「..ぬ..りいぬ、そろそろ起きて」
体を優しく揺さぶられる感覚と聞きなれた安心する声が耳に入りゆっくりと意識が浮上する。
「ほらりいぬ3限に間に合わなくなるぞ..?」
さとみくんの言葉にすら反応したくないくらい今の俺は学校に行きたくない。
「…莉犬起きないなら俺先行っちゃうからな」
さとみくんはそんなことしないと知っているけれど、その言葉に体が反応して勢いよく布団から起き上がる。
「..w」
少しからかうような顔で俺を見つめるさとみくん。なんだかすごく恥ずかしくなって布団に顔をうずめた。
「ごめんって莉犬。ほら莉犬の好きなスープ作ったからそれ食べて行くぞ」
そう言い差し出された暖かいスープ。熱すぎる訳でもなくかと言って冷めてもいなくて、俺の舌によく合った俺の大好きなスープ。
「んふふ」
心まで暖かくなってつい笑みがこぼれてしまう。
「….ねぇ莉犬」
突然少しトーンの暗い声が聞こえてきてスープを食べるのを辞めさとみくんへと目を向けた。
さとみくんは申し訳なさそうな、気まずそうな、そんな顔をして俺を見ている。
なんだろう嫌な予感がする。
「…どうしたの..?」
「…あのさごめん莉犬。しばらく莉犬の家来られなくなっちゃった」
「…え」
突然のことに驚いて言葉が出ない。
いまなんて言ったの。
来られないって
どうして、なんで、俺の面倒見るの嫌になっちゃった..?それとももしかしてずっと嫌だった?
言い出せなくて言うタイミング探してたの?
色んな言葉が頭の中をぐるぐると回って焦りで視界が滲んでいく。
「莉犬そんな顔しないで..」
「莉犬が寝てる間に親から連絡あって、」
「俺の母さんが倒れちゃったらしくてさ、しばらく家の家事しないといけなくなったんだ」
「突然のことだったから、ごめんな莉犬」
「でもその代わり毎日連絡するからさ」
俺を落ち着かせるように頭を撫でてくれるさとみくん。
それでも尚焦り続ける俺の心とその理由に安心してる心がごちゃ混ぜになってなんとも言えない気持ちになる。
そうだ。そうだよそもそも約束をしてた訳じゃないんだから。善意でさとみくんは毎日俺の家に来て色々してくれてた訳で…
さとみくんのお母さんが倒れたなんて大変なんだから俺の相手なんかしてる場合じゃないよ。
大丈夫大丈夫大丈夫
「ほんとごめんな..」
だからさとみくんは謝る理由なんてひとつもない。
だって親が倒れたなんてどうしようもない。
俺はただでさえさとみくんにおんぶに抱っこで頼りすぎなんだから、これを機に1人で生活できるようにならなくちゃ..だよね
「大丈夫..俺頑張る…さとみくんいなくても俺1人で生活できるようになる、、から」
「ほら学校行かないと、3限間に合わなくなっちゃう…から、」
不安だった。
ずっとなんてないとは分かっているけれどそれでもずっとさとみくんは来てくれるって心のどこかで思ってた。
泣いてしまいそうだった。ねぇしばらくってどれくらい?
合わない間に離れてっちゃったらどうしよう。
…さとみくんと会えない間俺ストーカーどうしたらいいの。
さとみくんがいたから色んなものに耐えられてきたのに。
今までに感じたことの無いような先の見えない不安に押しつぶされてしまいそうだった。
残ったスープは味がしなかった。