくれ」**という必死の叫びだった。
結末:メリーバッドエンド
凛は、葵が完全に立ち直ってしまうことを恐れ、そして、彼女の心身をこれ以上傷つけたくないという歪んだ愛から、一つの恐ろしい決断を下した。
卒業後、二人は都会から離れた古い病院跡のような建物で暮らし始めた。
そこは外界から完全に隔絶され、二人以外の誰もいない場所だった。
凛は、葵のトラウマの原因となった**「過去の記憶」**を消し去るために、外部から違法な薬物を入手し、葵に与え始めた。
葵の記憶は、少しずつ曖昧になり、やがて、彼女は**「自分がなぜこれほどまでに苦しんでいたのか」というトラウマの根源を完全に忘れてしまった**。
記憶が消えたことで、葵の心は驚くほど穏やかになった。自傷行為もなくなった。彼女はまるで、生まれたての赤子のように、凛の愛情だけを純粋に求める存在となった。
凛は、過去の記憶も、未来への希望も持たない、**「永遠に欠けた」**状態の葵を手に入れた。
「大丈夫よ、葵。もう、怖いことなんて何もないわ。あなたはもう、あの頃の傷ついたあなたじゃない。ただ、私に愛されるだけの美しい人形よ」
凛は、葵の頭を撫でながら、満たされた笑みを浮かべる。彼女は、**「救済者」としての役割を永遠に固定し、「存在価値」**を手に入れた。
一方の葵は、トラウマから解放された**「メリー」な安息を得た代わりに、「自立した人間としての未来」という名の「バッド」**な欠落を背負い、永遠に凛の腕の中で生きる。
「凛…私、凛の傍にいるのが、一番安心するの。ありがとう、私を…生かしてくれて」
究極の共依存が完成したその場所で、二人の歪んだ愛は、静かに永遠に続いていくのでした。