『どうするリョウ? 俺ん家は町営住宅だから猫は飼えないし……』
人間の雄は男か? ふん、男の方がまだまともだ。理に叶ってる。
人間の気分次第でオレ等を振り回してはいけない。
オレ等をペットとして飼うなんて、人間が勝手に決めたエゴだ。
これは先祖代々ずっとそう。巻き込まれる子孫は堪ったもんじゃない。
『このままじゃ可哀想だし、何とかしてあげたいが……』
……前言撤回。
男まで変な理屈を言い出し始める。
お前も同レベルか?
出来もしない妙な屁理屈述べるな。
用が無いならさっさと消えろ鬱陶しい。
「これって助かるチャンスじゃない?」
突然雌の兄弟が馬鹿な事を言い出す。
「ほら、皆でアピールしよ?」
「う……うん!」
それに釣られてマザコンの兄弟まで同意しやがった。
そして一斉の交響鳴団だ。
「お願い助けて! 寒くてお腹空いて死にそうなんです!」
「ママに……ママに会わせて」
戸惑う二人の男女に向けて、兄弟達は必死のアピールだ。うるせぇ……。
媚び売るなよ人間なんかに。どうせ見捨てるに決まってるんだ。
無駄な努力は虚しいだけ。
「ほらアンタもアピールしなさいよ!」
多分オレは空気が読めないのだろう。貝のように黙っているオレに、兄弟が急かしてくるが冗談じゃない。
誇りを捨てる位なら、オレは死を選ぶ。
と、格好いい事言ってみたはいいが、自決の方法が分からないオレ。
舌を噛みきるべきか?
『私ん家なら大丈夫だよ』
いや息を止めとくのが確実か。
でも多分吸うだろうなぁ……て――えっ?
迅速、正確、確実な打開策を導くべく、そんな悶々とした思考の中聞こえた幻聴。
“ワタシンチナラダイジョウブ”
オレの幻聴じゃなければ、女は確かにそう言った。
もしかしたらオレ達は助かる?
いや幻聴というよりは、これは幻覚か?
ナンセンスだ。
仕方ないから女に乗ってみよう。
所詮幻覚、それは一夜の夢幻が如く、だ。
『お祖父ちゃんとお祖母ちゃんしかいないし、きっとこの子達を歓迎してくれるよ。動物好きだしね』
ふぅん……って、お前両親はどうしたんだ?
この女は確かに『私ん家』と言った。
つまり祖父母と暮らしてる事になる。両親抜きで。
まさか……オレ等と同じで、捨てられた境遇なのかこの女?
“だからこそ共感しているのか?”
とまあ、幾らなんでもそれは考え過ぎか――
『家には犬もいるし……』
だが祖父母が動物好きなのは確からしい。
老人は人生の終焉に近いのか寂しがりやが多いので、オレ達のような小動物を心の拠り所にしたがる。
老人はある意味、人間の中で最も害が少ない種族なのかもしれないな。
しかし犬というキーワードに引っ掛かった。
犬は嫌いだ。というより、オレ等と奴等は古来からの天敵同士。
どんな種だろうが、仲良く出来る自信はオレには皆無。
嫌だなぁ……と、すっかりやる気が削がれていたオレに朗報が――
『鶏も沢山いるし……』
鳥か……旨そうだな。それなら悪くない。
きっと地鶏の放し飼いもいるだろう。遊び相手には困らないという訳だ。
それにバーベキューでも開催されれば、旨い部位のお裾分けも有り得る。
『猪までいるしね』
猪か……きっとそれも旨い――って、何故に猪が!?
どんな家庭環境なのよこれ?
幻聴幻覚とは裏腹に、オレはすっかりこいつらに興味を示していた。
『よし、じゃあ取り敢えずリョウの所に連れて行こう。こいつらも寒がってるだろうしね』
男の方がまだ話の分かる奴かもしれない。
多分自分が寒いのだろうが、こちとら何時間も此所で凍えてるんだ。
このままじゃ女のポエムが生い立ちにまで遡りそうだったので、正直助かったといえよう。
『うん、きっとこの子達お腹も空いてるよ。家にミルクあったかなぁ?』
前言撤回。女の方も話が分かる奴だ。
元来牛の乳等、オレ等には栄養価が高くて受け付ける代物ではないが、元より現状は栄養失調だ。
背に腹は代えられない。というより迅速な高栄養補給が、現状では必須項目。
ただし人肌程度には温めとけよ?
猫の舌はデリケートなのだ。猫舌とかほざく人間もいるが、オレ等はそれらの比じゃない。
『もう大丈夫だぞお前達』
――こうしてオレ達は男の手により、ダンボールごと車の後座席に押し込まれ、一先ず九死に一生を得たという訳だ。
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