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きらりと煌ったモルガナイト
「 えとさんの目、好きなんだよね」
ゆあんくんとテレビを見ている時、ふとそんなことを言われた。私はびっくりして、思わず横を向く。
「え、?あ、ありがと」
素っ気なくなってしまった返事で申し訳ないと思う。ごめん、なんか、そう言われると妙に恥ずかしくて……。
「ピンクの、宝石みたいで、きれい」
ゆあんくんは私のほっぺに手を添えた。あったかくて、安心する。女の人みたいに綺麗だけど、大きくて、ほんと「男の子」って感じの手。
顔が近い。ゆあんくんの息も聞こえてしまう。
すぅ、すぅ、と胸が膨らんで、しぼんだ。夏の花火みたいに鮮やかなゆあんくんの瞳が、私を強く刺した。緊張で息が乱れる。体温が上がる。熱い。熱い。
自分の目を「宝石」なんて思ったことが無かったから、とてもびっくりした。いや、とてもなんて表現出来る程じゃないけど……。
「宝石って……大げさだよ」
軽く笑ってこの恥ずかしい会話を誤魔化そうとしたのだけれど、駄目だったみたい。さらにゆあんくんは続ける。いや、もう、恥ずかしいからほんとにやめて。
うつむく私をよそにして、ゆあんくんは永遠と私の好きなところを言っていく。会話なんか聞こえない。……恥ずかしいんだもの。
顔なんか林檎みたいに赤くなって、髪で耳を隠そうとしても、多分バレてる。いじわるでこうやって私を照れさせようとしているのだ。……まぁ、そういうところが好きなのだけど……。
「あれ?えとさん照れてる?んふふ、もー可愛いんだから」
「……うるさい」
私明らかに怒っています。みたいな顔をして、ゆあんくんの刺す瞳から逃れるようにそっぽを向いた。私以外には絶対に向けない視線が、私の心を甘く溶かしていく。どろり、とアップルパイを食べる時、こぼしてしまうみたいに。私は、思わず言ってしまった。
「好きだよ、ゆあんくん」
やけに響いた私の声は、きちんとゆあんくんの耳に届いてしまった。……それはエコーみたいに。
自分にとって都合の悪い言葉は相手に聞き取りやすい。もう、ほんとにね。
しまった、と思ってももう遅い。時すでにおすし……遅しだ。使い方合ってる? ごめん、覚えたばっかの言葉だから使いたくなっちゃって……。
あまりの恥ずかしさにしばらく私はゆあんくんの顔を見ていないけど、きっとおちゃらけてるはず。
……でも、わんちゃん…………。
「んもぅ…………ずるいよ、えとさん」
――ワンチャンスあったみたい。ふふ、二人そろって真っ赤になって。熱が上がって。なんの時間だろう。
ずるい……なんて人の事言えたもんじゃないと思う。ゆあんくんだってずるい。
「ゆあんくんだって、宝石みたいだよ。ルビーみたい」
透き通るようなルビー。一回お高い宝石店に行ってみたけど、本当に綺麗だった。まぁ、ゆあんくんの瞳にはかなわないけどね。ゆあんくんの瞳の方が、断然綺麗。当たり前じゃん。好きなんだから。
今度は私の番だよ。ゆあんくん。
「好き。大好き。」
「……デートで、さりげなく車道側に立ってくれるところが好き。わんちゃんみたいに甘える時は全力で甘えて、やる時はしっかりやるところも好き。その、お手入れがしっかりしてる髪も……んぐ」
他にも言いたかったんだけど、ゆあんくんに口を塞がれてしまった。……それも両手で。
塞いでも私はもごもご言い続ける。すると、ゆあんくんはくすぐったくてすぐに離してしまった。かわいい……ほんとにかわいい。
ぷるぷる震えてて、トイプードルみたい。耳なんか真っ赤で、ぷるんとした唇は一直線に結ばれている。
「今日は、えとさんの勝ちね」
今日は、という部分もそうだし、勝ち負けっていうこだわりがあるっていうのも謎だけど。とりあえず、なんか勝ったみたい。
「うーん……やったー?」
ささやかな喜びにひたっていたら、思わずゆあんくんの顔を見てしまって。あまりの綺麗さに言葉なんか吹っ飛んだ。ほんと、相変わらず顔がいい。
すっきりと整った鼻筋に、きりりとつり上がった眉。ぴょこんと跳ねてるチャーミングな髪の毛に、綺麗な二重。まつげなんか長くて、バサバサだ。女の私でも悔しいぐらいに綺麗だった。いや、悔しいって気持ちもわかなかった。
「……もうすぐ、十二時だね。」
夜の十二時。もう辺りはすっかり暗くなってて、窓を見ると、星みたいに色んなビルの明かりが目立ってた。上を見あげたら満月。大きな目みたいに、こちらをのぞきこんでいる。
「日付が変わったんだから、次は勝つよ。えとさん」
だから勝ち負けとかじゃない、なんて言えない。暗い窓辺に情熱的な赤がなんとも映える。その瞳に吸い込まれるように、私はゆあんくんに近づいた。もう、ほとんど本能みたいな感じ。
ゆあんくんは力強く私の腕を取る。思わずわっ、て驚いちゃったけど、それ以上に嬉しくて、期待してしまった。
キス……されるのかな。なんて、思っちゃって。また体温が上がる。目をつぶってその唇が何かを感じ取るのを待ったのだけど、何も来ない。
不思議に思って目を開けたら、デコピンを食らった。
「いたぁ……もう!何すんの?!」
意外と痛くて、おでこを必死におさえてると、ゆあんくんは意地悪く笑う。片眉だけつり上がってて、もう、悪役みたいに。
舌をぺろり、って獲物を見つけたみたいな顔して、私の真正面に来る。絵画みたいな顔が、ドアップできた。
私の耳元に近づいて、吐息たっぷりに。ぶるぶると震える私を無視して、ゆあんくんは言った。
「期待した?」
もう、真っ赤になりすぎて。死んじゃうくらいにやばかった。こんなの聞いてない。こんなかっこいいなんて聞いてない。自分の彼氏がこんなにも、ギャップが凄いなんて。
「へへ、俺の勝ち。」
もう負けでいいよ。勝てないよ。これは。
手で顔を覆い隠して、指の隙間からゆあんくんを見た。その顔はあまりにも楽しそうで、あまりにもかっこよくて。思わず目を閉じる。
――モルガナイトはまぶたの奥に。ゆっくりと閉ざされた。