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わたしはほっと息をついた。
おばあちゃん、ナイスタイミング。
「あ、藍子さん。ごはんはいいけど、話があるんだ。少しだけ、こっちに来てもらえますか」
「なんだい?」
祖母は居間に入ってきた。
「これから2、3カ月ほどの間なんですけど、ちょっと優ちゃんにうちに通ってもらいたくて」
「うちって。玲伊ちゃんの店に?」
「はい」
玲伊さんは企画書を祖母に渡し、事情を説明した。
「書店のお仕事に支障がないように配慮はしますが、藍子さんにもご迷惑をかけてしまうかもしれませんのでご了承いただけるとありがたいのですが」
にこにこしながら祖母は「いいよ、いいよ」と快諾した。
「いやいや、店の方はなんとかなるよ。どうせ、そう客が来る訳じゃなし。それより、こっちからお願いしたいぐらいだよ。優紀、もう25歳にもなるのに、色気もしゃれっ気もなくて、気を揉んでいたぐらいだからさ」
「そう言っていただけて、良かったです」と彼は嬉しそうに微笑んで立ちあがった。
「もう帰るのかい?」
「はい。お邪魔しました。じゃ、優ちゃん。またね」と言いながら、玲伊さんは帰っていった。
「しかし、いつ見てもいい男だねえ、玲伊ちゃんは。眼福、眼福」
彼が帰ったあと、しみじみとそう漏らし、祖母は台所に戻っていった。
わたしは心のなかで、鳴海ちゃんのお母さんや祖母に完全に同意していた。
うん、玲伊さんほど素敵な人なんて、他にはいない。
だから余計、あんなふうに、わたしをからかうのはやめてほしい。
望みのない期待なんて、抱きたくない。
わたしはさっき読んだ絵本を思い出し、そして思った。
でも、現実はいつもハッピーエンドになる訳ではないのだ、と。