テラーノベル
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夜は、どこか湿っていた。
焚き火の火が、静かに揺れている。その橙色の光が、アルトの横顔を不安定に照らしていた。
フィリアは、何も言わず隣に座っている。
ただ、待っている。
アルトが話すのを。
「……なあ」
ぽつり、と。
ようやく口を開く。
「前に言ったよな。あいつが……全部終わらせたって」
フィリアは、静かに頷いた。
「うん」
アルトは視線を火に落としたまま、続ける。
「……あれ、半分は正しい」
その言葉に、空気が少しだけ重くなる。
「でもな」
指先が、わずかに震える。
「もう半分は……俺だ」
フィリアの呼吸が、ほんの少し止まる。
「アルト……?」
問いかける声。
「俺は、あいつと同じチームだった」
火が、ぱちりと弾ける。
「環境化学。世界を“守る”ための研究」
皮肉のように、その言葉を吐く。
「人類が壊したものを、どうやって元に戻すか。それを考えるはずだった」
少しだけ、笑う。
乾いた音で。
「でも、間に合わなかった」
視線が、遠くを見る。
「全部、遅すぎたんだ」
沈黙。
フィリアは、ただ聞いている。
「……シオンは、誰よりもそれに気づいてた」
その名を出すときだけ、声が揺れる。
「だから、あいつは選んだ」
「選んだ……?」
フィリアが、小さく繰り返す。
「ああ」
アルトは頷く。
「人間を残すんじゃなくて、“世界を残す”方を」
その言葉は、冷たく響いた。
「植物の進化を加速させる計画。この進化で何が起こるかは分からないけど、人間の手じゃもう止められないなら、全部ひっくり返すしかないって」
フィリアの手が、わずかに握られる。
「でも、それって……」
「わかってる」
アルトが遮る。
「滅びるってことだ」
はっきりと、言い切る。
「人間は、生き残れない」
焚き火の火が、揺れる。
「……俺は止めた」
その声は、低く沈んでいた。
「当然だろ。そんなの、認められるわけない」
拳が、ぎゅっと握られる。
「でも、あいつはやめなかった」
静かに、続ける。
「“もう遅い”って言って」
フィリアは息を呑む。
アルトの声が、少しずつ崩れていく。
「それでも、止める方法はあった」
顔を上げる。
その瞳は、どこか遠くを見ている。
「コールドスリープ施設の装置を止めれば、アイツの計画の装置も全部止まるはずだった」
フィリアの胸が、ざわつく
「無理だった」
一瞬で、言い切る。
空気が止まる。
「……え?」
「俺は……」
アルトの声は、驚くほど静かだった。
「迷ったんだ……だから」
ほんの少しだけ、笑う。
壊れたみたいに。
「遅かった」
その一言に、すべてが詰まっていた。
「もう、止まらなかったんだ」
目を閉じる。
そして。
「俺が決断できなかったせいで」
ゆっくりと、言う。
「人類は滅びた」
フィリアは、何も言えなかった。
ただ、その言葉の重さを受け止めるしかない。
アルトは、静かに続ける。
「……あいつは、自分がやったって顔してる」
少しだけ、息を吐く。
「全部、自分で背負うつもりだ」
焚き火の火が、小さくなる。
「でも本当は」
かすれた声。
「俺も同じなんだよ。止められなかった」
沈黙。
長い、長い沈黙。
そのあとで。
フィリアが、そっと口を開いた。
「ねえ」
アルトは、顔を上げない。
「それでも」
やさしく、でもはっきりと。
「アルトは、生きてる」
その言葉に、アルトの呼吸が止まる。
「ここにいる」
静かに、手を重ねる。
「それは、間違いじゃないよ」
アルトは、何も言えない。
ただ、視界が滲む。
それが何なのか、認めたくなくて。
目を閉じた。
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#オリジナル
めんだこ
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