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この世界には、神が存在するのだと言う。神が本気で願っていると判断すれば、神はその人の前に現れるのだそうだ。
俺、青井は小学生5年生の夏、いじめにあい、過保護な親は俺を転校させた。転校先の学校では、極力人と関わらないようにしようと考えていた。いじめにあってなお、人に希望を持ち、友達をつくろうとは思えなかった。だが、いつも1人でいた俺に、話しかけてくる奴がいた。
「ねぇ!一緒に遊ぼうよ!」
そいつは佐藤と言って、毎日何回も懲りずに 遊ぼう と誘ってきた。最初は戸惑い、何も出来なかったが、佐藤の明るい口調や笑顔に引っ張られ、佐藤と、そして佐藤のまわりのクラスメイトと遊ぶようになり、俺はいつしか、人に希望を持つようになった。いじめだの、転校だのでギクシャクしていた家族も、俺に友達ができた事で雰囲気が和らぎ、佐藤の母と俺の母さんはよくカフェに行ったりもしていた。
だから佐藤には感謝している。俺を引っ張り、救ってくれた佐藤には。そして、ずっと一緒に居られたらいいとも思う。
俺はそいつが好きなんだ。昔も 、今も。
だから、佐藤と一緒に お揃いだ と言って買った指輪は、その時にした約束と一緒に大切にしている。
その時期からはもう10年が経ち、佐藤とは中学校が別れ、それから会っていない。俺はサラリーマンとなり、平凡に暮らしている。10年も経った今でも、佐藤が夢に出てきては、笑って去って行く。最近は、泣いていたり、膝を抱えて座っていたりもする。俺は自分でもびっくりするほど、佐藤のことが好きだ。
「青井、これ、部長が明日の朝までにやっておけって」
「…多いな。わかった、ありがとう津島」
津島は、会社で仲良くなった同僚だった。自分で友達をつくるなど、佐藤に出会わなければ、絶対に出来なかっただろう。
「えぇ〜!先輩〜!それ今からやるんですか!?もう定時 過ぎてますよぉ…そんなにたくさん…」
「田中?…あぁ、明日の朝までなら、今日やるしかないからな。」
本当に、こんなに人と話せるようになったのも、佐藤のおかげだ。
「でも、その量は大変ですよ!青井先輩、昨日も残業してたじゃないですかぁ〜」
「大丈夫だよ、早く帰りな」
本当に、佐藤には感謝している。だからって、10年経った今でも好きでいるのは変かな…
「無理はしちゃダメですっ!」
「まぁまぁ、青井が大丈夫って言ってるんだから」
「津島先輩まで…いや、やっぱりダメです!私、これやります!!」
「あ、田中!……青井、後で礼くらい言っておけよ?無理矢理 持って行っただけだけど、手伝ってくれた事に変わりはないんだから」
「ん?…あぁ、わかった」
「……それにしても、青井、最近よく田中と話してるな」
「そうか?」
「……。青井って、女に興味ないの?」
「ん?…まぁ、少しはあるけど。なんだよ、いきなり」
「……。まぁ…いいけどさ…」
ピピピピ
……今日は休みか。……いや、違う。今週末は久しぶりに家に帰って来い と親に言われていたんだった。別に実家が遠い訳とかではないが…休みの日に外に出るのは、少し面倒だな…
着いた。
ピンポーン
「はーい、おかえり〜」
「ただいま、母さん」
「どーぞ、入って〜」
家は全然変わらないな
「おかえり」
「ただいま、父さん」
2人とも、少し老けたような気がするが…まぁ、元気そうで良かった。
母さんが入れてくれた紅茶をのみ、3人で食べようと俺が来る途中に買ってきたケーキを食べる。食べ始めると、母さんが何かを思い出したように呟いた。
「あ、そういえば」
「ん?」
「佐藤さんって覚えてる?ほら、転校した小学校で同じクラスだった…」
「!?…うん、覚えてるよ!」
一瞬だって忘れた事のないその名を久しぶりに他者の口から聞いて驚いたような、興奮したような感覚に襲われる
「その子のお母さんとね、この前久しぶりに、最近できたオシャレなカフェに行ったの。それで、お母さんから聞いたんだけど、あの子の上司がすごく理不尽な人らしくて、色々大変みたいなのよ」
ガシャ
おれのどこかでなにかがくずれるおとがした
「そんな仕事、辞めてしまえばいいじゃないか」
「そんな簡単にもいかないそうなのよ」
2人の会話が、だんだん遠くなっていく気がした。
俺が呑気に生きている間、佐藤はそんなに苦労していたのか。助けたい。佐藤が俺を救ってくれたように、俺も佐藤を救いたい。
救いたい。救いたい。救いたい。救いたい。
「……、 …い! おーい!」
「!? あ、あぁ、ごめん、なに?」
「…大丈夫か?笑 お前も今日は疲れただろう。明日も休みなら、泊まっていくといい」
「そうね、それがいいわ」
「……うん、ありがとう」
救いたい。救いたい。救いたい。
それだけを考えながら、夕食を食べ、風呂に入り、そのまま寝た。
目を閉じ、 次に目を開くと、 そこにはさっきまで見ていた天井はなかった。
その変わりに、目の前には人が立っていた。女か男かも分からないくらい、その人は光っていた。光で顔が見えないくらい、光っていた。分かるのは、その人がやたらと豪華な服を着ているという事くらいだ。けれど、その光は決して眩しいと感じるものではなく、温かく、落ち着く光だった。
「不思議だ…」
長い静寂
やがてその人はゆっくりと口を開いた
「君には、どうしても叶えたい願いがあるね」
「まります」
どうしても叶えたい願い と聞いて、佐藤を救いたいという思いが反応し、すぐに答えが口にでた。
「そうか」
また、ゆっくりと呟く。
「では…その願い叶えよう」
「本当ですか!?」
なぜか疑惑や驚きよりも、希望や嬉しさが膨らんだ。
「あぁ。だが…それには代償が必要だ」
「代償…俺の命…か……?」
そんな、ファンタジー世界にしかないような設定、ある訳がないと思うのだが、それが正解である気がした。
「そうだ」
「じゃあ代償は払います。佐藤を助けてください」
俺はどうなってもいい。佐藤を救えるのなら、俺の命など惜しくない。
「本当にいいのか?君が居なくなった後のその子を想像してみなさい」
佐藤の…その後……?
上司から解放されたら、自分の好きな仕事をして、楽しく生きて欲しいなぁ。それで、新しい上司や同僚、部下とかも…?友達とかもたくさんできて……あ、あいつの事だから、恋人とかもできるかな?
恋人……。俺の事は忘れて、恋人と2人で…
………それは…嫌だな。
あいつが俺を忘れるのは嫌だ。恋人なんて、もっと嫌だ。俺を見てほしい。俺だけを……
「で、どうする?」
「………………」
いや、でも俺は、佐藤に救われた。佐藤が幸せならそれで……いや、でも…でも……
考えた。考えて 考えて 考えた、俺の答え
「俺の命は差し上げます。佐藤を救ってください」
俺は、佐藤が好きだ。だから、あいつの幸せを願うべきだと思った。
それがエゴだとしても、偽善だとしても。胸を張って佐藤が好きだから と言い切り、佐藤の為に生き、佐藤の為に死にたい。
「わかった。では、願いを叶えよう」
青い
休みになった今日。お昼ご飯を食べながら、何気なくニュースを流していた。
『次のニュースはです。20代サラリーマン、実家で死亡。サラリーマンは、連休をとり、帰省し、そのまま実家に泊まりました。次の日の朝、なかなか起きてこないため、両親が様子を見に行くと、まだ起きていなかったため、起こそうと体に触れると、体が冷たくなっており、急いで救急車を呼ぶも、救急車が到着した時には既に死亡していたそうです。警察は、未だに死因がわかっていないと話しており───』
プツ
「怖いニュースだなぁ」
そうは言っても、そう思えるようになったのは、今日の朝からだった。昨日までなら、この人を羨ましいとさえ思っただろう。
だが、今は違う。
なんだか、誰かに支えられている気がする。
ずっとつけている指輪を窓から差す日の光に重ね、あの時の約束を思い出す。
“ずっと一緒だよ!”