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悲しすぎるよーうわぁん泣
阿蒜君…もう、下手したら死んだ二人よりも可哀想な目に遭ってますよね…(。´Д⊂)
悲しすぎて涙ヴォン泣
※死ネタです。ご注意下さい。
とある繁華街の一角―。
そこにあるバーに、二人の男の姿があった。彼らは楽しそうに、何かを語らっている。
柳楽「阿蒜」
阿蒜「あ、はい」
柳楽「もうこの組には慣れたのか?」
男のうちの一人、柳楽和光は舎弟の阿蒜寛太に訊ねた。
阿蒜「…はい!お陰様で結構慣れてきました!…兄貴達は怖いですけど」
青ざめた顔でぶるっと身震いをすると、阿蒜はまた言葉を続ける。
阿蒜「正直、兄貴達は厳しくて怖いので迂闊にミスしたりできないし、慣れたとは言っても大変なことしかないです。…でも、皆本当は俺のことを、いや、若手や組のことを一番に考えてくれる人達なんです。だから、多少大変でも俺はこの組に入って良かったと思ってます」
柳楽「…そうか」
阿蒜の言葉を聞いて、柳楽は何故か悲しそうに下を向いた。つまらない話をしてしまっただろうか。どうにかして、兄貴を元気付けたい。
阿蒜「兄貴達の中でも特に、龍本の兄貴と伊武の兄貴は凄く俺に良くしてくれるんですよ。伊武の兄貴なんて、この前は…」
阿蒜「や、やばい…今月20万は流石にきついな…」
伊武「阿蒜ぅ」
阿蒜「うぇっ?!い、伊武の兄貴!」
伊武「こんなとこで何してんだぁ。…さてはお前、金がねぇのかぁ?」
阿蒜「うっ!…は、はい…」
伊武「金欠なんて、羨ましくねぇなぁ」
阿蒜「ごもっともです…」
伊武「…しょうがねぇなぁ。今日の夜、駅前の居酒屋に来い。奢ってやるから」
阿蒜「えっ?!良いんですか?」
伊武「何だ、嫌なのかぁ?」
阿蒜「え、あ、いえ!ありがとうございます!」
阿蒜「あの人自身、素直じゃないんですけど、本心ではちゃんと舎弟を大事に思ってくれているんです。考えてみれば、俺を組に入れてくれたのも伊武の兄貴ですし…あの人がいなきゃ、今の俺はありませんでした」
柳楽「…そうだな」
話し終えても、柳楽は下を向いている。また、話がつまらなかったのだろうか。阿蒜は更に焦った。
阿蒜「あ!そういえば、龍本の兄貴も…」
黒澤派A「おい阿蒜ぅ」
阿蒜「うっ…は、はい…」
黒澤派A「お前も黒澤派につけよ。楽だぞぉ?将来も約束されるしよぉ」
阿蒜「そ、それは…えっと…」
龍本「おい、コラ」
黒澤派A「うっ!」
龍本「いい加減にしろ。こんな新人にどっちにつくも何もねぇだろうが」
黒澤派A「…チッ!…」
龍本「ったく、どうしようもねぇ奴等だな」
阿蒜「…あ、あの!龍本の兄貴…あ、ありがとうございました!」
龍本「ああ?別にいいよんなもん。舎弟が変なのに絡まれてたら助けるのは兄貴分の役目だからよ」
阿蒜「あの人はとにかく仁義や任侠に生きてて、怖いところもあるけど凄くかっこよくて優しい人なんです。何で舎弟からの人望が厚いのか、すぐに分かりました」
柳楽「…そう、だな…」
何かに耐えられなくなったように、柳楽は唇を噛み締め、涙を流した。
阿蒜「柳楽の…兄貴…?どうして泣いてるんですか?」
首をかしげる阿蒜。
柳楽「良かったな、阿蒜…お前の周りには良い奴が沢山いて、本当に良かった」
無愛想な普段からは考えられないほどに優しい顔に少し戸惑った。
阿蒜「え…あ、はい…」
柳楽「こう見えても俺はそういう話が好きだからな、時間があるときだったらいつでもあいつらのことを話してくれ。俺でよければ聞いてやるから…」
阿蒜「そ、そう言われると…なんか嬉しいです。ありがとうございます!」
柳楽「…すまないが阿蒜、今日はもう席を外すことにする。情けねぇもん見せて悪かったな」
目元を拭いながら、柳楽は席を立った。
阿蒜「え、あ、ちょっと!兄貴?!」
柳楽「グウウウウ…!!阿蒜…!」
眉済「柳楽、お前が悪い訳じゃない。…聞いてやっただけなんだろう?あいつの話を」
柳楽「何でも良い、何か無いんですか…!あいつを元に戻す方法は…!」
眉済「…あいつの周りには、良い奴が多すぎた。…それだけだ」
阿蒜「ご馳走さまでした!龍本の兄貴!めっちゃ美味かったです!」
伊武「…今日は、ありがとうございました」
龍本「いいよ、そんなもん。安いもんだ」
阿蒜「そんなことないですよ!俺、この頃マジで金がなくて、兄貴が奢ってくれなかったら餓死してたかもしれませんし…」
伊武「ただでさえ若手が少ないのに、そんな理由で死なれたら困るなぁ。羨ましくねぇなぁ」
龍本「ははは、全くだな!」
その日も、河内組のシマである花宝町は賑わっていた。阿蒜も、伊武も、龍本も、皆いつも通りに帰ってくる。
…はずだった。
龍本「……!!阿蒜、伊武、下がれ!!!」
阿蒜「えっ…?」
伊武「っ!龍本の兄貴っ!!」
2つのライトが闇に広がる。
…その瞬間、「ドンッ!」と大きな音が、夜の町に響き渡った…
闇医者「まず、阿蒜君の方は大丈夫だ。一命は取り留めた。
…でも、あとの二人は…残念だ…」
柳楽「おい、嘘をつくな!あいつらがそう簡単に死ぬわけねぇだろうが!」
闇医者「…出来る限りのことはした。本当に、すまなかった」
眉済「やめろ柳楽!手は尽くしたんだ、これは仕方がなかったことなんだよ…!」
柳楽「くそ…!龍本…!伊武…!」
あの時、龍本は伊武と阿蒜を守るために死に、そして、伊武はその龍本を助けようとして死んだのだった。
眉済「あいつは…阿蒜は、まだ現実を受け入れられていねぇんだよ」
柳楽「…やはり、無理にでも真実を伝えるべきかと」
眉済「それだけは駄目だ。闇医者も言っていただろ。無駄に揺さぶったら、余計にあいつを傷付けちまうんだよ」
柳楽「それでも、あいつはまだ若いんです。そんな身空であんな目に遭うなど…」
眉済「柳楽、お前の気持ちは分かる。だが、俺達はプロの精神科医じゃねぇんだ。
…今は何も触れないのが最善なんだよ」
阿蒜「…ふぅ、今日も大変だったなぁ。兄貴達はパワハラしてきて怖いし、人は死ぬし」
花宝町のネオンの中、阿蒜は独り言を言いながら歩いていた。
…独り言と共に、目から次々に光るものが溢れて、頬を濡らす。
阿蒜「…龍本の兄貴…伊武の兄貴…」
笑顔を涙で濡らしながら、兄貴分達の名前を呟く。
阿蒜「俺、あなた達のこと大好きですよ。俺…あなた達にずっと、着いていきますから…」