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同じ夜。遠く離れた、影の濃い森の奥。
空気は冷たく、光はほとんど届かない。
その中心に、シオンは立っていた。
「……アルト」
小さく、名前を呟く。
誰に聞かせるでもなく。
その隣に、花人がいる。
静かに、寄り添うように。
「会えたのね」
やわらかな声。
シオンは、少しだけ笑った。
「ああ」
短く答える。
「生きてたんだ、クレハ……アルトが」
その言葉に、ほんのわずかな安堵が滲む。
クレハは、それを見逃さない。
「……よかった?」
問いかける。
シオンは一瞬だけ沈黙して、それから頷いた。
「うん」
素直に。
「すごく、よかった」
そのあとで。
少しだけ目を伏せる。
「でも」
声が、少しだけ低くなる。
「だから困る」
クレハは何も言わない。
ただ、続きを待つ。
「……あいつは、優しすぎる」
シオンの視線が、遠くを見る。
「だから、壊れる」
静かに言う。
まるで、決めつけるように。
「僕がやったことを知ったら、きっとあいつも背負おうとする」
クレハの手が、わずかに揺れる。
「……もう、背負ってるんじゃない?」
その言葉に、シオンは目を細める。
「……かもな」
小さく、呟く。
そして。
「だからこそ、離す」
はっきりと、言う。
「これ以上、巻き込まない」
クレハは、静かに息を吸う。
「それって」
少しだけ、声が揺れる。
「守ること?」
シオンは、迷わなかった。
「そうだ」
即答する。
その瞳に、揺らぎはない。
「全部、僕が背負う」
その言葉は、あまりにも強くて。
あまりにも、壊れていた。
クレハは、ほんの少しだけ俯く。
「……ずるいね」
ぽつり、と零す。
シオンは反応しない。
「あなたは全部、自分で決めてしまう」
静かな声。
「私に、分けてくれないのね」
その言葉に、ようやくシオンが視線を向ける。
クレハの瞳は、揺れていた。
「……クレハ」
名前を呼ぶ。
けれど、その先は続かない。
クレハは、小さく笑った。
「大丈夫」
やさしく言う。
「それでも、そばにいるから」
その言葉は、フィリアとどこか似ていて。
けれど、少しだけ違う。
もっと静かで、もっと痛い。
シオンは、目を伏せる。
「……ごめん」
その謝罪は、誰に向けたものか分からない。
夜は、深くなる。
誰も救われないまま。
それでも、世界は静かに息をしていた。
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#オリジナル
めんだこ