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朝。
ノアは、静かに目を覚ました。
天井の木目が、やけにくっきり見える。
「……?」
胸に、何もない。
不安も、悲しみも、
何も浮かばなかった。
⸻
アイリスが、薬を持ってくる。
「……ノア、気分は?」
「……普通」
その声は、平坦すぎた。
アイリスの表情が、曇る。
「……レイヴンのこと、分かる?」
ノアは、ベッドの横を見る。
包帯だらけの青年が、眠っている。
「……仲間、だよね」
アイリスの手が、震えた。
⸻
昼。
ノアは、淡々と装備を整えていた。
「……体、まだ休め」
レイヴンが、かすれ声で言う。
「……問題ない」
ノアは、彼を見ない。
その態度に、レイヴンは違和感を覚える。
「……昨日のこと、覚えてるか」
「……何か、あった?」
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
⸻
森を進む三人。
魔物が現れる。
ノアは、無表情で殲滅する。
いつもより、強い。
でも――
無茶が、ひどい。
「ノア、下がれ!」
「……不要」
致命傷すれすれの攻撃を、平然と受ける。
血が流れても、眉一つ動かさない。
⸻
戦闘後。
レイヴンは、ノアの腕を掴む。
「……お前、どうした」
「……離して」
「……昨日、お前……」
「……興味ない」
その言葉に、
レイヴンの顔色が変わる。
「……嘘だろ……」
⸻
夜。
焚き火の前。
ノアは、一人で剣を研いでいた。
カイの指輪を、無意識に弄ぶ。
でも――
何も、感じない。
「……これ、大事なものなんだよな」
独り言みたいに呟く。
⸻
アイリスが、そっと座る。
「……禁呪の代償よ」
「……代償?」
「……感情の一部を、持っていかれたの」
ノアは、首を傾げる。
「……不便?」
アイリスは、目を伏せる。
「……ええ。
とても」
⸻
その夜。
レイヴンは、眠れずにいた。
ノアが、見張りに出ている。
彼女の背中は、やけに遠い。
⸻
見張り交代。
「……寒い」
ノアが、淡々と言う。
レイヴンは、マントをかける。
「……前は、俺のマント嫌がったよな」
「……そうだった?」
胸が、裂けそうになる。
⸻
小さな村。
子供が、泣いている。
魔物に家族を殺されたらしい。
ノアは、無表情で言う。
「……復讐なら、手伝う」
アイリスが、慌てて止める。
「ノア、違う……」
子供は、怯えて後ずさる。
「……怖い」
その言葉に、ノアは首を傾げる。
「……私は、怖くないけど」
⸻
夜。
レイヴンは、限界だった。
「……なあ」
「……何」
「……俺のこと、どう思ってる」
ノアは、少し考えてから言う。
「……信用できる仲間」
それ以上、何もない。
⸻
その瞬間。
胸の奥が、ズキッと痛んだ。
ノアは、突然膝をつく。
「……っ……!」
視界が、歪む。
頭の中に、断片的な映像が流れ込む。
――泣いてる自分。
――抱きしめてる自分。
――「失うのが怖い」って叫ぶ自分。
「……なに……これ……」
ノアの目から、
突然、涙が落ちる。
「……なんで……泣いてるの……」
レイヴンが、駆け寄る。
「……ノア!!」
「……胸が……苦しい……」
理由が分からないのに、
心臓だけが痛い。
⸻
アイリスが、呟く。
「……感情が“完全に消えた”わけじゃない……」
「……蓋をされてるだけ……」
⸻
ノアは、震えながら言う。
「……レイヴン……」
「……あなたの名前……
呼ぶと……
胸が……変になる……」
レイヴンは、息を呑む。
⸻
ラスト。
ノアは、夜空を見上げる。
「……私は、何かを失った。
それが何なのか、まだ分からない。
でも……
“大切だった”ってことだけは、
体が覚えてる。」
遠くで、
黄昏の徒の紋章が、また浮かぶ。