TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する


「お姉様、歩けますか……?」

ホテルの入り口前で立ち尽くす私を、シェナはそっと支えてくれた。

ガラス扉に、私とシェナの寄り添う姿が映っている。


「うん。大丈夫……」

ただ歩を進めることさえ、気力が必要だった。

シェナが居なければ、その場にへたり込んでいる。


でも、早く部屋に戻らないと、ウレインが気をかけてくるに違いない。

そうでなくても、他のスタッフが。


「お戻りですか聖女様――大丈夫ですか?」

案の定だった。


ウレインは自動のガラス扉を開かせて、出迎えてくれた。

だけど、今は答えることさえ、いちいち気を張らなくては出来ない。



「寄るな。問題ない」

私が口を開く前に、シェナが制してくれた。


「さ、左様ですか。では、何かありましたらお声を――」

全てを言い切る前に、察したウレインは下がってくれた。


……エレベーターまで、もう少し歩かなくては。

何という体たらくだろう。

魔王さまがお辛いのであって、私なんか関係ないのに。


――私なんか。

私はお側に居ても、過去の魔王さまをお支えすることが出来ない。

過ぎてしまったことに、私は手を差し伸べられない。


「もう少しです。お姉様」

その声に、いつの間にかエレベーターで部屋に戻りつつあることを知った。


とりあえず、ソファかベッドに倒れ込みたい。

足に、力が入ってくれない。



**



部屋に入るなり全身の力が抜けた私を、シェナは読みきっていたかのように抱き上げてくれた。

そのまま寝室に移ると、ベッドにそっと寝かせてくれて。


「お水をお持ちします」

そして水を飲ませてくれて、そのまま寝かしつけられた。

あまり考え過ぎないようにと。



だけど、魔王さまのことを考えずにはいられない。

私には想像も出来ないような、過酷な目に遭われていたこと。

それでも這い上がり、魔族を率いるお立場にまでなられたこと。


そんな過去を、微塵も感じさせないこと。

でもやっぱり、夢にうなされておられること。

眠れていないかもしれないこと。


――私には、何ひとつおっしゃってはくれないこと。

それは、私に負担をかけないためだろうか?

それとも、もうほとんどをご自分で乗り越えられたから?

でも、うなされていた。


――こんな小娘では、何の役にも立たないと。

そう思われているのではないかと、それについても考えてしまう。


――それじゃあ、商工会ギルドの会長に言われた通りだ。

ただの愛人。

捌け口に抱くだけの情婦。


――だって、それしかお役に立てていないのだから。




そんなことをぐるぐると考え続けていると、いつの間にか眠ってしまったらしい。

意識が戻ってきたのを感じて目を開こうかと思った時に、くちびるに柔らかいものが触れた。

温かくて、心地良くて、甘い香りがする。


「あ。起きたぁ? あんまり寝苦しそうな顔してるからぁ、チューしちゃったぁ」

「は?」

リズが顔を離していくところからぼんやりと見えていて、焦点が合ったころには、その言葉が聞こえた。


「こ……この人は! 人が思い悩んでるときに、何すんのよ!」

だけどくちびるの余韻がこそばゆくて、ぺろりと舐めた。

「ふふ~ん?」

勝った。という顔をするから腹立たしいのに、余韻のせいで怒る気になれない。


「もう。リズはそういうの、ズルいんだからね」

「でもぉ。ちょっとは元気になったでしょぉ?」

さらに、白くて綺麗な指先で私の頬を、ぷにぷにと指す。

「…………」


「それでぇ? 魔王様のカコ、聞いちゃったんだ?」

そのへ文字になった眉は、どういう気持ちの表れなんだろうか。


「リズは知ってたの?」

「まさかぁ? 私もシェナに初めて聞いたのよぉ」


「悲しくならない? 魔王さまが、どれだけお辛い思いをされたのかって」

「そりゃあ、ちょっとくらいはねぇ。でもぉ、今は、あなたが居るからいいんじゃない?」

その存在意義を、悩んでいるのに。


「わかんないのぉ?」

「わかんない」

だと思って、キスしたのに。と言う。



「意味わかんないんだけど」

「えっ? 元気になったじゃない」


「……キスしろって、こと?」

リズは大きく息を吸ったかと思うと、大きなため息で落胆した。


「ほんとおバカさんよねぇ……。愛情を捧げなさい、って言ってるのよ。私たちにはそれしか出来ないし……昔のことなんて誰にも、どうにも出来ないでしょうが」

それに――、と。



「愛情を一番近くで捧げられるのは、あなただけなのよ? サラ」

そう言われると、なんだか急に、自分がトクベツなもののように思えた。


「私だけ……」

「分かったら、今夜もい~っぱい、抱かれてくるのねぇ」


さっきまで、自分はただの情婦のようだと思っていたのに。

妻として、誰にも負けない愛情を注げばいいのかなと、そう思えるようになった。

聖女級の治癒力でも、魔族だとバレるのはよくないようです ~その聖女、魔族で魔王の嫁につき~

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

47

コメント

1

ユーザー

お読みいただき、ありがとうございます! アプリの方はハート貰えると嬉しいです~! 「おもしろかった~」「よい」「続き気になる~」「ナイス」などなど、 一言コメントもたくさんお待ちしております!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚