次の日、社長室には、まだミニミニ壱花とヒトガタ箒がいた。
ちょこんとスチール棚の陰から覗いてくるミニミニ壱花は原型が自分とも思えないほど可愛いらしい。
倫太郎も飴をやったりして可愛がっているようだった。
……私にはあんなにやさしく微笑みかけないのにな。
少しうらやましく壱花が見つめていると、
「どうした。
お前も飴が欲しいのか」
と言って、ほれ、とくれる。
いえいえ。
そういうわけではありませんよ、と思いながらも壱花はその小さな飴を口に入れた。
「そういえば、結局、昨日の式神、ふたりとも消えちゃいましたね」
壱花の頭の中では、二枚のヒトガタがボロボロになりながら、街を彷徨い、崖を転がり落ちていた。
「……なんか被害を広げてしまっただけのような気がしてきました」
「まあ、そのうち目撃情報でも入るだろう」
そしたら、迎えに行ってやれ、と倫太郎は言う。
「そんなことより、ここは掃除しないよう、掃除のおばちゃんたちに言っといてくれ」
「え?」
「……箒が暇そうだから」
と倫太郎は今日もチリひとつない床で、意味もなく箒代わりの足を動かしているヒトガタを見る。
なんだかんだでやさしいよな、社長、と思いながら秘書室に戻ると、冨樫が、
「風花。
これとこれも、昼までに」
と言って、会議の名簿を渡してきた。
「それと――」
と少し迷ったあとで、訊いてくる。
「今日は暇か?」
「はあ、開店までは」
あやかし駄菓子屋が開店したら、何処にいようとも引っ張られるので、何処まで出かけていても平気だ。
あっ、待てよ。
ってことはっ、と気づいて、壱花は小声で冨樫を呼んだ。
「冨樫さん、冨樫さん。
今、気がついたんですけど。
この仕掛けを利用すると、海外旅行、片道切符で行っても帰ってこれるってことですよね?
夜にはあやかし駄菓子屋に転移して、朝には社長の部屋なわけですから」
「……そうだが。
海外から一日で帰ってくることになるよな。
十何時間かけて移動して、さて、観光しようと思ったら、日本時間の夜になり。
引き戻されるのがオチだと思うが」
そうか、しまったあああっ、と壱花は頭を抱える。
「あっ、じゃあ、社長に先に海外に行っておいてもらって……」
「仕事しろ」
最後まで言い終わらないうちに、話を打ち切られた。
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