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え? どういうこと???
「違う! ダフネ嬢、僕たちは何もなかったじゃないか! 何故そんな嘘をつくんだ!」 どう考えても、嘘をついているのはダフネだと確信していたランディリックは、スッと片手を上げてセレンを止めると、ダフネをひたと見据えた。
「お前の言葉が真実なら、医者を呼んでお前の身体をあらためさせても問題はないということだな?」
「ランディ! さすがにそれはやり過ぎだ!」
「やり過ぎ? だが、そうでもしなければ埒があかないだろう?」
「けど……! 処女か非処女か見極めたところで……それがセレン卿のせいかどうかまでは分からない!」
ウィリアムの言葉は、ダフネを守っているようで、実際のところダフネを貶める発言でもあった。
それは、ダフネがもし非処女だったとして、彼女を〝女〟にしたのはセレンだとは限らない、と言っているも同然――。ダフネのことを性に奔放な女性だと言っているとも取れた。
「まぁ確かにお前のいうことも一理あるよ、ウィル」
数年前、まだダフネとリリアンナが一緒に暮らしていた頃、ウィリアムが警備を言い渡された若き貴族たちの社交界のただなかで、ダフネはまるで自身がウールウォード伯爵令嬢であるかのように振る舞っていたという。年の割に発育の良かった彼女の身体へ群がり鼻の下を伸ばすボンクラ貴族の子息たちと楽しげにしていたとランディリックへ吐息まじりに話してくれたのは、他ならぬウィリアムなのだ。
ウィリアムとしては、あの時にダフネがすでに誰かのお手付きになっている可能性も捨てられないと言いたいのだろう。
「だろう!? だとしたら如何にお前にとって憎い相手だとしても、無意味に女性を辱めるのは得策じゃない。考え直すべきだ」
実にウィリアムらしいフェミニストぶりに、ランディリックは惚れ惚れする。
だが――。
「意味は……ある」
「どういう意味だよ!」
「まぁ、落ち着けよ、ウィル。その女が言う通り、彼女が純潔を失ったのがセレン卿との一夜だったと仮定して……。それはたったの数時間前ってことになるんだよ。ウィル、――僕の言っている意味が分かるかい?」
「数時間、前……?」
「ああ、超人でもない限り、まだ傷は癒え切っていないだろうね」
「――っ!」
ランディリックの言葉に、ウィリアムが息を呑み、セレンがホッとしたように力を抜いたのが分かった。
「僕はダフネ嬢と関係など持っていない! ねぇダフネ嬢、嘘だと認めてくれれば恥ずかしい検査なんてしなくて済む。お願いだからあれは嘘だと認めてくれないか?」
ややしてセレンが己の身の潔白を確信したかのようにダフネへ優しく語りかけたのだが――。
「受けます! ここまで尊厳を踏み躙られて検査を受けないなんて……私、ふしだらな女だって言われてるも同然じゃないですか! 昨夜セレン様と〝した〟のが初めてだったのに!」
ダフネの強い眼差しを見て、ランディリックは(そういうことか)と一人得心した。
だが、そうであるならば、もしかしたら……。
リリアンナのことを脳裏に思い浮かべたランディリックは、セレン――セレノ皇太子には申し訳ないが、ダフネの目論見に気付かぬふりをすることで、ゆくゆくはリリアンナを守れるのではないかと瞬時に考えを巡らせた。
「ウィル、ダフネもこう言っている。医者の手配を!」
ウィリアムにそう告げながら、
(ダフネ・エレノア・ウールウォード。この女、使える時がくるかもしれない)
ランディリックは密かにそう思った。
真実などどうでもいい。必要なのは、〝リリアンナを守るために使える材料かどうか〟――。
それだけだ。